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94話 クーリアおばさんのお話

 まさか当時を知る人がこんなに身近に居たとは……。

 ひとまず、クーリアおばさんの仕事が一段落するまで待って、当時の話を聞く事にした。



「まさか、Aランク冒険者だったなんて、全然気が付かなかったなぁ」



 アリーセが頬杖をついてスプーンをくわえたまま喋る。

 お行儀悪いから辞めなさい。



「言われてみればだけど、行儀の悪い酔っ払いとか、店内での喧嘩したやつとかクーリアおばさんが店からつまみ出してたりしてたな」



 大の男や、場合によっては戦闘の心得のあるような奴を、自らポンポンと店から叩き出すなど、確かに普通の宿屋の女将には不可能である。



「もしかして亡くなった旦那さんも冒険者だったのかしら?」



「いやそれは違うみたいだぞ、ここに来たばっかりの頃、馴れ初めとか聞いたことがあるけど、クーリアおばさんがよく行った店の雇われ料理人だったらしい」



 以前、クーリアおばさんと話をして、相槌マシーンと化した時のことを思い出す。

 結構聞き流しては居たが、冒険者だったという話は聞かなかった気がする。



「へぇ、私も聞いてみようかしら?」



 やめといた方が良いと思うけど、女性同士ならそういう話にも長話も問題ないのかもしれないので、ここは黙っておく。



 アリーセに、ダンジョンの捜索やダンジョン内の調査についての注意点等の話を聞きているうちに、飯時が過ぎて客が居なくなったあたりで、クーリアおばさんがお茶を持ってやって来た。



「しかし、あんた達がダンジョンを探す依頼を受けているとはねぇ、その依頼を果たせなかった身としてはなんだか不思議な気分だね」



「Aランクの冒険者が発見出来なかったものが、我々に発見することが出来るのか不安になりましたけどね」



「あたしみたいに調子に乗って装備を一新したりして散財とかしてなければ大丈夫さ。 もし、生活が苦しくなったらあたしに言いな、しばらくの宿代くらいツケといてやるよ!」



 そっちの心配じゃなくて、ダンジョンが見つからない方の心配なのだが、普通なら延々発見できずに数ヶ月とかたったらそういう事もあり得るか?

 心配かけないように数年分の宿代を先払いしといた方が良いだろうか?

 家貰っちゃうけど……。



「それで、当時どの辺りを捜索したのかを伺いたいのですが」



「もう大分前だからね、詳細には覚えちゃいないが構わないかい?」



「ええ、何も情報が無いより、当時を知っている人に話が聞けるだけでも随分違いますから」



「そうかい、それじゃあ何処から話したもんかねぇ」



 クーリアおばさんは、腕を組んで思い出しながら、当時のことを語ってくれた。

 組んだ腕を見て、恰幅が良いだけかと思いきや、よく見るとその腕が筋肉で太いということに気がついて、いろんな意味で逆らわないようにしようと心に誓った。



 クーリアおばさんの話では、当時捜索に参加した冒険者は24組150人以上の冒険者で虱潰しに森を探したということだった。

 しかし、何日も捜索を続けてもダンジョンの入口どころか、そのダンジョンが「ある」という痕跡すら見つけることが出来ず、ランクの低い冒険者が捜索した場所を、クーリアおばさんをはじめとした高ランクの冒険者が再度捜索するなどのことも行ったが、モンスターが居たであろう踏み荒らされた痕跡以外は何も見つからなかったらしい。

 その結果を受け、森を越えた先にある山間部の方にダンジョンがあるのではないかと、さらにその先の海の方まで捜索の手を伸ばしたが、そちらにはスタンピード時に居たモンスターの痕跡すら無かったそうだ。

 それらの結果を受け、ダンジョンではなく魔素溜まりのせいでスタンピードが起こったのだろうと一部の者から囁かれだしたが、魔法を使うものが見ればすぐわかるはずの、魔素溜まりがあったという痕跡も見つかっていないそうだ。

