10話 スキルも使い辛い
「そろそろ森を抜けるけど、この辺はゴブリンが出るから気をつけてね」
「気をつけてねったって、どーすりゃ良いんだ?」
「周囲を見渡して動く物が無いか、風で起こる以外の音が聞こえないかって警戒してみて。持ってなければ探索とか危険感知のスキルを覚えるかもね」
ほほう、スキルゲットのイベント発生みたいなもんか。主要なスキルはチートツールでゲット出来るけど、この世界のスキルと同じか分からないし、また、痛い目にあうのは嫌だな、自然にゲット出来るならそれに越した事は無いな。よし集中してやってみよう。
ん? なんか今動いた様な?
「イオリ! 下がってっ!!」
「え!?」
アリーセが、俺の前に出て、いつの間にか弓につがえていた矢を放つと50mくらい先の方から何か不気味な悲鳴が聞こえた。
アリーセは、そのまま、立て続けにさらに2本の矢を放つ。同時ではなく続けて放ったようだが、俺にはいつ矢を矢筒から抜いて弓につがえたのかわからなかった。
そして、放たれた矢と同じだけの悲鳴が聞こえる。
「イオリ! 推定ゴブリン! 総数11、正面3体ダウン! 右に6体、左に2体まわって来るわ! 私が右から順に対処していくけど、万が一間に合わなかった時の為に左の2体からの攻撃に備えて!」
「お、おう!」
あっという間にまだ見えないような位置に居たゴブリンらしきモノを3体倒したアリーセが、早口気味に俺に状況と指示を伝えて来る。流石ベテランだ、行動や指示の出し方までなんかカッコイイ。
これ残りもあっという間にアリーセが倒してしまうんじゃ無かろうか? 一応借りた剣くらいは抜いておくか。ゴブリンなら流石に何とかなるだろう。FADではチュートリアルの後にレベル1で最初に倒すようなモンスターだったし、キングオブザ雑魚のはずだ。
アリーセが先程の速さは無いが、多分確実に狙っているんだろう、少しずつ移動しながらも次々と矢を放つ、放つと必ず悲鳴、というか断末魔の声が聞こえる。しかも矢を放った次の瞬間には次の矢を既につがえられている。
「ごめんイオリ左が思ったより速い! 何とか凌いで!」
「ゲギャギャ!」
「うわっとうっ」
目の前に飛び出して来たのは、緑の肌に粗末な服と帽子を被った醜い顔のモンスターだった。大きさは子供程度しかないが、錆びた剣を持っているので、何もせず食らったら流石に痛そうだ。ゲームとは見た目が違うが、多分ゴブリンなんだろう。
飛び掛かってきたゴブリンに、慌ててアリーセに借りている剣を振り下ろす。
すると剣はあっさりとゴブリンの体をすり抜け、真っ二つになった。斬るときの抵抗も一応感じたが、よく聞く嫌な感触だとか、骨にぶつかってどうのという事はなく、ちょっと固い豆腐を斬ったかのようだった。
この剣かなりの業物なんじゃ無かろうか?
ただ、腕の問題だと思うが、漫画のように綺麗に真っ二つとは行かず、結構血や色々細かく描写したくない物が派手に飛び散っている。しかも勢い余って前に派手に転んでしまったせいで、そこに突っ込むような事態になってしまった。
「うぇええ、気持ち悪う」
酷い臭いと、スプラッタな状況で、酸っぱい物がこみ上げる。主に臭いが酷い。
その時目の前に何やらうっすらと赤いラインのような物が複数見えた。次の瞬間そのラインの一つに沿うような形でもう一匹のゴブリンが突進して来た。
【危険感知を習得しました】
なんか聞こえた。スキルをゲットしたようだ。
もう一体居た事を思い出した俺は、見えた赤い線をゴロゴロ転がりながら避け、急いで立ち上がる。慌てた事もあり1mくらい跳ね上がってしまったが、何とか起きあがる事に成功した。
「やべっ、剣落とした」
慣れない事をしたせいで、剣を取り落としてしまった。
咄嗟にゲームの時の感覚のまま、格闘スキル【コンビネーションアタック】を使用した。
【コンビネーションアタック】は、自動的に立て続けに5連続でパンチやキックを繰り出すスキルである。
しかし、よく考えてみてほしい。ゲームで再現されるスキル等の動きは、モーションキャプチャーで、アクションや格闘のプロが動きを演じているわけだ。
つまり何を言いたいかと言うと……。
「いだだだだ、そんなに足開かないからぁぁぁぁ!」
色々と特別製な体ではあるが、柔軟性という点においては、元の俺より少しマシ程度しか無かったようだ。そういえばステータスに柔軟性なんていうパラメータは無かった……。
しかし、そんな事情はお構いなしに俺の体はスキルによる動きをトレースする。
「股がああああ!」
メリメリと強制的に180度に股裂きをされた俺は、華麗にフィニッシュの上段回し蹴りを決める。
「ゲギャ?」
しかも、盛大な自爆ダメージを受けたのに、ゴブリンは無事である。
ゴブリンが小さいせいで上段攻撃のすべてが、頭の上を通過して空振りしてしまったからである。
「HPを増やして……って言ってる場合じゃねー!」
痛みの引きつつある股を押さえてうずくまっている俺に嫌らしい笑みを浮かべたゴブリンが錆びた剣を振り下ろした。
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