137話 大人げない
「もし良ければなのじゃが、臨時講師として教鞭を取ってもらう事は出来んかね?」
「はい?」
いやいや、今しがたすごく残念な子を見る目で見てたよな?
それでこの流れっておかしくないか!?
「いやなに、別におかしなことでは無い。 講師は知識を教える事が出来れば、本人が最高の使い手である必要はないからの」
「いや、それはそうかもしれませんが、イキナリ何処の誰とも知れない者が、今までと全く違う事を言い出しても信用されないでしょう!?」
「コリンナ君の護衛についているというだけで、すでに何処の誰とも知れないと言うことはないじゃろうし、その一番弟子とも言えるコリンナ君の実力が大人顔負けだと解れば何も問題あるまい」
それはそうかもしれないが、どうやってその事を周知するつもりなのだろうか?
微妙に嫌な予感がするのだが……。
「入学後からの一ヶ月後に、生徒対抗の魔法トーナメントを行っておる。基本的には真面目に学べばここまで魔法を使いこなせるようになるぞ、と上級生が入学したての下級生に見せて、やる気を起こさせるという趣旨なんじゃがな。 下級生からの飛び入りも認められておるんじゃ」
思い上がっている貴族の生徒の鼻っ柱をへし折ってやったり、本当に実力のある生徒を見つけて飛び級させたりする、なんていう目的もあるそうだ。
コリンナ様ならまず飛び級出来るだろうとのことだった。
「しかし、それでコリンナ様が目立ってしまって、他の貴族の生徒からやっかみやら因縁やらつけられたりしないのか?」
「普通、飛び級したことの名誉の方を考えるものですけど、なにか実感がこもった心配をしますわね?」
あ、いや俺が昔イジメられっ子だったというわけじゃ無いんだが、よくある話じゃないか。
何やらヴォルフ学園長も哀れみの目、というかシワでこっちを見ているが、俺がイジメられっ子だったわけじゃない。
大事な事なので2度言った。
煮え切らない玉虫色の返事でのらりくらりと会話を続けて引き上げたのだが、厳正なる審査の結果、コリンナ様の賛成を以って、トーナメント後に臨時講師を引き受けるという事になってしまった。
「学園長に認められて講師を頼まれるなんて すごいです!」
などと言われとキラキラした目で見られてしまって、断れる奴が居るだろうか?
ヴォルフ学園長が講義の内容は任せる、と言うので引き受けてしまった以上は科学と現代戦術を広めてやろうじゃないかと思っている、正直どっちも中途半端な知識しかないが……。
そんなわけで、コリンナ様が飛び入り参加をする事が確定しているトーナメントまでは、普通に交代で護衛について、暇な時間は王都を見て回ったり、ヴォルフ学園長に理科の実験をやって見せたり、ワトスンに貰った連発式魔導銃を複製して2丁拳銃で遊んでみたり、正座でお説教されたりして過ごした。
その期間中、俺が護衛についていない時に何度か貴族の生徒にコリンナ様が絡まれたらしいが、修練場で決闘しますか? とコリンナ様が切り出すと、捨て台詞を吐いて逃げて行くらしい。
それではと、俺やグレイさんの居ない時に、女ばかりならイケると思ったのか、冒険者である護衛に難癖をつけて護衛同士での模擬戦をけしかけられたりもしたらしいが、周りが引く様なレベルで圧勝したようだ。
例えば開幕早々、対戦相手の周りに隙間なく炎が取り囲んで、降参と言うまでジリジリとその範囲を狭くしていったり。
「相手の位置と開始タイミングがわかっているのですから、容易でしたわ」
例えば開幕早々、対戦相手の足元に刺さった矢が爆発してみたり。
「直接当てるわけにはいかなかったとはいえ、穴を空けた床の弁償をどうしようかしら?」
例えば開幕早々、対戦相手の新調したばかりの高級な武器防具が素材にもどって涙目にさせたりしたらしい。
「錬金術師相手に普通の武器で挑んでくるとはいい度胸だー」
合掌……。
とりあえず、心に傷を負った対戦相手に後ほどコンディションポーションを、怪我して寝込んでいた人には回復ポーションを、武器防具を無くした人には元よりちょっと良い物をそれぞれ渡して謝って回っておいた。
護衛の人達は命令で仕方なく模擬戦を挑んできただけだし、雇い主が違うだけで同じ冒険者仲間だからな。
床の穴の弁償も俺がしておいた。
そんなこともあって、瞬く間にコリンナ様と護衛の女性陣達の噂は学園中に広まり、発動体の名前でもある「ライヒトリーリエの戦乙女」なんて呼ばれるようになっていた。
グレイさんはグレイさんで正規の護衛なので、一応貴族同士の体裁があるので模擬戦をけしかけられる事はないが、フェルスホルストで今結婚したい男性ナンバーワンのイケメンだけあって、学園の女の子達にキャーキャー言われていてすでにファンクラブのようなものが出来上がりつつあるらしい。
俺? ヴォルフ学園長と茶飲み仲間になってるだけだよ!