 それでもクーリアおばさんのパーティは、高ランクの冒険者としてのプライドで、他の冒険者のグループがあきらめて捜索を打ち切る中、意地になって最後まで探し続けたんだそうだ。



「多分あの森は全部探した気がするね、モンスターの痕跡がある分布の、大体中央付近が一番怪しいっちゃ怪しいから、その辺りはみんな重点的に探したんだけどねぇ」



「その怪しいところってどのあたりなんですか?」



「街から森に行くときの道があるだろ? あそこからまっすぐ山の方に数時間進んだあたりだったはずだよ」



 ものすごく大雑把ではあるが、コップやポットを使って位置関係を説明してくれた。



「多分だけど、私がイオリと出会った近くじゃないかな? あのあたりは何度も行ってるけど、ダンジョンみたいなのがあれば気が付きそうなものよね」



「そこなんだよ。 モンスターの痕跡からすれば、そこにダンジョンなり魔素溜まりの痕跡なりがあるはずなんだが、スキルにもなんにも引っかからないし、等間隔に棒を立てて漏れがないように捜索したにも関わらず何にも見つからないんだよ、それじゃあ痕跡を残してるモンスターはどこから現れたんだってなるからね、本当におかしな話なんだよ」



 アリーセの話じゃあ、あのあたりは討伐なり採取なりで普段から冒険者がウロウロしているあたりでもあるらしいから、何かアレば誰かが見つけているはずだという。



「魔素溜まりが上空にあったとか?」



 ふと思ったことを口にしてみる。



「それはあたしらも考えたさ、でもそれだとするとモンスターが降ってくるわけだろ? あたしも10回くらいは同じところを調べたもんだけど、潰れたモンスターとか、何かが落下してきたとか、そういう痕跡は全然無かったねぇ」



 冒険者と言うと、討伐の方が目立つが,実際のところは探索のプロである。

 その頂点に近いAランクの冒険者であったクーリアおばさんが無いと言ったのならば、本当に無かったのだろう。

 Cランクを飛び越えてBランクになったアリーセが礼儀作法で苦労しているように腕っ節だけの脳筋ではCランクにも上がれないのだ。



「ただ、手分けして探している時に、ふいに誰かの気配が薄くなるような不思議な事は何度もあったから、あたしにはわからなかったけど、その辺りが手がかりになるんじゃないかとは思うね」



「他にどなたか当時の探索を知っている人とかご存知ですか?」



 大体話を聞き終えたところで、他にも誰か居ないかを訪ねてみた。



「この辺は古参や高ランク冒険者が美味しいと思う依頼が無いからね、ほとんど街を出て行っちまったけど、まだ2人ばかり居るよ」



 それは良い情報だ。2人とか闇雲に探しても見つからなかった可能性も高いだろうし。



「一人は今ギルドの副マスターなんて偉そうな事やってるパトリックさ。 あの親バカ猫はあれでも昔はCランクの冒険者でね。 腕っ節は無かったが、鑑定や捜索魔法、交渉なんかのエキスパートだったんだよ。 便利なやつだったから、あたしがよく引っ張り回してたんだけど、泣きながらもしっかり着いて来てたから根性はあるんだろうねあいつは」



 まあ、もともと話を聞こうと思っていたので、パトリックさんが出てくるのは意外ではないけど、

なんというか、当時のパトリックさんご愁傷様です。



「もう一人は、あんた達もよく知ってる、スコットのやつだよ」



「え? あの人も元冒険者だったの!?」



 アリーセがちょっと驚いている。

 というか、身近すぎだろ関係者……。



「いや、あいつは当時から兵士だったんだ。 冒険者じゃなかったけど、、あたしとスコットとは幼馴染でね、非番の日とかに見かねて探索を手伝ってくれてたんだよ」



 スコットのおっさん、クーリアおばさんと幼馴染だったのか……。

 

 その話の後、旦那さんとの馴れ初め話に行き着いてしまい再びその話を聞くはめになって、「そうですね」「わかります」「それは大変でしたね」を繰り返すマシーンと化すのだった。

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