103話 フィールド型ダンジョン
衝撃の新事実、ここが既にダンジョンであるらしい。
勝手に洞窟とか迷宮的なモノを想像していたが、あれか、フィールド型ダンジョンというやつか?
とりあえず、全員集めてワトスンが出した結論を伝えてみる。
「それは盲点であったな。 どの辺りからダンジョンの領域になっているのかは分からないが、完全に森と同じ環境のダンジョンであるという事か」
「確かにここがダンジョンだというのならば、封印石がある事も、突然モンスターが湧いて出てくるというのもつじつまが合うわね」
シークさんとアリーセは納得の様子であるが、疑問点は残る。
「ん? でもスタンピードと言うのはダンジョンからモンスターが溢れてくるから起こるんですよね? 徐々に増えていったとしても、あれだけのモンスターがここにひしめき合ってたら、誰かが気がついても良さそうなものでは?」
「それには少し誤解があるようですわね。 スタンピードは、モンスターそのものがダンジョン内で増えていって溢れるわけではありませんわ」
え、そうなのか?
モンスターがどんどん生み出されていって、ダンジョンから出てくる訳じゃないのか?
もしかして、常識的な話なのだろうか?
……いや、アリーセやワトスン、イーリスの顔を見る限りでは、3人は知らなかったっぽいな。
エーリカ先生に教えてもらおう。
「諸説あるのですが、ダンジョン内のモンスターと言うのは、大体一定の数が保たれているのですわ。 それは、寂れたダンジョンでも同じですの。 ではどうしてスタンピードが起こるのかと言えば、モンスターを生み出す魔素の濃度の問題なのですわ」
エーリカの説明によると、ダンジョンは常に魔素が発生していて、その魔素を消費してモンスターが生まれて来るらしいが、ダンジョン内ではモンスターがある程度一定の数を保つのだそうだ。
しかし、魔素はどんどん溜まっていくにも関わらず、生み出されたモンスターの数は減ることがないとなると、そのモンスターを生み出す魔素がダンジョン内でどんどん増えていき、飽和状態になったとき、その魔素がダンジョンからあふれ出し、外とつながる入り口付近と魔素があふれた先で次々とモンスターが生み出されるのだそうだ。
そうして生み出されたモンスターは、それをどのように知るのかは不明だが、人の多い場所を目指すのだという。
「それじゃあ、ベヒーモスの痕跡がこの辺に無いのは、ここから離れた所で生み出されたってことなのか?」
「おそらくですが、ベヒーモスが生み出された辺りがダンジョンの境界なのではないかと思いますわ」
「でもここがダンジョンなのだとしたら、ダンジョンマスターや、ダンジョンコアはどこにあるのかしら?」
エーリカ先生の話を聞いて、アリーセが疑問点を口にする。
やっぱり居るのかダンジョンマスター、やっぱりあるのかダンジョンコア。
「見つからないように埋められてるとか、何か他の階層に行く為に条件があるんじゃないのか?」
「ダンジョンマスターというのは埋まってるものなのですか?」
俺が元の世界でありがちな設定を思い出して口にすると、珍しくイーリスがボケをかましてきた。
「埋まってるのはダンジョンコアの方な。 禿げたおっさんが首だけだして地面に埋まって日光浴してる姿を想像しちゃったよ……」
「ぶふっ!」
シークさんが想像してツボに入ったらしく、肩を震わせている。
イーリスも、自分の勘違いに気が付いたらしく、少し顔が赤い。
「それはさておき、ダンジョンは一定の数のモンスターを保つなら、この辺にモンスターがウヨウヨ居ないとおかしくないか」
俺が挙手をして、疑問をぶつける。
「良い質問ですわね。 そのことに関しては、モンスターが出現しない第一階層を持つダンジョンというのは、別に珍しいことではないのですわ。 つまり……」
「第二階層以降の階層が存在するということなのだな!?」
「はい、そういうことですわ」
