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135話 小さくても貴族の淑女

「こ、コリンナさん、発動体の使用は構いませんが魔道具の使用は認められませんよ?」


 試験官の一人の気難しそうなヒョロいオバちゃんがため息をつきながらそう言った。

 あれだ、アルプスの女の子を苛める先生みたいな感じのオバちゃんだ。


「魔道具は使用しておりませんよ?」


「あんなフザケた魔法は聞いたこともありません!! 幾ら貴族でもそんな嘘は通りません!」


 なんだこの人は? オバちゃんが嘘つき扱いをしだしたので、見てる他の生徒達もヒソヒソやり始めた。

 コリンナ様は普通に魔法を使っただけなので、言いがかりではあるのだが、簡易結界発生装置やスチームキャノンが仕込まれているので、魔道具じゃないとも言い難いからどうしたものかな。


「私の師は東の果てにある国から来られた方で、この国ではあまり知られていない流派ですからご存知無いのも無理はありません」


 ヒステリックに叫んでいるオバちゃんを止めに入ろうとしたら、コリンナ様が落ち着いた様子でしっかりと反論を返していた。


「ですから、聞いたことが無いと言っているのです。 でっち上げるにしてももう少しマシな嘘を言わないと誰も信じませんよ!?」


「あら? 神ならぬ人の身で、この世の全ての流派を知っているとでもおっしゃるのですか?」


 頬に手をあて、こてりと首を傾げ困った方です事、といった様子の態度を示すコリンナ様は、小さくともしっかりとした貴族の淑女なのだなーと思わせた。


「落ち着きなさいダグマーヤ男爵夫人、確かに聞いたことのない呪文詠唱だったが、魔力の流れも発動時の高まりもしっかりと感知した。 信じられないのも無理はないが、紛れも無く彼女の魔法だ。 それにどうしても信じられないのなら、そんなにがならなくとも他の魔法も使って貰えば良いだけじゃあないかね?」


 目なのかシワなのかよくわからないくらいシワくちゃで、真っ白なヒゲを生やしたおじいちゃんがヒステリーオバちゃんを諌めてくれた。

 ってか、貴族であるコリンナ様に随分食って掛かるなーって思ったら、このオバちゃんも貴族だったのか……。


「がなってなどおりません!」


 オバちゃん……ダグマーヤ男爵夫人が顔を真っ赤にして否定しているが、十分食って掛かっていたと思う。


「では、先ほどの魔法は火と土でしたので、風と水の魔法とかを披露すれば良いでしょうか?」


「なんと、その歳で混成魔法を使用したと言うのか!?」


 おじいちゃんの目がカッと見開かれた。

 そこが目だったのか。


「便宜上属性を使って話をしましたが、論理実証流では属性を区別しておりませんので、混成魔法という考えはありません。 先程の魔法は魔力で金属を生成して、その金属を小さな爆発をおこして飛ばしたのです。 これは魔導銃という魔道具の仕組みを魔法で再現したものですので、ダグマーヤ男爵夫人が魔道具だと勘違いなされてしまったのも仕方がありません」


 コリンナ様が、ハキハキ答える。 船上で講義した話をしっかり覚えていたようだ。

 しかし、実のところ俺がそういう魔法や詠唱を直接教えたわけではなかったりする。

 エーリカが使っている魔法を科学的に表現するにはどうすれば良いか? とか、魔導銃の魔石を使わない場合の弾はどうやって飛ばしているのか? とか、船はなんで浮くのか? とかコリンナ様が「なんでなんで?」と聞いてくるので、その都度ウンチクを語って聞かせていたところ、その内容を呪文詠唱として使用し始めたという経緯があるのだ。

 例えば、水素2に対して酸素1を燃焼させると水が出来るという実験をしたとき、属性的に言えば風と火から水が出来るという現象が非常に面白かったようで、いつのまにか魔法でこれを再現していた。 酸素は空気中の物を使用できるので水素の生成と発火の魔法の組み合わせでだけで使えたため、あっちこっちで小さな爆発をポンポンと起こしカーペットなどが湿気るという事件があったりもした。

 

「ほう、それは実に興味深い。 試験中でなければじっくりと話を聞きたい所じゃのう」


「それはまた別の機会にお願い致します。 では、お待ちの方がまだ沢山居ますので、さっそく別の魔法も披露させて頂きますね」


「休まなくて大丈夫かね? 魔力の回復が必用じゃろう」


 おじいちゃんが、優しい口調でコリンナ様を気遣ってくれているが、心配は無用だろうな。


「私の二人の師に頂いたこの発動体ライヒトリーリエのおかげで、魔力の消費が随分と少なくて済むので大丈夫です」


 コリンナ様が誇らしげに杖を掲げる。 太陽の光でキラキラと光ってとてもキレイだ。

 ふむ、あれ、喋るように出来ないかな?


「そうか、良い師が居るのじゃな。 では、始めてくれ、壁に穴を空けん程度にな」


「わかりました」


 再び立射の構えである。 的は幾つか用意されてるので


「えーと、水0.2L生成、水が拡散しないよう均等に加圧して水球を作成、水球後方より150気圧で加圧して前方に開放、毎秒5回3秒間継続……ラピッドウォーターショット!」


 あ、発動体事態が発射してくれるから、それだと、圧力かけすぎ……。

 過剰に加速された拳くらいの水球が、次々に発射され、的に吸い込まれてゆく。

 水球は5発くらいで的を粉砕し、残りの弾は壁にぶつかって消滅した。


 またもや、周りが静まり返ってしまった。

 ダグマーヤ男爵夫人も口をぽかんと空けて固まっている。


「あー、すまないが今の魔法を解説してくれんかね? 魔力などの流れから魔法がしっかりと発動した結果なのは解るのじゃが……」


 おじいちゃんは、別に驚かなかったようで、すぐに今しがたの魔法についての質問をコリンナ様にしている。


「考え方は先程と一緒です。 散らばらないように水を固め、風に該当する空気を圧縮して一気に開放することで水を発射しました。 どれくらいで破壊できるかわからなかったので、少し多めに発射しましたけど、何発も発射したのは、的を破壊するために水球を大きくするよりも魔力の効率が良いからです」


「なるほど、小規模の魔法を連発するというのは『実戦魔法』の先生も提唱しておるから問題なかろう。 よし少し検証させてもらおうか、そうすればダグマーヤ男爵夫人も納得するだろうて」


 おじいちゃんが、どっこいしょと杖を持って立ち上がり、的と向き合った。


「こうかの? ウォーターショット!」


 杖を一振りすると、的に向かって拳くらいの水球が発射され、的の中心を貫通した。

 一発だったが水球の威力はコリンナ様より高いようだ。


「ふむ、確かに風の助けを借りたら威力が随分と上がったようじゃ。 こんな僅かな消費魔力でココまでの効果を発揮する事ができる流派が存在するとは今まで知らなんだが、素晴らしいのう。 是非あなたの師に逢ってみたいものじゃ」


 コリンナ様の魔法が認められたのは良かったが、面倒事の予感がぷんぷんするから、しらばっくれといた方が良い気がするな。

 ジェスチャーで黙っててくれるようにコリンナ様に伝えると、笑顔で頷いてくれた。

 よし、これで大丈夫だろう。


「イオリ先生でしたらあそこに居ます。 先生も是非お話がしたいと仰っているようです」


 伝わってなかったー!?

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