121話 海にも穴を開けよう
間が空きすぎるのもアレかと思いまして更新します。
「じゃ、行ってくる」
俺は帝国の私掠船から見て裏の方から海に身を投げた。
もちろん自殺とかでは無い。 背中にはジェットパックを背負い、水中呼吸の魔法もエーリカにかけてもらっている。
一応言っておくが別にパン1とかでは無い、ちゃんとウエットスーツを着ている。
もちろんこれもゲームであったアバター装備であるが、これに着替えたら女性陣には変態を見るような目で見られてしまった。
真っ裸とかパンツ一丁よりはマシだろうと言ったら一応納得してもらえたが、ウエットスーツは奇異の目で見られてしまったようだ。
船員達には付属の水中眼鏡の方に興味津々と言った様子だったのでいくつかプレゼントしておいたら大変喜ばれた。
水中でのジェットパックの挙動を確認すると、魔石で水を作り出して吹き出すという機構のお陰で空気の泡が出ることもなく、少し潜れば泡も波も立てずに進むことが出来そうだ。
速度は感覚的にではあるが手漕ぎボートよりは早いようなので、生身で進むなら十分過ぎる速度だ。
正直これより早いと水の抵抗で身がもたないと思う。
帝国の私掠船まではまだ幾分か距離があるが、のんびりと汚れのない綺麗な海の水中散歩を楽しんでいる時間は流石に無い。
俺は2mほど潜ってジェットパックを吹かし帝国の私掠船に向かって行った。
途中でそっと頭を出して方向を確認しながら見つからないように慎重に近づいていく。
ふと、ここで船をも一飲みに出来そうな馬鹿でかいモンスターに襲われたらどうしようとか、余計な事を考えてしまい、海底の見えない真っ青な海に言い知れない恐怖感を覚えながらも、なんとか無事に帝国の私掠船の近くまで来た。
そういうモンスターが実際にいるとしても、外洋ではゲームのような頻度でモンスター出会うことはまず無い。
いくら海洋生物やモンスターが多いといっても海は広すぎるので、探そうと思ってもそうそう見つからないのである。
そう、頭ではわかっていても、怖いものは怖いので、最悪でも死にはしないんだと自分を言い聞かせ船の進行方向正面辺りで15mくらい潜水した。
そして、船が通りがかったところで、以前思い付きでアイテムボックスに取り込んだ空気を次々に取り出したのだった。
船というのは水の浮力によって水面に浮いているわけだが、稀にこの浮力が働かなくなり、船が沈んでしまうという現象が起こることがある。
これは海底にあるメタンハイドレートなどが急激に気化をして、海中に大量の気泡が発生し水よりも気体の比率が高くなってしまい船が浮力を得ることが出来ずに、穴にはまったように沈んでしまう『ブロウアウト』という現象だ。
かの有名なバミューダトライアングルでの船舶事故はこれが原因では無いかとも言われている。
実際のところ他の海域と比べて特別事故が多いというわけでは無いという浪漫も夢も無いデータがあるらしいが……。
それはさておき俺のアイテムボックスには戯れに取り込んだ空気が大量にあった上に、これを増やすことも可能だ。
相手の帆船の喫水はせいぜい10m、速度を優先した作りのためか、大きさもそこまで大きくはない。
それに対し、絶え間なく空気を取り出すことで一時的に深さ15mの穴を海に作り出したようなものだから、どういうことが起こるのかは推して知るべしだ。
一気に空気を取り出すとうっかり爆発しそうな予感がしたので、なるべく広範囲に絶え間なく絞り出すイメージで取り出している。
アイテムボックスは慣れてくると見える範囲ならばある程度好きな場所に物を取り出すことができる。
まあ、取り込む物の大きさや重さが違うのに、全部自分中心にしか出せないとかだと大きなものを出した時に自分が潰されてしまうわけだから、ある程度任意に出せなければ使用出来きなくなってしまうので、当然出来ないとおかしいわけだが。
というわけで、ジャグジーも真っ青というくらい、見渡す限りの泡が俺の視界を覆っている。
ぶっちゃけ何も見えないしブクブクゴポゴポと音もすごいので、成功したのか失敗したのかよくわからない。
失敗したらエーリカが特大魔法をぶち込んで残骸も残さず消滅させるという手筈になっているので、失敗したならそれで分かるはずだが、その事で今更気がついてしまった。
それって撃ち込まれる魔法によっては俺も危険じゃね? と。
エーリカのことなので、そんな事にはならないと思いたいが「ヤバイんじゃないか?」思ってしまった時点でフラグな気がしたので、全力で空気を取り出しにかかる。
どれほど空気をアイテムボックスから取り出す作業をした事だろうか? 実際にはそこまで時間が経っているわけでは無いだろうが、体感的には随分と長い事この作業をしている気がする。
必死に泡を作るだけの簡単なお仕事をしていると空気の泡でほぼ視界を奪われていたところに、突然壁のようなものが迫って来た。
いや、壁じゃないのはわかっている。 沈んで来た船の船体だろうとわかっているが、壁に見えるくらい接近されていて、かわせそうにないという事だ。
作戦はうまくいったようだが、このままでは沈没に巻き込まれてしまう。
「ガボっあばばばばばば」
水中呼吸の魔法は聞いているが水中で声が出せるわけではないようで、まともな叫び声にはならなかったが、俺は今ものすごく慌てている。
俺は沈没に巻き込まれながらもジェットパックに最高品質の水の魔石を装填した。
単純に考えればこれで出力が上がるはずだ。 問題は耐久性だが、最悪でもこの際ここから離れられさえすれば構わないので、フルスロットルでジェットパックを噴射させたのだった。