エーリカの言葉にシークさんがすこし興奮気味に答える。
まあ、森がそのままダンジョンでしたー、帰りましょう、で終わったらなんとも味気ないからわからんでもない。
とはいえ第二階層以降があると解っても、どこに第二階層に繋がる道なり階段なりテレポーターなりがあるのかは不明のままである。
「どちらにせよ、第二階層の入り口を探さないといけないわけよね? それって結局見つからなーい、って感じじゃないの?」
「別に、第二階層があるって分かっているなら、穴でも掘れば良いんじゃないか? 空間が歪んでいたり、別の世界になっているとかってことはあったりすると難しいかもしれないが……」
「そのように、別の世界であるという説もあるようですが、ダンジョンの性質については、よく解っていないというのが実情ですわね。 ある程度時間が過ぎるともとに戻ってしまうそうですが、ワームが空けた穴から別の階層へ抜けられた、なんていうダンジョンもありますので、不可能ではないと思いますわ」
よく解ってはいないが不可能ということではないようだ。 モンスターが残した痕跡も古いものも新しいものもそのままなので、このダンジョンは穴を空けたらそのまま残る可能性は十分にある。
「問題は、どこをどのように掘るのかということであろうな。 この辺り一帯を掘り返すならば、人手が必要になるな、よしヴァルターに言って手配させよう」
シークさんがナチュラルに人海戦術を行おうとしている。
「シークさん、冒険者たるもの収入より支出が大きくなってしまうようなことは控えるべきですよ」
「まったく同じことをしようとしていたイオリが言うと説得力がまるでないわね……」
俺がドヤ顔でシークさんに冒険者としての心得を説いたら、アリーセがものすごく呆れた顔をしていた。
しっかり反省して、活かしているのだから良いではないか……。
「おお、そうだな! 冒険者たるもの自分たちの力で成し遂げねばならぬな!」
ほら、シークさんも納得して、楽しそうにしているじゃないかー。
まあ、実際ココがダンジョンだと言うならチマチマ掘らなくても方法はあるからな。
「それじゃあ、どうするんですか?」
イーリスが、自分たちで掘りますか? とジェスチャーを入れながら聞いてくる。
「いや、チマチマ掘らなくても、ここら一帯を爆破して吹き飛ばせば良いだ……」
「それ、全然冒険者らしくないからね?」
俺の提案に対して以前森を荒野に変えるお仕事をしていたアリーセが被せ気味にツッコミを入れてくる。
俺もアリーセに言われたくないが、口に出すと藪蛇になりそうなのでツッコミ返しは自重しておく。
「もともとモンスターによって荒らされているうえに、定期的に街に少なくない被害が出ているのだ、遠慮することはない。 更地にしようが大穴を空けようが構わぬからやってしまえ」
「お許しが出たようだぞ」
ドヤ顔でアリーセに言ってやると、眉間にしわを寄せてコメカミに指を当ててため息を吐いている。
幸せが逃げるぞ?
「それじゃあ、危ないんで俺以外全員馬車くらいまで避難しててください」
「ん? あの魔導銃とやらを使用するのではないのか?」
「使用しますけど、飛んできた破片とかでも十分人が死ぬ威力があるので危険なんですよ」
「なるほど、どうなるのか見たかったのだが、そういうことなら避難することにしよう」
まだウロウロしていたワトスンを回収して、皆ゾロゾロと避難をするために馬車まで戻っていく。
「またなにかやらかすつもりなんだろうけど、ほどほどにするのよ?」
去り際にアリーセに厳重注意をされた。
皆が離れたことを確認した後、俺は最初の魔導銃をコピーしてパラメータをいじり倒した物の1つを取り出し、魔石弾の代わりに魔晶石を無理やり詰め込んだ。
アリーセに注意をされたので、ちゃんと自重して魔晶石は1個にしておいた。
ダンジョンその物を吹き飛ばそうってわけじゃないからな。
爆破は浪漫