150話 襲撃
「なんか、着方がめんどくさくなってるんだけど、何このぴっちりした鎧っぽいのは?」
「インナースーツだ。 モンスター扱いだからな、攻撃を受ける事もあるかもしれないだろ、それと激しく動いても中の人が見えないようにという配慮もある」
「全身金属鎧なのに妙に軽いのが気になりますわ……」
「オリハルコンベースで稼働部分はミスリルメッシュ製、隙間は無く軽量で丈夫、たぶんドラゴンが来ても大丈夫ー。 正直ホイホイ量産出来るもんじゃ無いんだけどねどうやってこんなに作ったんだかー」
アイテムボックスチートで増やした。
今は反省している。
外側のキグルミを変えても中のインナーは使いまわせるように設計してある。
「凄いのはわかったけど、いい加減こればっかりにお金も時間も費やし過ぎじゃない? なんのこだわりなのよ、気に入ったの?」
「あー、なんというか辞め時を見失った的な?」
錬金術師ギルドの協力が得られたので、つい調子に乗ってイロイロやってしまった。
金銭感覚が完全におかしくなっとるな……。
引き締めていかないと、駄目人間になってしまいそうだ。
「十分駄目人間になってる気がするわ」
ジト目でアリーセに見られてしまった。
って、よく見ると全員ジト目だったので、そっと目をそらす。
「まあ、今回は仕返しするのに非常に都合が良いので良いですけど、流石に王子を襲撃となると、今後はコレで活動するのは辞めておいた方が宜しいかと思いますわ」
なんだかんだ言っても、皆襲撃する気マンマンだな。
まあ、愛すべき護衛対象であるコリンナ様が狙われた事については、皆腹に据えかねるものがあったのだろう。
ナチュラルに俺の事をディスりながらも、ウォリクンスーツは素直に着込んでいる。
超リアルなお面は中の人の表情を読み取って金属製なのにフォーミングをするので、装備者によって若干顔つきが変わるのが面白い。
まあ、凶悪ゴブリンフェイスなので変わるからどうだと言う事は無いのだが……。
エーリカの予想では、夜までココで待っていれば、このもきゅもきゅ言ってる使い魔を取りに来るはずだと言うので、このまま待つことになった。
「使い魔ってくらいなんだから、情報共有とか感覚同化的な事をして、俺らの事がバレたりしないか?」
「少なくとも相手が結界の中にいる間は、使い魔との交信は出来ませんわ。 その位防げないと、貴族や国の秘密などの情報がダダ漏れになってしまいますからね」
王都だもんな、そりゃそうか……。
「だからこそ、王子自らこの使い魔を迎えに来なければならないわけですわ」
「なるほど納得した」
「もきゅ」
捕まえてあるクレバーファーラットが、いかにも「その通り」と言いたげに頷いている。
問題は王子ともあろう人が一人でノコノコやって来るのかどうかなんだが、普通で考えれば、忠臣的な存在が居て護衛に付いているはずだ。
忠臣が居ればだが……。
適当に時間を潰して夜を待ち、辺りが薄暗くなってきたあたりで、エーリカが遮音の魔法をかけてくれた。
クレバーファーラットは結界石で囲って、術者との交信が取れないようにしている。
「もきゅーん……」
非常に不安げだが、アリーセに見張られているせいか、非常におとなしくしている。
暗くはなってきたが、後ろ暗い事してるなら、コイツの迎えが来るのは深夜かなーとか思ってたら、貴族街の方から話し声が聞こえてきた。
目当ての人物かどうか解らないので、潜んで様子を覗う。
「む? この私がわざわざ忍んで拾いに来たというのに、反応が無いだと? 役たたずめ失敗して殺されたか」
忍んでとか言っている割に大声で騒いでいる。
忍ぶ気があるのだろうか?
「せっかくジワジワと無能に成り下がっていくという素晴らしいアイテムが出来たから有効活用してやろうと思ったのに使えんヤツだ、そもそも次期国王である私の使い魔がネズミなどといった下等生物だと言うのがおかしかったのだ! クズが死んでしまったならちょうどいい、今度はこの私にふさわしい高貴な使い魔と契約を結んでやる」
下草を蹴っ飛ばしながら、悪態を吐いている。 まあ、ほぼビンゴだなこりゃ。
勝手に自白してるし。
「まあまあ、落ち着いてください。 いくら夜この辺りに人が居ないと言っても、声が些か大きいです」
諌める声が聞こえてきたので、護衛が一応居るようだ。
明かりはその護衛が持っているようで護衛が第二王子らしき人影に近づくとブラウンの天パの髪に神経質そうな顔のひょろっとした容姿などがぼんやりと見えてきた。
「私は落ち着いている! この兄を差し置いて、優秀だの才能があるだの将来が楽しみだのと言われおって、派閥の貴族共がウィルに鞍替えするなど言語道断! しかも世紀の才女などと言われる輩までヤツに接近しているときたのだぞ!?」
微塵も落ち着いているように見えないな。
「確かにその才女も王家の血筋であられ、領も昨今発展が著しいとか。 ゆくゆくご成婚となられれば、揃って王位継承に影響を与えるかもしれませんが……」
「そうだ、私が王になるのに邪魔であることこの上ないのだ! 兄上は、魔法の才も政治の才も無い脳筋だから邪魔にはならぬが、その才女とやらが表れてから我が派閥の者の流出が顕著だ。 見る目の無い有象無象共だが、忌々しい事に私が王位につく後ろ盾としては必要と来ている!」
「エーミール様、心中お察し致しますが、何卒お声を小さくお願い致します」
護衛っぽいのが、悪態を吐いている第二王子を懸命に諌めているが、ますますヒートアップしている。
「揃って無能に成り下がればそれでヨシ、あわよくばそれで死んでしまえば憂いも無くなると言うのに、あの役立たずめ! 物珍しさから使い魔にしたが、直接暗殺する程度の力すら無いなど所詮は下等生物か!」
騒いでいる第二王子が「死んでくれてせいせいした、コレでキャパシティも空くと言うものだ」とか言っている。
エーリカいわく、使い魔には定期的に魔力を与えなければいけないので、無理の無い消費量までの使い魔しか使役出来ないということだった。
「もきゅーん……もきゅーん……」
言葉が理解できているのであろう、さっきからクレバーファーラットがメソメソと泣いている。
もう十分だな、行くか。
「悪い子はいねがーっ!!」
俺は隠れていた茂みから一気に飛び出した。