118話 日常へ
すみません。予約投稿の日付を間違っており、投稿されていませんでした。
明日、人が来るまでにこのドームを破壊しておきたいが、あまり大きな爆発を起こすとせっかく無傷で倒したベヒーモスが損傷してしまう。 スタンピードの時のやつは損傷が激しくて、貴重な素材まで潰してしまったが、今回は全くの無傷である。
別に要らないっちゃ要らないのだが、わざわざ捨てるのも勿体無いなという気持ちが出てくる。
「死んだモンスターもダンジョンから外に出すと消えたりするのか?」
「ダンジョンに吸収される前に外に出すって事よね? どうかな、やったこと無いから分からないわ」
どうにかして素材を取れないものかと考えていたら、倒したベヒーモスから黒っぽい煙の様なものが吹き出して、風船が萎むかのようにいくつかのドロップ品の様なものを残しあっという間にダンジョンに吸収されていってしまった。
なんだろう、吸収の速さに意思的なものを感じる……。
「まあしょうがないか、あとはこのドームを爆破して……」
その瞬間、足下のドームが黒い粒子になって消え始めた。
「総員退避ー!!」
慌ててジェットパックで飛んで落下するのを回避する。
ドームが消え去ったあとには、ドームの床であった真っ平らな床とドロップ品であろうベヒーモスの素材が幾つか転がるのみであった。
「爆破とその後の瓦礫の片付けの手間が省けたねー爆破したかったけどー」
なんだか釈然としないが、手間が省けたのは事実だ。
その後も一応警戒をしながら夜を明かした。 暇だったので不枯の瓶を増やして、注連縄に幾つかくっつけてみたり、高品質魔石版ではあるがワトスンと給湯器爆弾を作ったりと、特に何も起こることなく夜が明けた。
それから間もなく開発の為の資材を持って結構な数の人達が護衛の冒険者達を伴ってやってきたのだった。
「ふあー……。 思ったより沢山の人が来たわね。 あの後は結局何も無かったけど、同じようなことが起こったら大惨事になっちゃうんじゃないかしら?」
アリーセがあくびを噛み殺しながら到着した人達を見て心配をしている。
「もしそうなるようなら、これより大きな穴をあっちこっちに空けてやりゃあ良いんじゃないか? イザってときのためにこの量産型給湯器爆弾を渡しておいても良いしな」
ん? またダンジョンが一瞬震えたような?
「そっちの方が被害が大きくなりそうなんだけど……」
「ま、何事もなく片付いたわけだし、この事自体を内緒にしとけば良いんじゃないか?」
「言っても誰も信じてくれないと思うなー」
俺達の心配をよそに、到着した人達は大穴に驚きつもテキパキと作業が進めていく。
心配とは言え、いつまでもココにいても邪魔なだけなので、これにて依頼完了ということで、責任者っぽい人に量産型給湯器爆弾をいざというときの為に1つ託して街に戻ることとなった。
大穴を開けた爆弾であると告げたら、顔がひきつっていたような気がするがきっと気のせいだろう。
その後は何事もなく街に戻り、ギルドで依頼達成の報告を入れ、白兎亭で爆睡した。
隣からハイコンディションポーションの効果が切れたアリーセの悶えて転がっている音が聞こえたような気がする。
後日パーティメンバー全員で集まって報酬や戦利品の分配を行ったり、事の顛末をクーリアおばさんに話したら、ちょっとそのダンジョンを探索しに行ってくるとか言い出して、みんなで必死に止めたり、久しぶりに家庭教師に行ったらダンジョンの調査に置いて行かれた事をコリンナ様が拗ねていて、お父様なんか大嫌い攻撃を食らったジークフリード様をなだめる羽目になったりと、俺はいつもの日常に戻っていった。
調査依頼から数週間、新しく発見された階層の深いダンジョンの話は、意図的に流している事もあり、またたく間に付近へと広がっている。
冒険者ギルドに近隣の街から噂を聞きつけてやって来た冒険者達でごった返しているのが何よりの証拠だろう。