まあ、おかげで夜の生徒がいない時間に魔法の遠投場とかいう射撃場みたいな所を使わせてもらえるので、魔導銃とかのテストが出来てるけど……。
「え、イオリも噂になってるじゃない?」
「マジで!?」
「夜な夜な誰もいないはずの魔法遠投場から聴こえる怪奇音って」
「七不思議扱いじゃねーか!?」
悔しかったりはしないが、その夜はベッドに潜って呻いたりした。
その翌日の護衛担当が俺だったのだが、入園試験の時に一番手で魔法を披露した第三王子が、コリンナ様に絡んできた。
すぐに帰ってしまったせいで、コリンナ様の魔法を見ていなかったため、学園で囁かれている噂が気に入らないらしく、自分の方が実力は上だから調子にのるなよと、貴族らしい遠回しな言い方で言ってきた。
決闘でも魔法比べでも受けて立つという姿勢のコリンナ様に、女に向ける魔法など無い!と、ちょっと格好つけて言って、どういう理屈か知らないが、護衛同士の模擬戦で優劣を競おうという話にまとまった。
先方の超絶イケメン護衛が「流石に相手になりませんよ?」とか上から目線だったので、微妙にやさぐれていた俺は、対戦相手を解析ツールでコードを入手し、チートツールで持ってるスキルレベルを軒並み0にしてやって「足元がお留守になってますよ?」とか「お役に立たてて光栄です。失敗を見届ける役ですけどね」とか「ねえ格下だと思ってたノービスに手も足も出ないの今どんな気持ち?」とか一方的にボコボコにして散々煽ってやった。
決着がついた後に一応スキルのレベルとかは元に戻してあげたが、後で「同じ冒険者仲間に対してやり過ぎ」とアリーセから小一時間お説教をくらった。
自分のことを棚に上げてね? とか思ってたら、なにか察したらしくお説教が長くなっったりした。
コリンナ様からも「めっ」ってされてしまったので、流石にやりすぎたと反省し、対戦相手だった第三王子の護衛が交代したところで謝罪をしに行った。
「礼に欠くような行為をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」
「いやいや、頭を上げてくれ、見た目や仕草だけでは実力は判断出来ないのだと、反省する機会が出来たからな。 Aランクの冒険者だという奢りがあったと、死なないうちに知ることが出来たわけだから、むしろ感謝をしているくらいだ」
うわやっべぇ、Aランク冒険者をボコボコにしてしまった。 しかも、なんかめっちゃ良い人っぽい。
「ロクに自己紹介もしてなかったな、マクシミリアン・シュパールヴァッサーだ、マックスと呼んでくれ、俺には敬語も不要だ。 さっきも言ったがコレでも一応Aランクの冒険者だ。 なったばかりだけどな。 ジョブはソードマスターだが、少し回復魔法も使える」
「ランクC冒険者、ノービスのイオリ・コスイだ。 俺もイオリで良い。 偽装スキルを使っているわけでも何でも無く正真正銘ノービスだ、なんか無節操にいろいろやってる」
「総合力で戦うってことか、開始の合図と同時に急に体の動きが鈍くなったのは、何かそういうスキルか魔法を使ったのか?」
「じゃ、邪眼みたいなものだ、目を合わせた相手の行動を縛れるんだ」
デマカセも良いところだが咄嗟に出たのは中二のような設定だった。
自分で言っておいて難だが、邪眼は無かったな……。
「あの後、色々と周りに聞いたが、コリンナ様の護衛は皆恐ろしく強いようだな。 それなのにAランクのものが居ないとは、フェルスホルストの冒険者は実力派揃いなんだろうな」
「あーいや、なんというか、うちが攻撃力の偏重パーティなんだよ、Aランクともなると、腕っ節だけじゃ上がれないだろ?」
「いや、それを言ったらCランクの時点ですでに腕っ節だけじゃ上がれないんだが……」
マックスにAランクになったときの話などを聞いてみると、人柄と総合能力や継続戦闘能力の高さが重要であるそうだ。
モチロン信頼と実績も必用だ。
うーん、アリーセは礼儀作法とマナー講習途中だし、エーリカは魔力が切れたら何も出来なくなるからAランクになれないと本人から聞いている。
ワトスンはメインが錬金術師なのでそもそも冒険者のランクは一番下のランクだ。
俺も、万全のマックスと剣で戦ったら勝てないだろうし、Aランクになるのはまだまだ難しそうだな。