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140話 理科の講義

「皆さんこんにちは、今日から臨時講師として教壇に立つことになった歩く錬金術師ギルド、イオリ・コスイです。 爆発は浪漫、火薬は入れ過ぎぐらいで丁度いい!」


「イキナリ不安を煽るようなこと言わないの!」


 スパーンと良い音をたててアリーセの持つハリセンが俺の頭に炸裂する。


「痛いじゃないか」


「痛くしたんだから当たり前でしょ、もう一発行っとく!?」


「いやすみませんごめんなさい」


 ハリセンは俺が出したネタ装備だが、多少なりとも攻撃力が設定されているので結構痛い。

 紙製に見えるが、謎な物質で出来ていてアイテムボックスに収納可能な一品だ。

 場を和ませようと、漫才でも披露しようと思ってツッコミ用にアリーセに渡したのだが、ヤケに気に入ってしまったようなので、そのまま預けてあったものだ。

 というわけで、魔法学園で初めての講義の時間が始まった。

 しょっぱなに冗談を交え、気さくで愉快な先生を演じようと思ったのだが、静まり帰っているところをみると失敗に終わったようだ。


 ちなみにアリーセが一緒に居るのは、護衛をサボっているわけではなく、俺のお目付け役だそうだ。

 ちょっと小学生の理科のお話をするだけなので、お目付け役など必要ないと思うのだが、ほぼ全会一致で必要だと言われてしまったのだ。 解せぬ。


 魔法トーナメントの後、コリンナ様の流派に関する講義を行うことをヴォルフ学園長が発表した。

 俺の講義は選択制で、学年を問わずに講義を受けられるということになっていたので、結構な数の応募があったそうだ。

 教室に入りきれないので、抽選にするか同じ内容の講義を複数回行うかどうかと、話し合っていたところ、俺が講師だと知ったチミっ子達が、ヤダーとこぞってキャンセルしてしまったので、わりと空席が目立ったりしている。


 別に悲しくなんかないぞ。


 その代わりというワケでは無いだろうが、明らかに生徒ではない偉そうなおっさんや教員達が何人か混ざっている。

 あ、いつぞや買い物の時にあった恰幅の良いおっさんもいるな。

 名前何だったっけ……?


「偉そうなのは魔法師団の人ね、軍人よ」


「軍人が聞きに来るレベルなのか? 軍とかだと呼び出し食らいそうなイメージがあるが……」


「実際に役に立つかわからないから、とりあえず見に来たってとこでしょうね」


 アインシュタインみたいに歴史を塗り替えるような事をするわけじゃないから、気にしないでおこう。 核の炎に包まれたりはしないはずだ。

 じゃあ、コリンナ様の最初の授業と同じように火の話から始めるとしようか。



「……とまあ、このように誰が行っても同じ結果になりましたね? こういった事象の寄せ集めが論理実証流の基本となります。 この実験を体験してもらって解るように、魔力を一切使用していません。 ですのでこれを魔法の行使の際に取り入れると、その分だけ魔力の消費が少なくなり、結果として魔力の効率が良くなるというわけです」


「へぇ、なんだか私にも魔法が使えそうな気がしてくるわね」


 アリーセには助手として実験を手伝って貰ったのだが、自分自身で触れずに火を消したり、魔法を用いても火がつかない空間を簡単に作ったりしたことで、ちょっと気が大きくなっているようだ。


「質問があるのだが良いだろうか?」


 一通り実験が終わり、話の切りが良くなったところで、魔法師団のおっさんが質問をしてきた。


「はい、どうぞ」


「最初の講義と言うことで初歩の発火の魔法を使用する実験を行ったのだと思うが、この火がつかない空間というのは規模を大きくする事は可能だろうか? 例えばこの部屋を火のつかない空間する等だ」


