14話 入街審査
辺りは真っ暗だが、行列の周りは各々が持っている明かりで結構明るい。並んでいる人たちは異世界情緒たっぷりで、なかなか見ていて楽しい。幌馬車なんて実物を初めて見たし、護衛なのか軽装の鎧を着て槍を持っている人なんか、後ろからふさふさの尻尾が見えている。馬の代わりに小さなドラゴンっぽい生き物が馬車を引いている奴などなんかこうテンションが上がるな。
ん? 馬以外が引いていても馬車なんだろうか? 牛が引いて牛車っていうし、竜車だろうか? まあいいや、ともかくこれなら並んでいても飽きないかもしれない。
と、お上りさんの如くキョロキョロしながら、列の最後尾へ向かおうとしたら、アリーセに肩を叩かれた。
「そっちは、荷物の多い商人用の通用門の列よ。私たちはあっち」
と、アリーセが指をさす方向に目をやると、列の脇の方に門番らしき揃いの鎧を着た人が二人立っている小さな扉が見えた、小さいといっても門と比べれば小さいというだけで我が家だったアパートの扉の2倍程度の大きさはある。
「あ、並ばなくて良いんだ?」
「なに?並びたかったの? あっちは品物の検査やそれぞれにかかる関税なんかの手続きがあるから時間がかかるのよ、私みたいな冒険者や、もともと街に住んでいる住人が、ただ帰ってきただけでそんなのに並んでたら生活できないでしょ?」
なるほど、道理である。
けど、この街の住人ではない俺もそっちに行ってしまって良いのだろうか?
「商売目的じゃない旅の人や、他から来た冒険者なんかもこっちで大丈夫よ、警備にも人員が必要なのにあっちこっちに配置してられないもの」
なるほど、道理である。
アリーセの後ろについて、一般?の通用門に近づいていく。門というか金属製のフレームの木製の頑丈そうな扉だな。
「よう、アリーセ。今日はずいぶん遅いご帰還だな」
門番のうちの一人、口髭がなかなかダンディなおっさんがアリーセに話しかけてきた。どうやら顔なじみのようだ。
「突発依頼よ。そこにいるイオリがモンスターに襲われていたところを救助したから、ここまで連れてきたのよ、ギルドまで連れていきたいから入街審査を頼める?」
「わかった、じゃあアリーセは一応冒険者証の提示と、そっちのあんちゃん、こっちに来てくれるか?」
「あ、はい」
手招きされたので、ホイホイ付いていくと扉の中へ通された。アリーセは付いて来てくれないようだ。
通された先は通路になっていて、髭のおっさんと同じ鎧の人達が行きかっている。通路の両側にいくつか扉があって、その中の一つに通された。
部屋の中は、思ったより片づけられていて、中央になにやら水晶玉っぽいものが置かれた長テーブルがあった。奥にも扉があるが閉まっているのでその先がどうなっているかはわからない。
「物珍しいのかもしれんが、とりあえずそこに座ってくれ」
キョロキョロと落ち着きなく周りを見ていた俺に髭の門番さんが苦笑しながら椅子を勧めてくれた。
「俺は、ここの守衛をしているスコットだ。今から入街審査を行うが、まあ今は特に手配書も来てないし、アリーセが連れて来たんなら大丈夫だろうから、簡単に済むと思うぞ」
「アリーセは信用されてるんですね。あ、よろしくお願いします」
長テーブルを挟んで髭がちょっと立派なおっさんと座っていると面接を思い出してしまって、つい敬語になってしまった。
「まあな、それじゃ、この玉に手を置いてもらえるか?」
なにやら台に固定された、つるつるに磨かれた水晶玉のような物を指し示すので、指紋とか付けて良いのかな?と、どうでもいい事を考えながら、水晶玉の部分に手を置く。
すると、水晶玉が青く光り始めた。
「おおう、なんか光ったぞ?」
「もういいぞ、こいつはセンスイービルの魔道具だ。まあ、何かこの街で悪さをしようとしていると赤く光るんだ。青なら害意無しってことだな。それじゃ、この街に来た理由を教えてくれ。あ、こら、遊ぶなよ、高いんだぞこれ!」
触ったり離したりして光らせて遊んでいたら怒られた。
「あ、すみません。珍しかったもんで……」
「まぁ、分からんでも無いが、それで、この街に来た理由は?」
「えーと、転移事故にあったようでして、気が付いたら森に居たんですよ。それで、どうも空に投げ出されたらしく、落ちた拍子に頭か何かぶつけたようで記憶が随分と飛んでるんです。自分が何者かもわからないしで、森をさまよっていたらアルマベアーに襲われて死にそうになってたところをアリーセに助けられたんです」
道中に考えた設定をとくとくと語る。もちろん怪しい部分は憶えていないで通す。
「なるほど、そいつは災難だったな」
「いや、命が助かっただけ良かったですよ」
「確かに、そのまま死んでいても不思議はないな。それで、字は書けるか?この用紙にわかる範囲でいいから記入してくれ。文字が書けないなら代筆もできるぞ」
「字は書けますが、この国の文字とは違うと思うので代筆を頼めますか?」
「字が書けるなら知っている文字で構わないから、記入してくれ。それも一種の身分証明だ。項目が読めないなら、説明する」
なるほど、とりあえず用紙を確認してみる。これも初めて見るが羊皮紙というやつでは無いだろうか?渡されたペンも羽根ペンで、ちょっとテンションが上がる。文字は見たことのない文字だったが読むことができた。恐らくスキルにあった言語翻訳のおかげだろう。
試しに名前を書いてみると、不思議な感覚だが項目に書かれている言語に合わせて書くべき文字が頭に浮かんでくる。
「なんだ、しっかり共通語が読み書き出来てるじゃないか」
「そうみたいですね、字を見たら思い出しました」
「それは何よりだ、それじゃあ書いて貰っている間に荷物を検めさせてもらうぞ?」
俺は了承の意を伝え、用紙の残りの項目にでっち上げた適当な内容を書いていくのだった。
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