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109話 戦闘は突然に

 「密集陣形!! 攻撃を凌いだ後、アリーセとエーリカは敵に矢と魔法を打ち込め!! 打ち込んだと同時に私とイオリはチャージをかけるぞ!!イーリス、アンドレア、ヴァルターは防御体勢を維持しろ!!」



 シークさんが声を張り上げ、素早く指示を飛ばし、目の前に迫る3体のゴシックな全身鎧から繰り出される大剣を盾で凌いでいく。



「うおっとあぶねっ!」



 俺も、アサルトランスを盾にして上段から振り下ろされる剣を受け流す。

 ステータスの高さとアサルトランスの大きさのお陰でなんとか凌げているが、瞬きでもしたらその瞬間に斬られそうで、冷や汗が出る。



「あれはリビングアーマーの上位種リビングナイトアーマーですわ! 巧みな連携をとってきます、後続にいる敵にも十分注意をしてくださいまし!」



 エーリカが、通路に入るなり襲いかかってきた全身鎧のモンスターについての情報を教えてくれる。

 ヴァルターさんが作業を終えて戻ってきた所で、ダンジョン内に侵入を果たしたのだが、侵入して間も無く、コイツラに襲われたのである。

 物質系モンスターとも呼ばれる、この種のモンスターは普通の鎧にまざりトラップとしても出現することがあるそうで、生き物特有の気配が非常に薄いためアリーセも気が付かなかったようだ。



 リビングナイトアーマーは攻撃がいなされた瞬間に剣を引いて素早く防御可能な位置まで下り、後方に居るもう一体の鎧と、こちらが反撃できない絶妙なタイミングで入れ替わる。

 そして入れ替わったヤツが再び攻撃を仕掛けてくるという連携を取ってきた。

 カウンターを狙おうとしても、後方にいるヤツが援護攻撃をしてくるので防戦一方になってしまっている。

 攻撃の際にフェイントまで織り交ぜてくるのでなかなか厄介だ。



「今だ押し返せ!」



「アイサー! どりゃあああっ!!」



 俺とシークさんを攻撃してくる前にいる2体のリビングナイトアーマーの動きがシンクロして、ほぼ同じようなタイミングで攻撃をして来たタイミングを見計らい、突き飛ばすように思いっきり押し返しす。



「ペネトレイトフレイム!」



「ラピッドアロー!」



 押し返されてバランスを崩したリビングナイトアーマーに、エーリカの魔法とアリーセの矢が襲いかかる。

 エーリカの魔法は一筋の軌跡を残し、胴体に大穴が空け、アリーセの矢は鎧に弾かれる事なく正確に各所の関節部分に深々と刺さった。



 余談であるが、魔法名や技名を叫ぶのは、そうしないとスキルが発動しないということではなく、仲間に魔法やスキルを今から使うぞ、と宣言をして知らせているのである。

 相手が言葉を理解している場合は行動がバレてしまうという欠点はあるが、基本的にモンスターを相手にする冒険者ならではの同士討ち対策であると言えよう。

 手の内を隠したい場合は、似たような他の魔法やスキル名を言っても別に構わないそうだ。 同士討ちや巻き込まれ防止の為にやっていることなので、重要なのは名前ではないということらしい。



「この程度では倒せませんわ、見た目の通り斬撃は効果が薄いので強い打撃で徹底的に破壊してくださいまし!!」



 エーリカからのアドバイスが飛ぶ。

 見た目の通りかなり防御力が高いようだ。



「あいわかった!」



 シークさんは、ダンジョンに侵入して、いきなり攻撃をされたのでまだ抜いていなかった剣を鞘ごと抜き去り、握り部分ではなく鞘の方を手に持った。

 胴体に穴を空けられながらも、平然と反撃してくるリビングナイトアーマーに、シークさんは相手の踏み込みのタイミングで膝上に蹴りを入れ、踏み込もうとした足が伸びてバランスを崩した瞬間に頭を思いっきり鍔の部分で殴りつけた。

 兜がメッコリとヘコんでいるので、攻撃方法も効果的なようだ。

 シークさんは、怯んだ隙を見逃さずツルハシでも振るうかの様に、そのまま剣の鍔で滅多打ちにしている。

 お行儀の良いお貴族様の剣術とはかけ離れた実に土臭い戦い方だが、前線に突っ込んでいってしまうといだけの実力があるようだ。 何かスキルっぽいものが発動しているように見えるが、もともと冒険者ではなかったシークさんは対人戦に主眼を置いた戦闘方法を修めているためか、スキル名を口に出さず黙々と攻撃をしている。

