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120話 フラグ?


「海賊船だ!!」



 物見台に居る見張りが大声を張り上げる。

 船上は慌ただしく船員が動き始め、乗客達に船室に戻るように指示が飛ぶ。



 今乗っている船は特別な船ではなく定期連絡船をチャーターしたものだ。 俺らの他の客は乗っていないが、コリンナ様やそのお付きの非戦闘員は何人か乗っている。

 襲撃を受けた際に甲板に居ては危険なので、船の中心に近い船室に居てもらう。

 通常であれば護衛艦がついて居るのが普通なのだろうが、俺らが居れば金食い虫の護衛艦を複数つけるよりも安全だろうという超理論で護衛艦を随伴していないのである。

 ジークフリード様は2隻ほど最新鋭の軍艦を護衛艦につけようとしていたようだが、ヴァルターさんが予算不足という名のもとバッサリと切り捨てていた。

 まあ、実際エーリカが居れば海賊船の一隻や二隻、一瞬で沈めてくれるだろうし、巻き添えを気にしないで魔法を撃ち込める方が良いわけだから、軍艦が着いてくるよりも遥かに安心ではあるのだが……。



「あれ沈めちゃうか?」



「別にそれでも構わないですけど、他にも船を襲っていて人質的な人が居たら可愛そうですわ」



 問答無用で沈めてしまえば俺の精神衛生上にもあと腐れが無くて良いかと思ったが、その可能性を聞いてしまうと、もしかしたら? と思ってしまう。

 とは言え、このまま襲われたくも無いし、俺が人と殺し合いが出来るのかどうかという不安もある。

 向こうも殺す気で来ているのだし、逃がせば余計に被害が増え、その被害者は自分と親しい人かもしれないんだと頭では分かって居るが、ハイじゃあ今から殺し合いをしてくださいって言われて、平和ボケした日本人がハイそうですかと出来るわけが無い。



「沈めないの?」



 アリーセがどうしたものか悩んでいる俺達に聞いてきたので、何を悩んでいるのか説明してやった。



「あーなるほどね。 可能性としては全く無いとは言い難いわ」



「じゃーメインマストや舵でもへし折ってやれば良いんじゃないかなー?」



 そこへ、船室に篭って居たワトスンが様子を伺いにやって来て話に参加してきた。

 皆なんだかんだで余裕があるな。

 海賊船を航行不能にするという方向性で話がまとまり、船長に提案をしに行こうとしたところで、拡声の魔法か何かで増幅された声が響き渡った。



《こちらは、ロウトレーゲン帝国所属私掠船、マンティコアの翼号、ドレーク船長だ。 おとなしく停船して拿捕されるなら手荒な真似はしない》



 少ししゃがれた感じの声だが、偉そうな感じで停船を促してきた。

 私掠船っていうのは、敵対している国が経済的に打撃を与えるために、国の許可を得て海賊行為を行う船のことだ。

 まあ、やられる側からすれば海賊船と変わらないな。

 っていうかロウトレーゲン帝国って何処?



「ロウトレーゲン帝国は我が国の隣に位置する国で、昨今は大きな戦争などはありませんが小さな小競り合いはちょくちょく起こっています。 この海路は帝国から見れば我が国を挟んで反対側になりますので、こんな所にまで出張ってきてるのはちょっとおかしいですね」



 説明をしてくれたのは、グレイさんという、コリンナ様の警護隊長だ。

 船上の為鎧こそ着ていないが忍んでないお忍びの時のジークフリード様の様な恰好、というか同じデザインの服を着ている。

 腕前を見込まれて平民から騎士爵を受けるまでに至ったという、庶民の憧れ的存在で、なかなかのイケメンだ。

 ……妬ましい。



「私掠船なら、こっちの通商破壊が目的だから、出張ってきていてもおかしくないのでは?」



「いえ、この辺りは滅多に船が通りませんし、ここまで帝国の私掠船が出張って来ても、帝国に帰り着く前に拿捕されたり沈められるリスクの方が高いはずです。 何か目的があると見るべきでしょう」



「面倒事? じゃあ見なかった事にして沈めちゃおうか?」



 考えるのが面倒くさくなったアリーセが、爆発する矢をつがえて今にも射らんばかりに弓を引き絞っている。

 俺が渡した矢だから、命中すれば木造の船などひとたまりもないだろうな。

 滅多に船が通らない所なら、すでに人質的な人が乗っているとも思えないし撃沈して見なかった事にするのが平和かもしれない。



「お待ちを、あるいはそれが目的かもしれません」



 グレイさんがアリーセを止め、自分の推測を語る。

 それによると、私掠行為が成功すれば特に損もなく金銭が手に入るので、それはそれでよし。 反撃をされこちらが拿捕したり攻撃を加えるなどした際にこちらの国の所属の船が帝国所属の船を攻撃してきたと言いがかりをつけ何らかの交渉で賠償を要求してくるか、攻め入って来るきっかけにしたいのでは無いかと言う事だった。



「だから問答無用で沈めて、海の藻屑にしちゃば良いんじゃないの?」



 アリーセは、どうしても沈めたいようだ。

 証拠隠滅ってやつですね?わかります。



「船が一隻と言う事は少ないですから、おそらく別の船が記録の魔道具等を持ってどこかからこちらを見張っている可能性があります」



 うわーそれってフラグが立っちゃうってやつじゃないですかヤダー。



「じゃーどうすれば良いって言うのよ」



 拗ねた調子でアリーセが聞き返す。



「そうですねぇ……。 見張っている船を発見して、そちらもすべて沈められれば良いのですが、おそらく脚の速い船でしょうしこの船で追いつくのは難しいでしょう。 そもそも隠蔽魔法等で発見できない可能性もありますね」



 グレイさんが少し考え込んでいる。



「仕方がありません、コリンナ様を危険に晒すわけには行かないので攻撃してくださって結構です」



「え? 沈めて良いの?」



 駄目って言われたから拗ねてたのに、やっぱり良いよって言われたら言われたで戸惑うあたりがアリーセらしい。



「決して良くはありませんが、我々はコリンナ様の護衛が最優先ですからね。 モンスターに襲われるか暗礁にでもぶつかって勝手に沈んれくれれば一番良いんですが……」



 グレイさんが苦笑してアリーセに答えた。

 ふむ、こちらが攻撃せずに、もしくは攻撃と認識されずにあの船が沈めば問題ないわけか。



「ワトスン、ジェットパックは水中でも使えるか?」



「水を吐き出す勢いで飛ぶんだから、問題ないよー。 水中だとあんまりスピードは出ないけどね」



 遅いって言っても、普通に泳ぐよりは早いだろうし、それなら行けるか?



「イオリ、爆発したらこっちか攻撃したってバレちゃうんだよ?」



「水中を進んでいって爆発する給湯器でも作るのかなー?」



「いやいや、俺がなんでも爆破する奴みたいな言い方は止めてくれないかね? そしてワトスンそれは給湯器ではない、魚雷だ!!」



 まあ、海戦とかになったら魚雷は非常に有効だろうけど、こっちの船から進んで行ったら何かの攻撃をしたってバレてしまうじゃないか。

 魚雷はいずれ戯れに作るとして、今回はバレないように沈めないといけないわけだから、派手に爆破するわけにはいかないから別の手を使うつもりだ。



「エーリカ、水中で呼吸出来る魔法とかって使えるか?」



「使えますけど……何なんですの、その悪そうな顔は?」



「うあ、ほんとだすごく悪い事考えてるって顔してる」



「ひどい言われよう!?」



 ともかく、あの船を静かに沈める算段はついたな。


沈めます。

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