154話 王都の教会に行こう
マルが喋れる言葉はぶっちゃけあまり増えなかった。
多分発声器官の問題なんじゃないかと思われる。
ただ、ビックリしたことに、よく聞いてみるとマルが喋る言葉は日本語だった。
契約による不思議な繋がりなのだと思うが、他の皆にはただの声色の違う鳴き声としか思ってもらえないようで、意志の疎通はもっぱら身振り手振りで行っているいるようだ。
初めて喋った日、じゃあ肉を買いに行くかーと、マルと一緒に肉屋に行ったところ、運悪く店が閉まっていて、
「おにきゅーていきゅー?」
とマルが悲しそうに喋った時には思わず吹き出してしまった。
途中で見かけた屋台で串焼きを買ってやったら、凄く喜んでくれた。
味が濃いからしょっちゅうはダメだが、たまに食わせてやるか。
そして、ウォリクンの王族襲撃事件……じゃなかった、第二王子が起こした呪いのアイテム騒動から、数ヶ月が経った。
俺はコリンナ様の護衛の傍ら、冒険者ギルドでその日のうちに終わるような依頼を受けたり、錬金術師ギルドに行って面白そうな研究に出資したりと、平和に王都での生活を満喫していた。
イロイロやらかして、ほとぼりがさめるまでーという事でコリンナ様の護衛として王都に来たわけだが、この先卒業するまでの間、ずっと王都に居ないとだめなのだろうか?
生活に困らないくらいの報酬に、安定した仕事という意味では、不満は無いし大変素晴らしい条件なのだが、生活に困ることの無い身としては、この先何年もここに拘束されると考えると、せっかく異世界に来たのだから、もっと世界中を見てまわりたいとも思ってしまう。
そもそも、元の世界に帰る手がかりすら微塵も掴んで居ないのだから。
「と言うわけで、教会にガチャをやりに行って来ます」
「何が、と言うわけ、なのか解らないしガチャってのが何か知らないけど、ブツブツ言ってた内容に微塵もカスらないってこと分かったわ」
おっと、心の声が漏れていたか。
「いや平穏すぎて、このまま変化なく何年も過ごしてしまって良いのだろうか? と哲学的な自問自答をだな」
「へぇー、イオリの国じゃあ、たった数ヶ月の間に学園で大爆発を起こしたり、呪いのアイテムが届いたり、王族が襲撃されたり、第二王子が療養している建物が爆破されたりするのが平和って言うのねー、へー知らなかったわー」
「スンマセンしたあ!!」
うん、ちっとも平穏じゃなかったな。
たかだか数ヶ月何も無かったからって、平和かどうかわからないよな!
「しかも、またなんか妙な魔道具を作ってたりするんでしょ?」
「妙じゃないぞ、遮蔽物を透過して対象物を観察可能な魔道具の開発に……」
「服が透けて見えるとか女湯とか女子更衣室を覗くやつね?」
「画像を立体的に記録可能な魔道具に……」
「スカートを下から覗き放題って言ってたやつかしら?」
「ゴーレムは何処まで人に近づける事が可能なのかという哲学的な……」
「なんでも言う事を聞いてくれる女の子を作るとかって言ってなかった?」
「……」
「どうして目を合わせないのかしら?」
ヤバイ、なんかめっちゃ笑顔だけど、言っているうちになんかムカついて来たから、取り敢えず犯罪に走る前にぶん殴っておこうかしら? とか思っている雰囲気だ!
「わかってるなら話が早いわ、今度からそうなる前に怪しげな物にホイホイ手を出すんじゃないっ!」
スパーン良い音を響かせ俺の頭にハリセンが炸裂し、勢いで床と熱い口づけをかわした。
なんというかめっちゃ痛い!
おかしい、ハリセンは1の固定ダメージのネタ装備だったはずなのに、ゴブリンの頭くらいなら軽く吹っ飛びそうな威力だ……。
HPを上げてなかったら即死だったかもしれない。
その後、そういう出資は金輪際止めなさいと小一時間お説教をくらった。
マルが、ご主人も反省しているみたいだから許してあげて? とアリーセにもきゅもきゅ言ってくれたおかげでいつもより少し早めにお説教が終わった。
マルを使い魔にして良かった!
解放された俺は、建前上「叩かれた影響で首が痛い!」と言いはってマルをアリーセに預け教会にやってきた。
教会にやって来たのは、魔晶石を奉納するとランダムでアーティファクト貰えるというガチャみたいなものがあるという話を思い出したからである。
正直な所要らないと言えば要らないのだが、ゲームの時の最強装備はデザイン的に使い物にならなかったりするので、1つでも手に入れておけばいざという時に安心かと思ったのだ。
まあ、守秘義務的に問題がありそうだったら、すっぱり諦める必要はあるかもしれない。
問題なくガチャが出来ても、ショボかったり、全然使えないアイテムだったら誰かにあげても良いし、素材として使ってもいいしな。
ここの教会はイーリスが居た教会と比べると、幾分か大きく豪華な印象を受ける。
そうだ、折角来たんだし、建前を本当にする為にも首治療をお願いしよう!
前と同じ失敗を繰り返さない為に、銀貨数枚を受付のシスターっぽい人に渡して、首が痛い旨を伝える。
何処に目があるのかわからないくらいモサモサの獣人の爺さんやヨボヨボしたトカゲっぽい人が、最近どこそこのアイツ見かけないな、体調悪いんじゃないか?とか話している横を通り抜け、程なくして一番奥にあるっぽい扉の前までたどり着く。
ん? さっきデジャヴが起こったような……?
まあいいか、案内されるがまま扉の中に入る。
「はい、今日はどうされました?」
そこに居たのは、イーリス……のウエストくらいある腕をした、筋肉お化けみたいなおっさんだった。
「あ、すみません、間違えました」
「はっはっは、大丈夫ですよ、ワタシはコレでも王都一の治癒術師だと言われておりますので! 見たところ首に負担が掛かったと言ったところでしょうか?」
そのままドアを閉めて出て行こうとする俺の肩をがっしりと掴まれ、部屋に引き戻された。
ぺいっと簡易ベッドに寝かされてしまった。
「では、治療を始めましょう!」
「いやあああ、胸板がああ、生温かいいいいいぃっ!」
「はっはっは、それだけ元気ならば大丈夫ですな! しかし首の場合障害が出る場合もありますからな、念入りにやっておきましょう!」
「ぎいやああああっ!! 生温かいいいいいっ!!」




