111話 やっぱり汎用性が高かった
チートツールが使えない以上、他の手段でミミックには静かに息を引き取って貰わねばならない。
これが普通の生き物であるなら窒息させるなり、薬物を使うなり幾らでも方法があるのだが、耐性を持っている上に、魔法生物なんていうよくわからない不思議生物にそれが通用するのかが不明だ。
「エーリカ、ちょっと聞きたいんだが、ミミックって、溺れ死んだりするか?」
「死にませんわ。 水中にあった宝箱がミミックだったと言うこともあるくらいですわ」
「それは、魚みたいに水中に生息する種類のミミックだったというわけでもいのか?」
「駆け出しの頃、水の外まで追いかけられましたし、逆のパターンで、水中まで追いかけられた事もありますから、特別ということは無いと思いますわ」
実体験でそういう事があったんじゃ、信用するしかないな。
ってか、よく居るのかコイツって?
どうやって生きてるのか不思議だが、酸素を必要としない生物は地球上にも存在するし、どうせスーパー不思議成分の魔力で生きてるとかそんなところなのだろう。
モヤッとするが……。
水没案が駄目そうなので別の方法を試すしか無さそうだ。
いきなり襲われる可能性も考慮して、アサルトランスを構えながらゆっくりとミミックに近づいて行く。
触れる距離まで近づいたがミミックはピクリとも動かない。
普通の宝箱を見たことがないので何とも言えないが、見た限りでは暗い色の木材と金属のフレームで作られた宝箱にしか見えない。
慎重に手を伸ばし、触れない位置で止め意識を集中する。
次の瞬間、ミミックがガタっと動いたので、慌てて皆の位置まで下がった。
すぐに離れたせいかそれ以上動くことも、襲い掛かってくる事も無く留まって居る。
「失敗したのですか?」
イーリスが心配そうに聞いてきた。
「いや、賭けだったが一応成功した」
ニヤリと笑いアイテムボックスから今しがたミミックから取ってきた宝を出して皆に見せた。
一同からどよめきが上がったのでドヤ顔をしておく。
俺がやったことはすごく単純だ。ミミックの中から、宝であるアイテム類を選別してアイテムボックスに収納したのである。
川の水から、不純物を除いたり、空気を収納したりと、無機物でさえあればいろいろと汎用性のあるアイテムボックスだが、この事からわかるのは、分子レベルで分別して収納が可能ということである。
必要なのは、何があるかを曖昧でも良いので認識をすることなので、解析ツールによって何を持っているのかが明確に分かったお陰で、簡単にアイテムボックスに収納が出来たというわけである。
賭けと言ったのは、もし収納しようとしているアイテムに木製とか布製とか革製の有機物を含んだ物品が含まれていたら、収納が出来なかったからだ。
それに、ミミック自身の体の一部として判定されていたら、抵抗をされて収納出来ないという可能性もあったのだが、動かないでくれたし、体内とはいえ異物であったので問題は無かった。
使い方次第では、道行く人の財布からお金だけ抜き取るとか、鎧や武器を奪うとか悪用がいくらでも出来てしまうのでやり方は一応内緒にしとこう。
……あれ? 内緒にするんだったらチートツール使っても良かったか?
「まあいいや、というわけで、もう宝は持ってないので、エーリカ先生やっちゃってください!」
「わかりましたわ。 ヴォルカニックバレット!」
躊躇いなく放たれた灼熱の火の玉がミミックに飛んでいく。
少し暴れたが、その抵抗も虚しくミミックをあっという間に消し炭にしてしまった。
容赦のないことで……。
「一体なにをしたのだ?」
「企業秘密です」
シークさんに聞かれたが、一応秘密にしておく。
「アイテムボックスを使ったんでしょ? あんな使い方が出来るなんて知らなかったわ」
「アリーセさんや、折角珍しくも気を使って秘密にしておこうと思ったのに、いきなりバラさないでくれますかね!?」
「冒険者として手の内を秘密にするのは良いけど。 今ここでそのことを秘密にしてもしょうがないでしょ。 それにどうせイオリにしか出来ないし、普通はやろうとも思わないから言っても問題ないわよ」
アリーセの俺に対する評価ってどうなってるのかが気になって仕方がないが、バラされてしまっては仕方がないので、何をやったのかを大雑把に説明をした。
同時に、何かなくなった時に泥棒扱いされたくないので、体の一部や、何があるのかが分からなければ収納のしようがないということもきちんと説明をしておいた。
無機物だからって、生き物の血液中の鉄分だけ抜き取ったり、骨からカルシウムだけ抜き取るというようなことは、抵抗されるため流石に出来ないのである。
その生き物が死んでたら出来るのかどうかは、なんだかものすごく悪いことをしている感じがしてまだ試してはいないのだが……。
「ついでにいうと、イオリはそこら辺の水を直接アイテムボックスに収納出来るわよ」
ええ、それも今バラしちゃうのか!?
「なんだってー!? そんなことされたら携行水が売れなくて僕達錬金術師は商売上がったりじゃないかー」
「つまり、イオリは錬金術系統の特殊なスキルを持っているということか?」
ワトスンが地味にショックを受けている横で、シークさんが以前アリーセがしてきたような疑問を口にする。
「そういうこと、本人はただのアイテムボックスだって言い張ってるみたいだけど、一般的な私のアイテムボックスとは全然別物だと思うわ。 しかも収納する物質の成分とかをこれでもかってくらい詳しく知ってないと使えないみたいね」
ん? なんか変な説明だな。
アリーセ自身もそこら辺の水をアイテムボックスに収納出来るようになったのに、それは言っていないし、俺のアイテムボックが錬金術のスキルではないことは、以前アリーセにも説明してあるはずだ。
……もしかして、俺がやった内容を誤魔化してかばってくれているのだろうか?
「収納するのには特殊な条件があるようだけど、アイテムボックスに入れられないはずのお酒やポーションなんかも入ってるのよね」
「ほほう、ユニークスキルというやつか。 ただのアイテムボックスではないとは思っていたがそういうことだったか。 酒なども収納できるということは食料なども収納可能なのか?」
アリーセがこちらの方を向いて、俺にしか聞こえないような声で「普通のアイテムボックスで出来ちゃうって広まるとなんかマズイって言ってたでしょ? 自分にしか使えないんだぞって、うまく誤魔化しなさいよ?」と言ってきた。
あ、はい、なんというか、ありがとうございます。 打ち合わせもなく、そこで丸投げされると厳しいものがあるけど、気持ちは受け取りました。
「えーと、酒などが入っていることは確かなのですが、収納の仕方を憶えていないので、一度取り出すともう戻せないという状態なので、なんでも収納出来るのか、なにかの条件に当てはまるものだけなのかよくわからないのです。 ごく普通のアイテムボックスだと思っていた経緯があるもので……」
少し苦しいか?
「なるほど、何でもかんでも無条件にというわけではないか。 いや、詮索するつもりは無かったのだが、これはもう癖のようなものだな気にしないでくれると嬉しい」
領主様ですからねー、つい政治的に利用可能か考えてしまうってことですよねー。
「商売上がったり叶ったりにならないなら細かいことはどーでもいいんだけど。 それより、どんなお宝が手に入ったのかが気になるなー」
空気の読めないワトスンが、話に割り込んで来てくれたおかげで、手に入れたお宝の方に皆の意識が向いてくれた。
ナイスだワトスン!