97話 ぞくぞく集まる
おそらく冒険者ギルド史上、辺境伯という最高の身分と最高齢の新人冒険者をパーティに加えることとなった俺達は、ギルド職員の計らいで、2階の商談室へと席を移した。
業務に差し支えるので、退けられたとも言うが……。
「それで、ジークフリード様は本当に捜索に着いて来る気なのですか?」
「フッ 私は領主のジークフリードではない、Cランク冒険者、ジークフリードX、ジョブはナイトだ!」
「いつまでその設定で通す気なんですねか、ジークフリード様?」
この領主は、身銭切ったり、前線に立つだけに飽き足らず、全然忍べてないお忍びで冒険者にまでなるのかよ。
いくらなんでもフリーダム過ぎんだろ!
「だから、ジークフリードではないと言っているだろう? 私はジークフリードX……」
「隠すならせめてジークだけにするとか、少しもじってシークにするとかしてくださいよ……」
「おお、それは良いな、ヴァルターこれからシークで行こう」
「承知しました、シーク様」
やっぱり全く隠す気無いっすよね!?
「仲間うちで様はおかしいであろう?」
「私は駆け出しのGランクでございますれば、Cランクの方をそうお呼びするのは、自然なことかと存じます」
そういう問題じゃない気がします……。
「エーリカも、止めてくれよ……」
「無理ですわ!」
ナゼ勝ち誇ったように言うのだ?
しかし、流石に領主を一緒連れて行くとか無理だろ、何かあったら責任取れんし。
「ただの冒険者だというのならば、メンバーを選ぶ権利は私達にあります! そうだな? アリーセ!?」
「あ、わわわっ、私は、そのっ、あー、えっとー……」
いかん、権力に弱いアリーセが使い物にならない。
一本いってもらわねばならんか!?
「我々をパーティメンバーに加えくれるなら、この街いる限り一生無税としよう」
「はい! よろこんでーー!!」
「職権乱用だーーーーー!!」
アリーセが陥落されてしまった。
税金で差っ引かれる金額というのは、結構馬鹿にならない。
累進課税ではなく一律で何割となってはいるが、冒険者はギルドが自動的に報酬から税金と手数料を差っ引いているので、経費だなんだと非課税枠に調整する事ができないのだ。
ある意味、比率的に一番税を納めているのは冒険者だという事がいえるだろう。
これは、各地方で冒険者がその土地の領主に疎まれずに活動する為の措置でもあるが、税金なんか無ければ良いのにとは、誰しも一度は考える事だろう。
しかも、この辺一帯の領主なのだから当たり前だが、さり気なく「この街に居る限り」と強調しているあたり、他所に行かせない気マンマンだ。
「いや、でも万が一が無くても、怪我でもされたら困りますし……」
ポーションなりチートツールなりでどうとでもなるが、こう言って少しでも悪あがきをする。
……自分で悪あがきとか思っている時点で詰んでいる気がしないでもない。
「その点はご安心を、既に手配は済んでおります」
「な、なんの手配でしょう?」
その時、扉をノックする音が聞こえた。
「ちょうど来られたようですな」
ヴァルターさんが、扉を空けに行き、訪れて来た人物を招き入れる。
「あ、ありがとうございます。 こ、こちらへ伺うように言われて来たのですが……」
金髪とそれと同じ色のタレ耳の獣人の少女が緊張した面持ちで入室してきた。
「あれ、貴方様は、治療に来られた……」
入室してきたのは、昨日おっぱ……じゃなくて、治療をしてくれたイーリスだった。
いつもの神官服では無く、旅装といった装いが、なんだか新鮮だ。
会うのは3回目で新鮮も何もないが……。
手配ってまさかイーリスのことか?
「あ、どうも」
「おや、お知り合いでしたか?」
「あ、いえ、記憶の治療に教会に行った際に治療を行っていただいたんですよ」
「あ、はい、あまりお力になれず申し訳ありません」
「いえ、気持ちの上では非常に楽になりましたし、いくつか思い出した事もありますので、ご利益があったのでしょう」
「それでしたら、良かったです。 あ、申し訳ありません皆様、申し遅れましたが、教会から参りました、イーリス・ユンカーと申します。 しばしの間ではございますが、皆様と行動を共にするように仰せつかっております」
イーリスがペコリと頭を下げる。
「教会へ、腕が良く旅などにも耐えられる癒やし手の派遣を、お願いさせて頂きましたところ、こちらの方をご紹介いただきました」
ヴァルターさんが、補足説明をしてくれたが、領主が危険のある所へ行こうと言うのだから、回復役が着いてくると言うのは理解できなくもない。
いや、そもそも危険な所にわざわざ行くなよって話であるが……。
「うむ、その歳でなかなかの腕だと聞いている。 万が一の場合は期待しているぞ」
「はい、ご領主様のご期待に応えられるよう、若輩の身ではございますが誠心誠意、努めさせていただきます!」
普通に領主様って言っていますが?
「イーリスよ、私は領主のジークフリードではないぞ、Cランク冒険者のシークだ」
「ええ!? それは失礼いたしました! あまりによく似ておいでだったのと、ご領主様からのご依頼を受けて、私が派遣されることとましたので、てっきりご領主様なのかと思ってしまいまいました、申し訳ありません」
「よく言われる、気にするな」
領主を呼び捨てとか、そもそも見た目がそのまんまなのだで、「そういうことにしておきます」という、大人の対応だったら良かったのだが、イーリスは別人であると言う事を本気で信じたようだった。
大丈夫かな? 色んな意味で……。
どうしたもんかと、往生際悪く考えていたら、また扉をノックする音が聞こえた。
すかさずヴァルターさんが、扉を空けに行き、訪れて来た人物を招き入れた。
普通、誰か来たのか確認してから部屋に招き入れるのだと思うが、ヴァルターさんは誰が来たか確認取っているように見えない。 誰が来たのか分かっているのだろうか?
「ジークフリード様、この度は冒険者ギルドへのご来訪ありがとうございます! ご来訪くださるならご一報くだされば、ご歓待の準備も出来たのですが……」
「まいどー、ご注文のものをお届けに来たら、お父さんに捕まったものですー」
うやうやしく頭を下げて入室してきたのは、ふくふくしい服を着た猫。パトリックさんとその娘のワトスンだった。
あ、ふたりともワトスンか。 なんとなく某名探偵の助手のイメージが強い名前なので、つい姓の方で呼びたくなってしまうのは俺だけだろうか?
「パトリック、私は領主ではなく、Cランク冒険者のシークだ。 以後、普通の冒険者として接するように」
「私が登録の手続きをいたしましたから、存じております。 しかしですな……」
「パトリック殿、ココでは人目もありますので、何卒ご配慮をお願いいたします」
ヴァルターさんがパトリックさんに注意を促す。
配慮も何もバレバレなんだが……。
ぞくぞくと人が集まってきているし、勝手に話が進んでいきそうな気配しかしないな!
「確かにギルドの規約に、冒険者となるのに身分を問わないとありますので、登録の拒否はいたしませんでしたが、流石に王族の方を同じに扱うのは無理があります」
まて、今なんて言った?