142話 お馴染みのお説教
「それで、どうしてあんなことしたんですの?」
はい、とう言うわけでぶっ壊した土塁の前でエーリカにお説教をいただいております。
地味に砂利が当たって足が痛い。
え? アリーセはどうしたのかって?
アリーセなら俺の横で一緒に正座している。
「アリーセさんも、お目付け役だったはずなのに、どうしてコレを放し飼いにするような真似をしたんですの?」
「あ、はい、講義を受けに来る子供が一人も居なくなったので、ほっと居ても良いかなーって、あ、すみません私がコレをしっかり見て無かったばっかりに、こんな事なってしまって……」
コレとか放し飼いとか俺は犬か何かか?
「それで、どうしてあんなことをしたんですの?」
エーリカが再度俺に聞いてくる。
「えーと、3寸から4寸玉想定だったファイヤーワークスの魔法を、4尺玉の想定にして打ち上げたら、発動体の発射機構分だけ射角が曲ってしまって、地面に着弾してしまいました」
花火の3寸玉は直径約9cm4寸玉は約12cmだ。
4尺玉というのは直径120cmの最大サイズの花火である。
5m以上ある鋼鉄性の筒から打ち上げられ、直径800mほど広がるというギネスに載っている花火である。
この花火を作った職人の物語は映画になったり連続ドラマになったりしているので、一度この花火を生で見てみたいと思っていたのだ。
せっかくだからと、これを再現しようとしたのだが、確実性を求めて使った発動体のせいで垂直に打ち上げる予定だった魔法が、ほぼ水平に打ち出され、設置されていた魔法の防御効果を高めた障壁の様なものをぶち抜き元要塞である学園の土塁の一角を吹き飛ばしたのである。
幸いだったのは、周辺に人が居なかったことと、4尺玉がぶち抜いた障壁の効果で内包する魔力が減衰し爆発力を弱め、さらに土塁にめり込んだおかげで衝撃がある程度吸収されたことだろう。
ヴォルフ学園長がとっさに結界を張ってくれたので、見学者にも怪我はなかった。
立ち込めた土埃が晴れたら、食って掛かって来ていた偉そうなおっさん達が「おみそれ致しました!」と土下座していた。
なんでも有りな魔法なら800m程度の爆発など珍しくも無いだろうと思ったのだが、その規模の魔法を一人で使うのは不可能だと教わった。
数十人規模とまでは行かないが、10人程度で行う必要がある位の規模で、それも準備にそこそこ時間がかかるはずの魔法だったそうだ。
物凄く尊敬の眼差しで見ていたコリンナ様、失敗したとは言い辛かったので『120cmデュアルパーパスキャノン』の魔法を弱めにしたものだ、言ってしまった。
まあ、花火の打ち上げの仕組みも先込め式の大砲と一緒だから、遠からずって事で許して欲しい。
「要塞に使われている土塁の素材には魔力を減衰させる効果のある吸魔石を混ぜて作られています。 それを跡形も無く吹き飛ばすような魔法なんて、一体どの様な概念ですの?」
「さっきも言ったとおりファイヤーワークスの魔法の最初に作る玉の直径を10倍にしただけだ。 それを飛ばす魔力の砲身ももちろん10倍で長さは6m、打ち上げ初速を秒速350mに設定しただけだな」
魔法は発動してしまった後は物理法則に従う。
つまり、魔力の減衰効果は爆発前までしか効果が無いということだ。
俺が使った魔法やコリンナ様の魔法で、障壁を貫通してしまうのも、おそらく既に物質化した物が高速でぶつかる為じゃないかと推測している。
魔法なのに物理ダメージを与えるってわけだな。
「こういう感じですの?」
エーリカが軽い調子で、僅かに残っていた障壁に魔法をぶっ放した。
「あ」
エーリカが放った魔法は、障壁を跡形も無くを粉砕し、ボッ、という低い音と共に無事だった土塁にめり込み、ドォンと腹の底に効く様な音を響かせた。
「まったく、貴方達のパーティはどうなってるんですか!?」
と言うわけで、俺、アリーセ、エーリカの3人はグレイさんから絶賛お説教中である。
「えーと、取り敢えず土塁の弁償代は支払って、修復作業もワトスンに手配を頼みました」
「そういう話ではありません。 コリンナ様が真似したらどうするんですか!」
え、あ、そっち?
いや、そっちじゃない話が何かとか聞かれても困るけど……。
その後とくとくとお説教くらい、解放された時には流石に足が痺れていた。
ステータスが高くなって血流が悪くなれば痺れたりするんだな……。
ワトスンに手配を頼んだ土塁の修復作業の様子を見に行くと、既に作業が始まっているようで、幾人かのローブを着た人達が忙しなく動いていた。
……ん? ローブを着ている?
工事関係のイメージだと、もっとマッチョテイストな親父達がいると思ったのだが、もしかして魔法で修復するのだろうか?
「じゃあ、あそこにそれを設置してー」
何やらワトスンが、現場監督のようなことをしていた。
何か魔道具と思われる物を設置しているように見えるが……?
「なあ、ワトスン。 土塁の修復の手配を頼んだよな?」
「おお君か。 もちろん建造物だってこのアンドレア・ワトスン・カーペンターにお任せだよー。 こんなチャンスは滅多に無いからね、ギルドの皆にも声かけて来たよー」
「ちょっと待て、声かけたギルドって大工とかのギルドじゃなくて錬金術師ギルドだよな!?」
土塁の修復関係なく無いか!? しかもチャンスってなんだ!?
「爆発した後の修復だったら、我々の右に出る者は居なーいのだー」
ギルドでの修復作業を実際に見ているので凄い説得力だが、次々と設置されていく魔道具に一抹の不安を覚える。
「ちゃんと安定して実用化した魔道具だから、これは爆発しないから安心して良いよー」
「そもそもなんの魔道具なんだこれ?」
「物理も魔法も受け止める障壁発生魔道具だよー、流石に反撃機能は無いけど魔晶石での運用にも耐えられて、この位置区画から学園全体を囲う事も出来る優れ物さ」
いや、そりゃあ確かに凄いんだろうけど。
「そんな物をホイホイ設置できるほどの金は無かったはずだが?」
「発動の規模が大き過ぎて使える所が無かったから、全然売れなかったみたいなんだよねー」
なるほど在庫処分ってやつか。
「ここなら広さ的にも設置出来るし、元の障壁よりも何倍も強力だよ。 定期的に魔法をぶつけたりするからこっちも良いデータが取れるんだー」
まあ、それならお互いにメリットがあるかな。
壊してしまったが、よりも強化して治すって事で許して貰えそうだし。
「じゃー、どうせ強化するなら、こういう物をだな……」
「なるほどねー、なら、一緒に制御出来るようにしてー……」
土塁の修復完了後、学園長室に呼び出しを受け、またお説教を食らったのだった。
元から比べたら数十倍に強化をされているというのに……。
解せぬ。