ダンジョンの調査結果を領主が保証しているので、冒険者ギルドでも最も信頼性のおける情報である事を認め、情報の開示を行っているのだから当然のことかもしれない。
ダンジョンの大穴自体は大分修復が進んでいるようだが、注連縄の結界の効果範囲を中心に、地下45階までの各フロアに直結する階段と昇降機が設置され、5階毎に休憩所まで作られていて、無料ではないがそれほど高くもない金額で利用できるようになっていた。
入り口付近には、ゲートが設けられ低ランクの冒険者が無謀にも下層に行って死んだりしないよう、ギルドが主体となって入場を管理している。
人が集まれば、めざとい商人達も集まってくる。
商人が増えて生活に必要な物が手に入るようになると、ここに住みつく冒険者が出始める。
そして、それを見越したように最初の時点から建設が進められていた公営の宿も開店し、それに合わせて冒険者ギルドの支部も設置がされ、ちょっとした町ようになるまでそう時間はかからなかった。
しかも、もともと抜け道として使われていた森の中の道から近いこともあり、他領地からも続々と人が集まりつつある。
本来であれば、入領税を取られるのであるが、ジークフリード様はこれを無税としている為、こぞって商人がやって来たのである。
その代わり、このダンジョン町での売買の際、買う側が価格の1割の税を支払らい、後ほど売った側がそれを納めるという事としたようだ。
要は消費税を導入したわけだ。
他領の通行税やら人頭税と比べれば破格の安さであるが、商人の自己申告制であるため脱税し放題となりそうだという懸念が残る。 一応は脱税が発覚した場合は本来払うはずだった金額の20倍の罰金と町への入場の制限、またそれを告発したものには罰金で取った金額の半分を渡すという措置を取っている。
嘘の申告と嘘の告発を防ぐため、嘘を暴くという魔道具を使用するということも同時に通達されるそうだ。
そもそも、買う側が支払う税なため、売る側である商人達の懐は全く痛まないので、今のところ素直に徴税に応じる商人が多く、普通に徴収するよりも、むしろ税収が増えたようで、最近はジークフリード様の顔色も良い。
全体的に見れば良い事ばかりのようだが、1つだけ非常に困った自体も起きている。
治安が悪くなった? いや、それはむしろ良くなっている。 ダンジョンへも潜らないときの小遣い稼ぎに見回りや警備の依頼を受ける冒険者も増えたので、兵士が暇になるくらいだ。
他の領地から妨害があった? いや、末席とは言え王族の治める領地に直接何かしてくる事はない、せいぜいイヤミやヒガミの手紙が届いた、関税を高く設定する等の嫌がらせ程度だそうだ。
では、何が問題かというと……。
「イオリの大穴ダンジョンは、ランクさえあれば、45まで直通の昇降機が使えるらしいぞ」
「おういらっしゃい、イオリの大穴ダンジョンは初めてかい? 良かったら地図を買わないか?」
「イオリの大穴ダンジョン、昇降機の利用受付はこちらです!」
そう、このダンジョンの名称が誰が言い出したのか『イオリの大穴ダンジョン』と呼ばれるようになってしまったのである。
「しばらく遠くの街にでも、行こうかな……」
「ほう、それならちょうどいい護衛依頼があるぞ?」
「それは渡りに船……って、こんなところで何してるんですか、ジ……シークさん?」
「ふっ、私はCランク冒険者のシークだからな、冒険者ギルドの待合室に居てもなんら問題は無いはずだ」
いや、みんなシークさんが領主のジークフリード様だって知ってますから。
まーバレバレでも分からないフリをするのが暗黙の了解になっている。
「それで、ちょうどいい依頼というのは?」
「うむ、我が娘……。ではなかった。領主の娘が近々王都にある魔法学院に入学する事になったのだが、規則で領地の兵士を護衛として連れて行ける人数に限りがあるのだ。 領地の兵士ではない冒険者ならば、その頭数に入らないので信頼できる冒険者に声をかけているという次第だ」
なるほど、それは様々なトラブルが起こるフラグと言うやつですね?
また、忙しくなりそうだ。