125話 反省しない者達
「え? 俺が使ってるヤツって、杖じゃなくて魔導銃のことだったのか!?」
「君、杖なんか持ってたの? 僕はソレ見た事無いからてっきりスタンピードの時に作った魔導銃の事だと思ってたんだけどー?」
そう言われて見れば、ワトスンには銃しか見せてない気がする。
「大丈夫です、これであってますよ?」
俺が勘違いしていただけでコリンナ様は最初から魔導銃型の発動体が欲しかったらしい。
「それはちょっと惹かれるけど、発動体としてどうなんだ?」
「形は問題ないし、むしろ杖より狙いやすいんじゃないかな? 流石コリンナ様だよね、頭良いなーって思ったよー」
「頭が良いなんて、そんな事ありませんよ。 ただ、イオリ先生の魔導銃は狙いやすく命中精度が高いってお話をお父様から聞いていただけです」
コリンナ様は、決まった方向に魔法が飛ぶなら、飛ばしやすい形をしていた方が当てやすいだろうと考えたようだった。
頭いいな!
一瞬『魔砲少女』なんて言葉が頭に浮かんだが、誰にも伝わらなそうなので、この言葉は心の中にしまっておくことにする。
「それだったら、銃床と握りが一体型になっているタイプの方が良いいんじゃないか?」
「一体型?」
「えーと、ちょっと待ってくれ」
俺はチートツールをいじり、以前魔導銃に改造した銃と同時期に登場したコラボアイテムのレミヌトンN870という世界で一番売れていると言われているショットガンを取り出した。
このショットガンは、競技用や狩猟用のライフルなんかと同じような歴史のある銃床の形をしているのだ。
まあ銃床が木製なので、一回取り出してしまうとアイテムボックスにしまえなくなるから使っていなかったのだが、ワトスンに渡してしまうなら構わないだろう。 これもゲームバランスの名のもとに随分と弱体化しているわけだし。
「これは、こうやって持って使うんだ」
実際に構えて見せる。
弾は入っていないが、ショットガンの醍醐味であるポンプアクションをジャコンとスライドさせたりしてみせる。
「へー、普通にちょっと変わった杖だなーって思ったけど、それも銃なんだねー。 バラして良い?」
「まぁ、ワトスンに渡すために出したからな、好きにしてくれ。 で、形の参考にするのは、この木製の部分だな」
ワトスンにレミヌトンN870を渡し、扱い方や大雑把に仕組みを説明する。
内部の機構や給弾の仕組みまではよく知らないので、非常に大雑把なことだけだが、今回は魔導銃を作るわけじゃないから問題ないだろう。
「おー、思ったより細くて握りやすいね、杖っぽいし」
「あっ、私も持ってみたいです!」
コリンナ様も持ってみたいと言うので、大丈夫だとは思うが念のため弾が入っていないということ事を何度も確認してから渡す。
小さな女の子に1m近くある大きな銃、凄いアンバランスな感じだ。
……アリだな!
「これは重いですね……」
「もちろん、もっと軽くなるように作りますからご安心をー」
「もし、長さが無くても問題ないなら、グリップの先くらいでぶった切ったようなデザインの方が取り回しは良くなりますよ」
銃の全長をコンパクトにして、取り回しを良くし、装弾数等を多くしたPDWという防御を目的とした構想の銃がある、それを参考にしたら良いんじゃないかと思う。
まぁ、元の世界ではPDWの構想で作られた銃は、人質救出で突入するだとか要人暗殺だとか、防御では無く非常に攻撃的な場面でばかり有用性を示されて、ちっともディフェンスではないと、現在はこのカテゴリー自体が無くなってしまったようだ。
まあ、今作るのは銃では無く魔法の発動体なので、防御だ攻撃だっていうのは使う魔法で変わってしまうから、取り回しが良ければ何でも構わないだろう。
「長さは魔法の安定性につながるんだけど、素材の品質が良いから短くても十分安定するから大丈夫だよー。 じゃあ、それに合わせて形を変えてみようかー」
ワトスンが最初にミスリルを変形させて作成したベースの棒を、再び変形させてゆく。
コリンナ様のサイズにあわせて2/3くらいのサイズにしたようだ。
もともとのレミヌトンN870サイズも、体の小さい日本人や女性には少し大きいと感じるサイズなので、大人になっても問題無く使えそうなぐらいの絶妙なサイズだと思う。
「チークパット……えーっと、肩に当てる部分に上げ底みたいなパーツを付けてやれば、交換することで体格にある程度合わせられるし、軽量化するなら後ろの部分を大きくくり抜いちゃっても良いんじゃないか?」
「あー、そうだね。 それじゃあそのあたりに精霊石を埋め込むとちょうど良いかなー」
ワトスンが銃床部分を肉抜きして、エーリカに貰った精霊石をはめ込む場所を作る。
「レイルも着けよう、前に改造で作ってもらった銃の上下左右についていた細かい溝のついた部分だ、溝の深さや間隔、幅なんかを同じにしてくれ」
「あれ、滑り止めじゃないの? あの形だとエッジが痛いから要らないんじゃないー?」
俺がレイルといっているのは、小火器用の規格化・システム化されたオプション取り付け台のことである。 規格化されたことで、スコープやライト、グレネードランチャーなど様々なオプションパーツを簡単に取り付ける事ができるのだ。
魔法の発動体なので、これを取り付けるのは悪ノリ感があるが、レイルがあれば、俺が持っている魔導銃や他のコラボ武器のレイルについているパーツがそのまま取り付ける事ができて便利なんじゃないかと思ったのである。
そのことを掻い摘んでワトスンに説明をしてみた。
「なるほど、それは便利だね、僕が作った給湯器もその規格にあうように作れば取り付けられるんだねー」
「給湯器は付けられなくて良いからな!?」
そんな感じで、あーでもないこーでもないと、試行錯誤が繰り返された。
最初はわりとシンプルな発動体を想像していたのだが、俺もワトスンも悪ノリが徐々にエスカレートしていったのだが、コリンナ様も実用的かつ強力であるなら構わないらしく、止めるどころかむしろニコニコと笑いながら煽ってくる始末であった。
聡いとはいえ、まだ子供なので質実剛健な実用品より、ゴテゴテといろいろ着いたモノの方が、良さそうに思えるというのもあるのだろう。
「魔力が切れても戦える術を身に着けましょうと、ヴァルターには良く言われていますから、柄に斧をつけるとか武器としても使えるようには出来ますか?」
ヴァルターさん、子供のコリンナ様にもそんな指導してるんかい!?
しかも、斧って……。
「レイルがつくので、そこに付けられる短剣を作れば、一応槍のように使うことも可能ですよ」
いわゆる銃剣と言うやつだな。
グレネードランチャー仕様の魔導ランチャーとか作ってマウント出来るようにしても良いかもしれない。
「それならいっそ魔導銃の機構も組み込んじゃいますー?」
「魔導銃というとイオリ先生とお揃いですか? それは嬉しいです!」
発動体のオマケでコリンナ様の要望のままに色々と取り付けていったのだが、だんだん発動体がオマケのようになってきた。
しかし、ここにはコリンナ様を含めて止める人が居なかったため、俺たちの悪ノリはどんどんエスカレートしていった。
それは、夜遅い時間になりコリンナ様が就寝した後も加速度的に続いたのであった。