105話 お説教されます
「こんな穴を空けられるなんて、流石、魔晶石ねー。 国でも滅多に使わない魔晶石をポンポンと使っちゃえるなんて、どうごまかすのかしらねー」
棒読み気味にアリーセが俺に言ってくる。
ちなみに俺は地面に正座で話を聞いているのは言うまでもない。
瓦礫が当たってちょっと足が痛い。
「想定では、これより大分小さい、すり鉢状の穴になる筈だったんだが、起爆装置の代わりに使った魔導銃が想定よりも大分頑丈で、だったみたいです」
魔導銃自体はどこかに飛んでいったか、蒸発しちゃったのだと思うが、この出力に耐えられる重さと頑丈さがあれば、これを実用化出来るかもしれない。
持ち運びはアイテムボックスですればいいし、戦艦に積むとかならイケる気がする。
光が強すぎるから、ゴーグルか何かで目を保護してやる必要はあるかもしれない。
対ショック対閃光防御をして、エネルギー充填120パーセントで撃つとか浪漫じゃないか。
「よしこれを『魔導砲』と名付けよう」
「何と戦う気なのかしらねー? って全然反省してないでしょ?」
「あ、はい、スミマセンでしたーっ!」
笑顔だが全く目が笑っていないアリーセがとても怖いです。
「はぁ、もう今更だけど、これは個人が持っていい力じゃないと思うわ。 もし私が権力者だったらあの手この手で引き込むか、敵になりそうだったら、なんとしても排除しようとすると思うわ」
そうだった、すっかり忘れていたが、そういう事にならないようにスキルやら素性やら隠してたんだった。
スタンピードの時に見知った人が死ぬくらいならと、自重はかなぐり捨ててしまったんだが、流石に敷地を含む東京ドーム1個分くらいの直径の大穴を空けるのは流石にやり過ぎか。
単純に最高品質の魔石の一周りくらい上という認識だったが、魔晶石にも品質がある事を完全に失念していた。
最低品質の魔晶石が、最高品質の魔石よりも上であるとするなら、最高品質の魔晶石ならば非常に凶悪な結果になってしまうと、ほんのすこし考えればやる前に気が付いたはずだ。
もう取り返しがつかないが……。
ごまかせるかはわからないが、高品質の魔石を200個ぐらい使用して、魔道具を暴走させたということにしたらどうかと提案をしてくれたアリーセはなんだかんだで良い奴だと思う。
「と、いうわけでして、魔石を限界以上に詰め込んで給湯器を暴走させたら想定以上に爆発が大きくなってしまいました。 ただ、それだけではココまで大きな穴は空きませんので、縦坑状に陥没したことから、推測でではありますがダンジョン内の魔素と何らかの反応を起こして連鎖的にフロアが落ちてしまったのではないかと思います」
一先ずの安全確認をして、皆を呼んで規模が大きくなってしまったことに謝罪をしてから事情説明を行った。
もちろんデマカセも良い所なのだが、それっぽいことを言ってみたら半信半疑ながらも信じてくれたようだ。
「僕の作った給湯器を爆発させるなんて、一体どれだけの魔石を入れたのかなー?」
「最高品質の魔石を属性織り交ぜで200個くらいだ。 ……あ、いや、ぶっ壊す前提で使って悪かった」
製作者がいる所で、爆破しましたと言うのはアレだったかもしれないが、他に暴走させて爆発しそうな魔道具が無かったんだ。
「いやいや、錬金術と爆発は切っても切れない間柄だから別に怒ってないよー。 むしろ、ここまでの爆発をするとか僕の給湯器の優秀さに我ながら歓心しているところだねー」
「優秀さと爆発力が比例するんかい!」
「え? そうなの!? なにそれ凄い」
「お前が言ったんじゃねーか!」
突っ込みどころはあるが、ワトスンのボケのおかげでわりと有耶無耶になったので、正直助かったと思っている。
「ふむ、ダンジョンの無い場所で同じことをしても、ここまで破壊力は無いということか?」
顎に手を当て、兵器として利用可能だろうか?と、領主の顔で呟いていたシークさんが質問をしてくる。
「そうですね、通常爆発というのは球状に広がって、衝撃は距離と共に急速に減衰しますので、すり鉢状の爆破痕になるんです。 それに、硬い地面と何もない空では、その衝撃も空の方へと多く抜けてしまうので、このように垂直に近い縦坑になるということは無いんですよ」
