127話 性能実験
「ここで、なんだかんだ言ってもしょうがないですから、海に向かって試しに魔法の1つでも打ち込んで判断すれば良いと思いますわ」
エーリカから建設的な意見が出たので、ひとまず俺とワトスンは一回寝てからテストをしようということになった。
昼くらいまで寝かせて貰ってから、船の甲板に皆で出て、我々の中で一番魔法に造詣が深いエーリカがライフルロッドのテストをしてみるということになった。
コリンナ様は船室に居てココには呼んでいない。
仲間はずれにしたわけではなく、性能実験は場合によって危険を伴うという事でヘンリエッテさんが護衛の立場から同席を許可しなかった為だ。
甲板の上で集まっていると、暇な船乗りたちもなんだなんだと集まってきた。
余談だが、この中には帝国の船乗りたちも混ざっている。 見捨てても良かったところを助けたんだから、飲み食いする分くらいは働けと、こき使われているのだがとくに反抗することもなく、大人しく従っているようだ。
軽く、ライフルロッドの構え方と、スコープの覗き方をレクチャーして、エーリカに海に向かって立射の構えをとってもらう。
「それじゃあ、普通の発動体と同じように試してみますわね」
エーリカはBランクの冒険者でマジックユーザーという信頼度がら、発動体を始め魔道具のテスト等の依頼を受けたことがあるそうで、非常に手慣れた印象を受けた。
「魔力の通りはコリンナ様にあわせているはずなのに、恐ろしいまでに抵抗を感じませんわ。 ただ、色々とくっついてるので重いですわね全部外してくださいまし」
「そんなせっかくカッコよく色々と着けたのに……」
本体は大分軽く作ってあるが、オプションパーツをつけすぎて重くなってしまっているとのことで、無情にも本体内臓のスチームガン以外すべて外されてしまった。
「そりゃあそうよね、あんなに色々着いてたらせっかく軽く作った意味が無いじゃない。 大人でも重たく感じる物をコリンナ様が持てるわけないでしょ」
「それは盲点だった」
「本体を軽くしようって時点で気付いてくださいよ」
グレイさんにまでツッコミを頂いてしまったが、言われてみればマッタクその通りである。 何で寝る前は、全部着けるのが当然というような気がしていたのだろうか?
「全部外してしまえば、ちゃんと短めの杖に見えますわね、それに随分と軽くて取り回しが良いですわ」
エーリカがブンブンとライフルロッドを振り回したり、くるくると回してみたりとまるで杖と踊るような動きで取り回しを確認している。
「それでは、魔法を使ってみます」
一通り振り回してい満足したのか、再び立射の体制になり海に向かって炎の魔法を撃ち出した。
打ち出された炎は一筋の軌跡を描き、海面に接触したと同時に炎とその炎に熱せられた海水が瞬時に水蒸気に変わり、大きな爆発音と共に大きな水柱が上がった。
相変わらずの魔法の威力だ。
「おー、シーサーペントを倒した時の魔法だよね? 魔力消費とかはどんな感じだったかなー」
ワトスンが、メモを持ってエーリカに使用感等を聞きに行く。
「な……」
「な?」
「なんなんですのこれは!?」
「ちょっ、まって、おち、つい、てー」
エーリカが、ワトスンの肩を掴んでガックンガックンとやっている。
面白いくらいワトスンの首がカクカクいっている。
「一体何があったんだよ、説明してくれ?」
「今私が使用した魔法は上級魔法ではありませんわ、初級魔法のリトルファイヤーボールですわ!」
そんな今のはメ○ゾーマではない、メ○だ、みたいな事言われましても……。
「ミスリルを使った発動体の増幅効果は品質つまり純度で決まるんだけど、ほんの僅かな不純物が混ざるだけでものすごく効率が落ちるんだよね。 国宝級の発動体に使われているミスリルでもこれに使った奴より随分と不純物が多いんだよー。 だからソレのせいだろうねー」
ほう、そうだったのか。
たぶん純度的には、100パーセントのミスリルになってると思う。
「こ、国宝級以上……」
周りで話しを聞いていた船乗り達から、ゴクリと鍔を飲むような音が聞こえてくる。
あ、これ盗みに来るやつが来るフラグか? 一応牽制しとく必用があるかな?
「まぁ、一応盗難防止として、登録している以外の人が触ると勝手に至近距離で魔法が発動してさっきエーリカがぶっ放した程度爆発を起こす仕様になってるから扱いには十分気をつけてくれ」
「過剰防衛すぎるわ!」
アリーセが叫ぶと、話を聞いていた人達が一斉に、ざざっと数歩下がった。
「魔法の心得が無い人が触ると、最高級の魔力遮断の魔道具とかも全然効かずに、魔力がコレに全部吸い取られるから、そっちも要注意だねー」
「呪いの装備じゃないの!?」
なんだか、アリーセのツッコミが追いついていない感じだが、さらに人の輪が遠ざかっていく。
「こんな品質の素材使ったことなかったからねー。 効果が強くなりすぎちゃったんだよね。 仕上げる時にはちゃんと周りには被害が出ないように調整するから安心してー」
「それって、今は全然安心出来ないということだよね!?」
アリーセがツッコミを入れる度に人の輪がどんどん遠ざかっていくな。
「では正気を取り戻して、テストよろしくお願いしますー」
「気を取り直してだよね!?」
もう、その辺は放っておかないと疲れるぞ?
「……で、では、もう少しテストしてみますわね」
微妙な間が出来たが、エーリカが気を取り直して再びライフルロッドを構えた。
少し悩んだ素振りを見せたが、その後にポンポンと断続的に拳大の火の玉がまっすぐ海へ飛んで行き、小さな水柱を次々に立てていった。
最初は数秒に一発程度の間隔で魔法を撃っていたエーリカだったが、徐々にその間隔が短くなり、最終的には1秒間に5~6発ほどの早さで火の玉を打ち出していった。
大きな魔法で一撃ってのも強いが、被害を考えると小規模な魔法を連射するっていうのは有効なんじゃなかろうか?
しばらく、魔法をリズム良く連射していたエーリカが、何を思ったのかライフルロッドを真上に向けた。
最大到達高度でも調べるのかと思ったら、上に向かって放たれた魔法の軌道が1mほど上昇したあたりから折れ曲がり、すべて同じ海の方へと飛んでいった。
「今のは?」
「極小まで魔力の消費を抑えても魔法がしっかり発動したので、一段階魔力の操作を増やして軌道修正するようにしてみただけですわ。 普通に行うと結構魔力の消費が激しいのであまり使えないのですが、この発動体を使えば、日が暮れるまで撃ち続けられそうですわね」
日が暮れるまで秒間5発の追尾する魔法を撃ち続けられるとか、スタンピードのときにコレをエーリカが持ってたら一人で殲滅できたんじゃなかろうか?
まあ、オプションパーツは置いておいて、本体の発動体のテストとしては、いい結果だったということで良さそうだな。
「それは良いとしまして、これと同じものを、私にも作って頂くことはできますの? いくらでも出しますわよ?」
なんだかデジャヴを感じるがエーリカの目がトイザ◯スに居る子供の目のようだった。