 正直いって結構強いと思う。





 俺も負けてはいられないな。



「喰らえ、パイルバンカアァァァッ!!」



 アリーセに関節部分を的確に射抜かれ、動きが鈍くなっている一体に向かって、アサルトランスを頭上から振り下ろし杭の発射トリガーを引いた。

 炸薬代わりのクズ魔石が反応し、薬室チャンバー内に燃焼したガスが充満する。急速に膨張したガスの圧力によって鋼鉄の杭が押し出される。

 硬質な金属同士がぶつかる甲高い打撃音を響かせリビングナイトアーマーの胴体を大きくひしゃげさせた。

 杭の尖端は強度重視の為かそこまで尖っていないので貫通させるには至らなかったが、その分衝撃がすべて鎧に加わり、地面と挟んで押しつぶす事が出来た。

 胴体の前面背中にくっつき、地面にもめり込む程ヘコんでいるにもかかわらず、まだ手足がカサカサと動いているあたり、相当しぶとい。





「ヴェルターさん危ない!!」



 その時アリーセの声が響いた。

 後方に居た残りの一体が俺とシークさんをすり抜け、後ろにいたヴァルターさんに襲いかかろうとしていた。



「どうぞおかまいなく」



 ヴァルターさんは、涼しい顔で振り下ろされたリビングナイトアーマーの剣を半身だけ下げてかわした。

 ヴァルターさんは相手の勢いを殺さずに剣を持った相手の手首に自分の手を添えて下向きに曲げた。 同時に少し腰を落としたと思ったら、リビングナイトアーマーがぽんと一回転して地面に倒れた。



「折角中身が無いというのに、その利点を使わず、わざわざ人と同じ動きをしているのが敗因ですな」



 ヴァルターさんは、いつの間にか剣を取り上げていて、倒れたリビングナイトアーマーの鎧の隙間にその剣を突き立てて、動きを阻害した。

 いやいや、人外のモンスターばかり相手にしてきた冒険者に対して、急に人と同じ動きをしてくるようなモンスターが出て来るからこそ、結構厄介な存在なのだと思うのだが、今回は相性が悪かったらしい。



「申し訳ありませんが、止めはお願い致します」



 ヴァルターさんの意外な強さを見て、あっけに取られる俺達にヴァルターさんがなんでもないことのように言った。



「あ、はい! 不浄なる者への女神の慈悲を!」



 一番近くにいたイーリスが、隙間に剣を刺され、動きづらそうに倒れているリビングナイトアーマーに見た目に似合わないごっついメイスでひたすら叩いて鎧を破壊していく。

  ぶっ叩くことを慈悲って言うのも凄いが、意外と力があるな……。



「手伝うねー、こういう相手なら得意だよー」



 武器を取り上げられ、動きも阻害されているリビングナイトアーマーにワトスンはバールのような物を使って、ペキペキとパーツを外していって瞬く間に鎧を分解してしまった。

 ジタバタと暴れるリビングナイトアーマーが哀れである。



「うわ、まだ動いてるー!?」



 バラバラにしても、それぞれのパーツがカタカタと動いているので、俺達は総出で1つずつ丁寧に叩き潰していった。

 コアみないな物があってそこを攻撃すれば倒せるというようなモンスターではないそうで、動かなくなるまで叩かないといけないのがちょっとめんどくさかった。

 しかも徹底的に叩き潰したので、鎧がそのまま手に入るというわけでも無いので、非常に残念感があるモンスターだな。

 剣と盾は個別で動いているわけではなかったので一応戦利品として回収しておいたが。



「なんとかなったけど、しぶとかったな」



「3体だけで良かったですわ、本来でしたら8体とか10体とか、まとまった数で出てくるので、なかなか厄介なんですのよ?」



 3体だけだったのは運が良かったということらしい。



「ここに入った瞬間に襲われた事を考えますと、他のリビングナイトアーマーは大穴を空けた爆発に巻き込まれたか、瓦礫に埋まっているのではないかと愚考致します」



 意外と戦える執事だったヴァルターさんが推察を語る。

 まあ、普通に考えたらそうだろうな。 いきなり襲われたのは不運だったが、対処可能な数で済んだのは幸いだった。



「よし、下層で行った初戦としては上出来だ。 どうにか戦える事もわかったので、もう一、二戦してモンスターの傾向やトラップなどが確認出来たら、穴に戻り順番に上の階層を調べていくぞ」



 完全にシークさんが取り仕切っている。

 うん、やっぱりリーダーはシークさんで良いんじゃないですかね?


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