答えになっていないが、あえてこういう言い方をする。 それに正確には空にも空気があるので、何もないわけではないし、そもそもこんなに大きな穴は普通は空かないが、そこには触れない。
「それゆえに、あくまでも推測でしかありませんが、 質量はエネルギーに変わることもありますから、ダンジョンの独特だという魔素と魔道具に使った魔石の魔素とが衝突したときに何らかの反応が連鎖的に起こって、ここまでの大規模な破壊に繋がったのではないと思います。短慮なことをしてしまい、申し訳ありませんでした」
適当に話しているうちに破壊の規模が大きすぎる気がしてきた。
自分で適当にでっち上げた仮説ではあるが、実際にそうだったんじゃないかと思い始めたので、希望的観測を込めて、それっぽく説明を重ねる。
それと消滅した部分に有用なお宝とかが沢山あったかもしれないから謝罪もしておく。
「いや、人的被害が出たわけではないし、この状態ならばロープでも垂らせば直接深い階層まで行くことが出来るだろう。 そう考えれば悪いことではないな。 それに、発見されたその日のうちに、階層が相当深いダンジョンであるということが判明しただけでも大きな収穫だ。 普通であれば、浅いダンジョンなのか深いダンジョンなのか、はたまた狭い範囲にしかないのか等は何十年とかけて調査せねば分からないことだからな」
「そう言って頂けると救われます」
「それにダンジョンというものは、ダンジョンコアがある限り、破壊してもいずれ復元されてしまうものだ、むしろ多くの人を呼ぶためにも穴が空いているうちに出入りのための出入り口や通路の確保がどれだけ出来るかの方が問題だ。 時間との勝負になるが、これだけ大きく穴があいていれば、十分時間が稼げるだろう」
シークさんの中ではこのダンジョンを資源採掘場として活用するための算段が立っているようだ。
「拠点と出入り口の確保、街道の整備。 モンスターの傾向など内部を一部調査の上、王都に領内の新たな資源として申請。 近隣へ階層が深い新しいダンジョンが発見された情報を拡散し高ランク冒険者の招致。 ダンジョン資源による財政確保の目処が立ったら税制の見直しや還元等も必要か……」
シークさんの領主としてのつぶやきが止まらない。
政治的に直接的に価値のあるものが目の前にあるおかげで、インフラの整備などに意識が向いて、俺がしでかした事が些末な問題となってくれたようだ。
まあ、聞いた話、領地内にダンジョンがあると莫大な富を生み出すらしいので、領主の立場としては過程よりも今後の展開の方が優先度は高いのだろう。
「底の方からモンスターが溢れて来たりはしないのですか?」
イーリスが、ある種当然の質問をしてくる。
「それは大丈夫だと思いますわ。ダンジョンのモンスターというのは、スタンピード等の例外を除いて、基本的に自分たちが居る階層から外に出ることはありません。 そのため階層と階層を結ぶ階段などの通路は安全なので休憩所になっていることも珍しくはありませんわ」
「それは、このように境界が無くなってしまっても、あてはまるのですか?」
「あれから暫く経つけど、今の時点で全然モンスターが出てきてないから、大丈夫じゃないかな」
アリーセ穴を覗いている体勢から首だけ180度向けてイーリスに返答を返す。
ちょっとしたホラーのような光景だが、初めてアリーセの首が回るところを見た人を含めて、その点に突っ込むやつは居なかった。
異世界的には首が回るくらい普通なことなのだろうか?
「警戒しているだけという可能性は?」
「そんなに頭のいいモンスターなんてあんまり居ないわよ、考えなしに突っ込んでくるモンスターの方が圧倒的に多いんだから」
「そうですわね、それに理由は解っていませんが、ダンジョン産まれのモンスターは、産まれたエリアから遠く離れると消滅してしまうのですわ。 それ故に出てこないわけなのですが、おそらく、この大穴の部分はダンジョンの領域外という扱いになっているのだと思いますわ」
「なるほど、スタンピードの時はダンジョンの外で産まれてしまうから、消えないので大変なんですね」
イーリスが歓心しながら聞いている。
領域から出たモンスターが消滅するとか、そういうところは急にゲームっぽいな。
で、この後はやっぱりココからダンジョンに入って初期調査ってことで良いのだろうか?
穴のイメージはベリーズのグレートブルーホールですかね