「そうでねす、結論から言えば可能ですが、そんな空間に人が入ったら意識を失って死に至ります」


「な!? そんな危険な実験をさせたのか!?」


 あーなんか早とちりしてるな。

 補足説明をしよう。


「この規模であれば、100回やっても大丈夫です。 酸素が消費されただけで、毒物を生成しているわけではありませんので」


「では、なぜ部屋いっぱいだと死に至るような事になるのだ?」


「それは、人を始めとした生物が酸素を必要とするからです。 生物が呼吸をするのはこの為ですね。 井戸等の底や鉱山等で意識不明になりそのまま死亡するというケースを聞いたことはありませんか? 毒性の高いガス等が原因の場合もありますが、この酸素が足りなくなって引き起こされる事例も少なく無いのです」


 余談だが、100%の酸素吸っても平気で普通に医療行為としても行われている。 重篤な症状が出るのは酸素だけを何時間も吸った場合なので、高濃度の酸素空間を作って敵を倒すとかは出来ない。

 危険な状態になるのは、潜水等で圧力が加わった場合なのだ。


 まあ、空気中の成分を変えた上に圧力もかけるならば、他の有害な物質を使うか、圧縮した空気を爆発させたほうが手っ取り早いと思う。


「そういうわけですので、酸素を減らすのでは無く、増やしてやる事で火の勢い増す事は可能です。 こんな風に」


 俺は火の着いたロウソクにアイテムボックスで空気から選り分けた酸素をゆっくりと下の方から吹きかけた。

 小さかったロウソクの火が、ちょっとした火柱のように燃え上がり、周囲をあかあかと照らす。


「なんと、感知出来ないほどの僅かな魔力消費で火を大きくしたというのか!?」


 すみませんアイテムボックスです。

 生徒じゃないから勘違いさせたままでもいいか。

 なんか、ぶつぶつ言いながら考え込んでるし、とりあえず放っておこう。


「私も質問良いですかな?」


「あ、はいどうぞ」


 あの恰幅の良い先生からだ。


「講師の陽光の森のギャスランです。 魔力の介在しないそれらの現象はどの様に発見したのでしょうか?」


 あ、そうそうそんな名前だったな。


「基本的にはどのようにその現象が起こるのかと疑問に思うところから始まり、ひたすらそれを観察するのです。 そこからその事象がどのようにして起こっているのか仮説をたてて、その仮説を元に実証をしていきます。 実証方法は今回のような実験や計算など様々です。 そうやって得た結果が、どんなに奇妙であっても、誰が何度やって同じ結果となるならば、それが真実であると認めて行く事も大切ですね」


「なるほど、魔法の研究をするのとそう変わりは無いのですね」


 あ、そうなんだ。

 まあ、研究や実験なんてどのみち実証しないことには使えないわけだからアプローチがそうそう変わるようなことも無いか。


「まあ、錬金術から魔術的な要素や迷信、根拠のない理論などを徹底的削ぎ落としたものと思って頂ければ、手法も限られてきますからわかりやすいかと」


「限定されているということは、つまり汎用性は無いのですか?」


 魔法のある世界から見れば狭き道に見えるかもしれないな。


「いえ、たしかに玉石混交ではありますが、実証された事象は多岐に渡りますので、同じ手順であれば才能に関係なく誰が行っても同じ結果となるわけですから汎用性はむしろ高いと思います」


 他にもいくつか質問を受けたが、皆大人からの質問ばかりだった。

 生徒から質問受けたいんだけどな……。

 中には眉唾物だと断じてくる講師も居たが、だからこそ論理だけでなく実証も行うから、論理実証流というのだと、ぶっちゃけ今考えた反論をしたら、むむむと黙ってしまった。


「他にはもう無いようですので、これにて初回の講義を終了します。次回は来週の本日と同じ時間です」


 こうして、俺の初講義は無事終了した。


「出だしはともかく何事もなく、終わったのが信じられないわね」


「俺をなんだと思ってるんだアリーセは?」


「スタンピードが服着て歩いてる感じね」


「オーケイ、これ以上変な異名を着けるのは辞めてもらおうか」

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