99話 完全に猫だこれ
「パトリックさんを帰してしまっては、なんの為にギルドに来たか分からないじゃないか」
やり遂げた顔のワトスンに苦言を呈す。
「我々とパーティを組むためだろう?」
「そっちは、交通事故みたいなもんで、全く望んだ形ではありませんからね!?」
改めて話を聞くために、再び呼ぼうと提案したら、ワトスンとジークフリード様に拒否られてしまった。
ってかこれから遂行しようとしている依頼の情報元を拒否すんなし……。
仕方が無いので、俺だけパトリックさんを追いかけて部屋を出ると、すぐにトボトボと歩くパトリックさんを発見した。
「パトリックさん! 10年前にダンジョン捜索をした際のお話を伺いたいのですが!?」
「ふしゃーっ! 貴様のせいで娘にゴロゴロしてもらえなくなったのだ。 教える事など何もない!」
だからゴロゴロってなんだよ。
「俺は無実です! 娘さんにいかにパトリックさんが凄いのかをそれとなく伝えておきますので、話を聞かせてくださいよ」
「なんだと!? 仲を取り持つ等と、もう婿気取りか!?」
「あーもうめんどくさいな!!」
この親バカ猫よく副ギルマスとか務まってるな。 あれか、娘が絡むと途端にポンコツになるタイプか!?
「クーリアおばさん呼んだ方が良いかな?」
「く、クーリアだと!? クーリアってあのクーリアの事か!?」
「どのクーリアかは知りませんが、元Aランク冒険者の戦槌のクーリアだったら、そうです。 その人から、パトリックさんは鑑定や捜索、交渉等のエキスパートでクーリアおばさんとよく一緒に依頼に行ったと伺ってます。 是非当時の捜索状況をお聞か聞かせてください」
「あれは、一緒に行くという状態では決してない! 宿で寝ていたと思ったのに目が覚めたら、ドラゴンが闊歩する渓谷のど真ん中だったり、デスサーペントがウヨウヨ居る湖の中島だったりしてたのだ! 置いて行かれでもしたら、死んでしまうから、必死に着いて行っただけだ、一緒に行く状態では決してない!」
大事な事なので2度言ったようだ。
「鑑定や捜索にしたって、ロック鳥の巣の中にある特上の羽毛を親鳥が帰ってくる前にピックアップしろとか、凶暴な海竜が居る場所の水底に沈んだ財宝を探せとか、死ぬような目に会って身に着けただけだ……。 私はもう静かに暮らしたいんだ、持ち運びに便利と言う理由でリュックに詰められて旅をするのはもうしたくない……」
うわぁ、クーリアおばさん若い頃は、随分とヤンチャだったみたいだな。
パトリックさんが小刻みに震えて尻尾もすっかりお腹の方にくっついてしまっている。
というか、便利って持ち運び的な意味だったのか。
トラウマをえぐられ大人しくなったパトリックさんは、素直に情報提供をしてくれた。
新しい情報は無かったが、より正確に場所や当時の状況を教えてもらえた。
小刻みに震えたままのパトリックさんにお礼を言って隔離室……じゃなくて商談室に戻る。
「では、我がパーティの方針とふさわしい名を決め、今回の依頼の情報の共有をしようではないか」
全員集まって、なんだか会議のようなものが始まっていた。
ヴァルターさんが俺を自然に誘導して、着席を求められる。
あれ? こういうのって、転移者である俺が主導で始めて、議事録を録ると言うのは良いなとか、手慣れてるなとか、どこでそういう事を憶えたんだとか言われるところじゃないのか?
見た感じヴァルターさんがしっかり議事録を取っているようだし、身分差があるからか全員しっかり話も聞いている。
「ジークフリー……シークさんがパーティリーダをされますの?」
エーリカが挙手をして、質問を投げかける。
シークと呼ばないと睨まれる流れのようだ。
「パーティリーダーは、最もランクが高い者が良いと言うのが通例のようだ、Bランクであるアリーセとエーリカがこのパーティでは一番高いな、どちらか立候補するか?」
「うえあっ!? 私!? ……ですか? 無理です無理です!」
アリーセが全力で否定する。 まあ、アリーセがジークフリード様に指示を出すとか、無理だろうな。
「私も人をまとめるのは、不得手ですので、辞退させていただきますわ。 それに、レンジャーは斥候に出てパーティから離れることが多いですし、マジックユーザーは集中や場合により詠唱を行いますので、その間指示出しが出来ないですからどちらもリーダーになることは稀ですわ」
「なるほど、もっともだな。 では次点でCランク私かイオリということになるか」
いや、もうジークフリード様がリーダーで良いんじゃないですかね?
パーティメンバーどころか、兵士や街の人達だって言うこと聞くだろうし。
前に出ないで指示出しを優先して貰えれば、突っ込まれるよりも安心だ。
「俺のランクはまだ仮なので、実質的にはまだCランクではありません」
「そういえば、今はギルドマスターが不在で正規ではない特別なランクアップの承認が下りてないのだったな。 では、こうしよう。 イーリスかアンドレアを紹介して、今から正規の方法でランクアップをしてくると良いだろう」
いやいや、紹介するってことは、その人物に対して責任を持つ必要があるわけで、ちょっとした知り合い程度の仲で紹介するものでは無いはずなのだが……。
イーリスなら布教活動とかしない限り問題ごとは起こさないとは思うけど、今日を含めてまだ3回しか会ったことがない人を紹介するってのもおかしい。
ワトスンは……、問題ごとしか無さそうなので正直勘弁して貰いたい。
「申し訳ありませんシーク様、冒険者登録自体は問題ないのですが、私どもは女神に仕えておりますので、教会に所属のない方に師事するような制度は利用出来かねます」
デスヨネー。
イーリスが、非常に申し訳なさそうに言ってくる。
「僕は特に問題ないよ。 便利だから前に登録しようとした時お父さんにダメだって言われて登録出来なかったから、登録させてもらえるなら願ってもないことだよ」
それ、絶対パトリックさんにからまれるだろ!
「問題ごとの予感しかしないので、パスでお願いしたいのですが……。 ジー……シークさんがリーダーで良いのではないでしょうか?」
こんな面倒くさいパーティのリーダーなどやりたくないし、ジークフリード様に指示出すとか勘弁して欲しい。
「私はCランクといえど冒険者としてはルーキーだからな、ここは実績のあるイオリに任せたいと思っているが、皆はどうかな?」
「結構かと存じます」
「良いと思いますわ」
「賛成だよ~」
「え、あ、良いと思います」
「特に問題はないと思います」
なんだ、この学級委員長を決めるみたいな流れは……。
「結構、ではイオリよろしく頼むぞ、ヴァルター、早速紹介と登録の手配を」
「かしこまりました。ただいま職員を呼んでまいります」
ヴァルターさんによって、すでに用意されていた記入済みの書類及び、領主の推薦状まで添えられ、俺の正式なCランクへの昇進とワトスンの冒険者登録は本人への確認を一切行うこと無く終了した。