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100話 リーダーってなんだろう

「良い天気だ、絶好の探索日和ではないか」



「そうですねー、俺の心は曇天模様ですけどねー」



 俺達『護国の盾』は、森へと続く道を馬車で移動していた。

 『護国の盾』とは何かって? ジークフリー……シークさんが決めたパーティ名だよ!

 スタンピードから、なんとかラートアーで街を護ったからだって言ってたけど、街は護ったが国は護って無いという俺の意見は黙殺され、他の誰も反対しなかったのでこんなにも偉そうな名前になってしまった。



 クーリアおばさんやスコットのおっさんの話と、俺がパトリックさんのトラウマをえぐって聞き出した情報で、怪しそうな場所が既に判明していると言う事を皆に伝えたところ、ジークフ……シークさんがすぐに出発しようとなって、今に至っている。

 準備を整えて全員の役割分担や戦闘時の連携の確認など行いながら5日後くらいに出発という俺の提案は黙殺された。



 パーティリーダーってなんだろう……。



 食料や飲料水、野営の準備に女性陣の着替えに2頭立ての馬車の手配までヴァルターさんが既に手配を終えていて、ギルドの入口にすぐに出発できる状態で用意されていたのには流石に引いた。

 馬車が貴族仕様ではなく普通の馬車であったことがせめてもの救いか。



 そして馬車は、通用門ではなく正面の大きな正門から、守衛に止められる事なく街を出発したのだった。



「こんな近くに馬車で行くなんて贅沢ね」



 アリーセが、ぽそっと呟いた。

 ハイコンディションポーションのお陰でわりと落ち着いているな。



 馬車にサスペンションが着いていないから尻が痛くなると言う話を聞いたことがあるが、馬車内にとても弾力性の高いお値段も高そうなクッションが多数用意されていて、わりと平気であった。

 まあ、何日も何日も馬車に乗るような事になったら分からないが。



 歩いても数時間で到着してしまう所に馬車で向かったのだから、1時間もしないうちに森へと到着してしまった。

 そのまま馬車で森に侵入は出来ないので、森の外周に沿って目的の場所に近い所まで馬車を進める。

 ちなみに御者はヴァルターさんである。



「森の中は流石に馬車では行けないかと思うのですが、この馬車はどうするのでしょうか?」



 馬車には様々な物が積み込まれており、全てを持って行くには大分量が多いし、馬だって生き物である、そのまま放置というわけにはいかないだろう。



「ご安心を、ココの森は道がまったく無いわけではありません。 多少通り辛い場所もありますが、十分馬車でも通る事が可能です。 その道を中心として拠点を確保し、捜索を行えばよろしいかと」



「マジっすか、というかその辺全て既に調査済みとか言いませんよね?」



 ヴァルターさんの事だから、実は既にダンジョンも発見済みだとか言われても驚かないぞ。



「我が身の不得と致すところですが、流石にそこまでは手配出来ておりません。 私ができた事といえば、通れるルートの事前調査まででございます」



「いや、スタンピード後から今までの時間しかない中で事前調査済みとか十分おかしいレベルですけどね」



 いったい陰でどの位の人員が動いているのだろうか?

 至れり尽くせり過ぎて、俺ら必要ないんじゃないかと思わずにはいられない。

 まあ、領主で王族なんて人が来ているのだから、そのくらい当然の事なのかもしれない。

 探索とか調査とか考えないで、偉い人の冒険者体験ツアーのエキストラのお仕事だと考えた方が精神安定上良さそうだ。



「なんか、思ってた冒険とちがうなー」



「そうですね、私ももう少し違うものを想像しておりました」



 ワトスンとイーリスがのどかな感じで馬車に揺られながらお茶を啜っている。

 お湯はもちろんワトスン持参のコンパクト給湯器から供給されている。



「いやいや、これを基準にしちゃいかんからな?」



 クーリアおばさんの話では、スタンピードの後しばらくはモンスターがほとんど出て来ないということだったので、警戒をしているはずのアリーセも微妙に気が抜けた顔をしている。



 いつぞやドラゴンとやりあったあたりを抜け、森の中の獣道よりも多少マシという程度の道へと馬車が入って行く。

 一応轍があり、草木に飲み込まれていないことから、そこそこの頻度で往来のある道だとわかる。



「こんなところに道があったのか」



「一応近隣の領地に抜けられる道で、多少の危険はありますが幾つかの関を通らずに済みますので、その分の通行税を払いたくない商人などがよく利用しているようですな」



「へぇーそうだったんですね、その他領の領主はよくそれを許していますね」



「別に許しているわけではないぞ、知らないだけだ」



 ジー……シークさんが話に加わってきた。



「一種の関所抜けではあるが、この道は昔からあるんだ、一般的にこの道はただの迂回路くらいにしか認識されていないであろうな。 それをわざわざ聞かれもしないのに領主に教えてやる物好きなどおらんよ。 利用者もまさか領主やその取り巻き共がこの道のことを知らぬなど、夢にも思っておるまい」



 領地ごとに、それも代替わりでもコロコロ変わる法律を把握している庶民など居ないだろうし、誰も咎められたことがないのに、いつも使っている迂回路が実は関所抜けでしたーなど知る由もないというのはわからんでもない。

 東京大阪間で静岡を通るか山梨を通るかの違いくらいの認識というイメージだろうか。

 しかし、それじゃあ、なんでジ……シークさんは知っているんでしょうねぇ。



「目と鼻の先のことすら見えておらぬのに、やれ贈り物が少ないだの、血筋以外誇るところが無いだの、子供のお披露目パーティに出なかったからなんだと小さいことをネチネチと……」



「シークさん、素が出てます!」



「おっと、私はCランク冒険者のシークだから、くわしくは知らないがな!」



 もう隠す意味があるのか甚だ疑問だが、もうそういう依頼なんだと思って諦める。



「何度かこの道を使って移動していましたが、関所抜け扱いだったなんて知りませんでしたわ……」



「気にすることはない、もし道のこと知って関を置いたとしてもその関の維持費の方が遥かに高くつく、よほどの無能でもない限り見て見ぬふりをするだろう。 もし、通行税だなんだと言ってくる輩が居たら盗賊として問答無用で成敗してしまっても構わんだろう。 なに、一人も逃さなければバレることもないし、ギルドに盗賊が出たとだけ報告さえしておけばBランクの冒険者の言うことだ、事実として信用されるから問題ない」



「いやいやいやいや、黒いっすよシークさん! 隣の領地となんかあったんすか!?」



「なんか? いろいろとあったさ、いろいろとな。 ふふふ」



 あー、うん、今回の依頼はダンジョン探しでもツアーでもなくて、この人のストレス発散が主目的だな。

 コンディションポーションサービスしとくか。

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