159話 ドラゴン襲来
「パール聞こえますか? パール返事をしてください!」
リーラ様は先ほどから、しきりに誰かに呼び掛けている。
出した魔晶石は手遅れ感が凄いがリーラ様の指示で一旦俺のアイテムボックスに戻した。
ちなみに、ジャンピング土下座をかまして、今も自主的に正座待機中だ。
「他の分体を通して、使徒達に呼び掛けてみましたが、応答がありません。 急に大量の魔晶石の反応が現れ、すぐに消えた事で少しパニックを起こしているようで、こちらの呼び掛けに気が付いていないようです」
「エンシェントドラゴンがパニックを起こすんですか?」
「是です。 30を超える魔晶石が一箇所に集められた事はこの世界の創世より一度もありません。 魔晶石を欲するのは神々に敵対する勢力の者達も同じですから、その者達の手に渡らないように、あの子達も必死なのです」
あれ、もしかしなくてもやっちまった?
「もっと大きな声で呼び掛けるとか、他の分体を直接向かわせるとかはできないんですか?」
「私を含め分体は、この世界に影響を与えないように、それほど強い能力は有していません。 エンシェントドラゴンともなれば分体の力では補足もままならないのです」
「魔晶石を使ってブーストするとかは駄目なんですか?」
まだ遠くに居るドラゴンに声を届ける魔法とかなら、ブースト出来るんじゃなかろうかと思ったのだが、何か禁則事項でもあるのだろうか?
もし、どうしようもないなら、前に倒したドラゴンのコードの下桁を1つずつ足すなり引くなりして、順番にHP0にしてやれば絶滅させる事は可能かもしれないが……。
……む、イカンな発想が悪人寄りになっている。
「本来はこの世界維持と運営に使用する権限しか持ちませんが、致し方ありませんね。 安定と調和を自らの使徒によって乱したくはありません、更に権限を行使します」
魔晶石を1つで良いから欲しいというので、すぐに献上する。
リーラ様がその魔晶石を掲げると、一瞬で光の粒子に変わり、その粒子が渦を巻くように辺りを漂い、様々な色に輝きながら幻想的な雰囲気を醸し出す。
「パール、聞こえますか?」
『おお、リーラ様では無いか! 久しいの!』
なんか、俺にも声が聞こえてるのだが……。
多分エンシェントドラゴンの声なんだと思うけど、妙齢の女性の声に聞こえる。
『折角のところ申し訳ないが、現在緊急の事態になっておるのでな。 また後で改めて要件を聞く!』
「待ちなさい、大量の魔晶石の事なら問題ありません。 私が既に現場にいますから、もう大丈夫です。 今のところあなたにしか繋がりませんでしたから、他の子にも問題は無いと伝えてください」
『なんとリーラ様自ら赴かれる程の事態であったとは、我が身の不甲斐なさを許されよ』
「是です。 あなた達は十分役目を果たしておりますよ」
『寛大なリーラ様に感謝を捧げる。おそらく他の奴らも慌てていて呼び掛けに気が付いておらぬのだろう、我の方からしかと伝えよう』
なんとかなったのだろうか?
リーラ様もあからさまにホッとした顔をしている。
ふと、そのリーラ様と目があった。
「さて異界の子よ、少々お話があります」
あ、これお説教されるパターンじゃ……。
正座待機しておいて良かったかもしれない。
「よくお聞きなさい。 もしかすると異界では魔晶石が珍しい物でも何でもないのかもしれませんが、この世界において魔晶石というものは非常に強い力を秘めています。 それこそ神である私が世界の為に使用する程です。 創世から数えて……」
ヤバイ、昔話モードだ。
これは長くなりそうな予感しかしない。
足崩したら駄目かな……。
『リーラ様、まだそこに居られるか?』
俺が長期戦の覚悟を決めたところで、さっきの声がまた聞こえてきた。
「どうしましたパール?」
『いやな、皆に話をつけたのだが、ダークの奴の反応が無くなった方角と同じ大陸で今回の異常な魔晶石の反応があった事が、偶然だとは思えぬとフレイの奴が騒いでおってな。 放っておいたらあの脳筋がそちらに突っ込んで行きそうだったので、仕方なくいま一番近くに居る我が様子を見に行くと言ってなだめたのだ』
えーと名前が出てるのは多分エンシェントドラゴンの名前だよな?
って事は俺がうっかり倒しちゃった奴がダークだったのかな?
まっ黒だったし。
「否ですパール。 いま私が居るのは人の街です。 問題が既に解決した状態でみすみす混乱を招く様な真似は許しません」
『人の街があることは知っている。 騒動が起きるよりも早く、混乱を起こさぬようにそちらに転移する』
「ドラゴンがここに転移して来たら、流石に教会が崩壊する危険性がありますね」
「パール、待ちなさい、パール!?」
リーラ様が駄目だと言う前に音信がなくなってしまったようだ。
何となく手慣れたように感じましたが、普段から都合の悪いことを聞かないようにしているんじゃなかろうか……。
どうするかな、広い部屋ではあるが、流石にドラゴンが入れるほどの広さはない。
現れたら何かしてくる前にサクッとやってしまうべきか?
とか考えていると、リーラ様のすぐ目の前の空間に楕円形の輪が広がった。
そこから、ヌルリとリーラ様のように白い印象の髪の長い女性が出てきた。
「久しいなリーラ様よ。 この姿であれば問題あるまい?」
「パールですね? プライドの高いあなた達が人の姿を取るとは思いませんでしたよ」
「なに、我が少々物好きなだけで、他の奴らは余り変わってはおらぬよ」
白い女性が2人……二柱? 一柱と一頭? で、あらあらうふふといった感じで会話に花を咲かせている。
時折正座待機の俺を見たりして事の成り行きをリーラ様が説明している。
「ふむ、魔晶石を大量に所持している価値観が全く異なる異界の者か、こちらをチラチラと覗っておるし見るからに厄介事を招きそうな面をしておるな」
大きなお世話でございます。
「ああ、そうだ良い事を思いつきました」
リーラ様がぽんと手を叩いてそう言い出した。
「パール、人の姿を取ることに抵抗が無いのでしたら、あなたはこの異界の子のお目付け役として今から行動を共にしなさい」
「ふむ、それであれば、無理なく魔晶石を受け取る事も可能であるな。 良いだろう、不肖の身ではあるがその大役引き受けよう」
「ええ!? 今からそのまま着いて来るんですか!?」
「ふむ、不満か? 人から見れば美しい容姿になっていると思うがの? 雄としては嬉しいものでは無いのか? 人の短い一生の間くらい付き添うてやるぞ?」
「不満というか、流石にそのまま着いてこられるのは困りますよ」
「ほう? 我に隠しだてするような、何かやましい事でもあるのか?」
殺気を漂わせ、キッと整った顔で俺を睨みつけてくる。
散々俺のこの世界での価値観が違うとか、異界の子は不思議だとか言っているが、俺にも言わせて欲しい事はある。
「だって、あなた、すっぽんぽんじゃないですかーっ! そっちを隠しだてしてくださいーっ!!」