143話 ゴーレムの技術
学園長室に呼出しを食らった俺とワトスンは、正座してヴォルフ学園長のお話を聞いていた。
「魔法の実演によって破壊してしまったのはしょうがない。 あそこまでキレイさっぱり無くなるほどの事は無いが、魔法で何かを壊してしまうのは日常茶飯事じゃからな。 それを強化して修復してくれたのも、感謝をしよう。 しかし……」
ヴォルフ学園長は一旦言葉を切ると、ため息をついた。
「ここは確かに元要塞であるが、位置的にも歴史的にも使われなくなったから学園として利用しているんじゃ、今更、矢狭間や監視格子、外敵を照らすための照明、ましてや備え付けのバリスタ等までは必要ないのじゃよ」
「矢狭間と監視格子ではなく銃眼と監視カメラです。 照明はサーチライトと言います。 あとバリスタではなく魔導自動追尾銃『セントリーガン』ですね、侵入者を自動で攻撃します」
「いやいや、名称はどうでも良いのじゃ、ただ何と戦う気なんじゃと言っておるのじゃ! 戦時下でも国境でもないのに近づいただけで撃たれちゃかなわんわい! 心臓が止まるかと思ったぞ」
後で聞いた話によると、強度が大分上がっているということで、ヴォルフ学園長自ら、物は試しとばかりに外側から軽く魔法を打ち込んたところ、セントリーガンに撃たれたそうだ。
一応、最初は威嚇射撃に留めるように設定してあるので無事だったようだ。
いくら強化したとはいえ、まず最初に場法をぶち込んでみたのが学園長ってのもどうなのか?と疑問に思わないでも無かったが……。
近づいただけでもなかったし!
「内側に向ければ、誰も脱走させないよー?」
「それじゃ監獄じゃ! 生徒の出入りは自由にさせてやってくれ! ともかく、さんとりーがんとかいう魔道具は事故が起こる前に外しておくように!」
俺とワトスンは、話がわかったらさっさと外してこいと、学園長室を追い出された。
まあ、学園のセキュリティには自信があるみたいだから、余計な世話だったかもしれない。
ちなみに『セントリーガン』は、俺とワトスンとその場に居た錬金術師達で、既存の魔道具をノリノリで組み合わせて作った試作品である。
ある錬金術師が作った、ゴーレムの頭脳を用いた動体感知及び識別の魔道具。
ある錬金術師が作った、熱感知の魔道具。
ある錬金術師が作った、魔力を飛礫にして飛翔させる魔道具。
どれも、単品での需要が無くホコリを被っていた魔道具だということだ。
これらとMININIを組み合わせたのである。
まあ、各種センサーと腕だけのゴーレムに魔導銃を持たせただけという言い方も出来るな。 時間と資材があったら自走式にしたかったところである。
錬金術師達からゴーレムという言葉が飛び出した時には、かなりテンションが上ったなぁ。
とりあえず、残念ではあるが『セントリーガン』は、取り外すということになったので、今は俺のアイテムボックスに入っている。
そういえばこれで、自動狩りとかしても経験値入ってレベルアップするのだろうか?
今度試してみたいと思う。
MININIを外しても、感知範囲内の一番近い動く物にグリグリと向くので、他にも何か使えそうだ。
協力してくれた錬金術師達には技術費として、多めに金貨を渡したら他の魔道具もどうかと売り込みがすごかった。
せっかくなのでゴーレム関連の物をあるだけ全部買っておいた。
「ありがとうございます! これで、服を透過して観察するメガネ型魔道具の開発が続けられる!」
「俺も、正面を向いているのにローアングルから映像を記録できる魔道具の研究が出来る!」
……えっ? なにそれ、投資したい!
「犯罪予備軍は早めに始末した方が良いかもしれないなー」
ワトスンが今にもお巡りさんこっちですと言い出しそうなので、興味が無いふりをして彼らを帰す。
後で、こっそり投資しに行こう。
「君も彼らとは、もう関わらない方が良いよー?」
ぽんと俺の肩に手を置いたワトスンの顔は笑顔だったが、目がまったく笑っていなかった。
「ウン、ソウダネ、ソウスルヨ……」
俺も足早にその場を去り、学園から外へとつながる通路を進んでいると、ウロウロしているマックスを発見した。
「おっす、サボりか?」
「いや、お前と一緒にすんなよ。 って、ちょうど良かった、聞きたいことがあるんだ」
「金なら無いぞ?」
「いや、別にそっちは困ってねーよ、これでもAランクだぞ?」
「ところが、Aランクでも食うに困ったという話を聞いたことがあってな」
クーリアおばさんである。 ちなみにこの話を聞くともれなく旦那とののろけ話が最低1時間程度付いてくるので、話を聞く際には覚悟が必要だ。
「まじか!? って、いやその話は良いんだよ、お前今時間あるか?」
「あるぞ、むしろこのまま帰ると、なんで学園長室に呼び出しを食らったのかと根掘り葉掘り聞かれて、また説教とかされそうなんでほとぼりが冷めるまで帰りたくないな」
「今度は何やらかしたんだよ……」
「ちょっと、土塁を吹き飛ばしたんで、自動迎撃システムを作り上げて新しく作り直しただけだな」
「言っていることがよくわからない」
というわけで、そのままマックスに連れられて、学園の外の酒場に行った。
奥に個室があって、商談なんかも出来るようになっていて、その奥の部屋に連れ込まれた。
「すまんが俺はノーマルなんだが?」
「俺だってノーマルだよ! 普通の店じゃねーか、なんの勘違いだよ!」
「ちょっとしたボケだ、ナイスツッコミだマックス!」
「なんか、もう疲れたんだが……」
こういう軽口を言える相手が少ないからなぁ、お説教食らってばっかりで……。
「で、何か俺に聞きたいことがあるんだろ?」
「あ、ああ、とりあえず、おごるから飯でも食いながら話すわ」
オススメを聞いてそれを頼み、他にもつまみのように幾つか注文をする。
二人で食うにはちょっと多いかなーという程度の料理が並び、どうでもいいような話を交えながら食事をする。 ちょっと元の世界で同僚と一緒に会社の近所で居酒屋のランチを食べていた時のことを思い出すな。
酒ないし。
「お前、学園で魔法の臨時講師やってたよな?」
「ああ、王子も一回来たぞ」
「知ってる、それで、その時王子になにか変わった様子は無かったか?」
「変わった様子と言われても、性格や言動の差が解るほど面識は無いからわからんとしか言えないな、強いて言えば随分とコリンナ様と仲良くなったんだなぁというくらいか?」
初見のときは生意気そうなお子様って印象で、ナマハゲイオリくんが怖いらしいってことくらいしかわからない。
「あ、もしかして、王子がコリンナ様を好きになっちゃったとか、そういう感じの甘酸っぱい感じの話か?」
「そうだったら、まだ良かったんだけどな」
「違うのか? もったいぶらずに教えてくれよ、何があったんだ?」
「む、そうだな、これから言う話は口外しないでほしいんだが─────」
「王子が魔法を使えなくなった」