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プロローグ1 デスゲーム開始

世界的シェアを誇るVRMMORPG、ファインドアンドドラゴン、通称FAD。

 世界で最初に登場した、完全潜航型のゲームである。

 世界規模の壮大なストーリーに加えて、視覚や音だけでなく、5感すべてで遊べるゲームという事と、多様なジョブにスキルにより、誰かと同じ構成になる事はまずありえないという、非常に高い自由度のゲームだ。

 数千万人がプレイするこのゲームは、ある日突如としてログアウト不能のデスゲームへと変貌した。


戸惑うプレイヤー達にクエストとして示されたデスゲームのクリア条件は、エンドコンテンツをクリアする事であった。


しかし、長きに渡り続き、多くの犠牲者をだすことになるはずであったデスゲームは、一人のレベル1のノービスによって解放される。


デスゲーム開始後、わずか10分で……。




時は数十分ほど遡る。



「あちゃー、垢バンされたかー」


 薄暗いワンルームマンションの一室で、VRゲームのヘッドセットを被った俺は呟いた。


 湖水こすい いおり 23歳 下請けの小さなゲームアプリ開発会社の平プログラマーである。


 大人気で社会現象とまで言われている、世界初のVRMMORPGのFADではあるが、俺はそこまで興味があって始めたわけでは無く、ゲーム開発の会社で働いている事もあり、メジャーなゲームぐらい一通りやっておけと、半強制的に上司の命令で始めたに過ぎなかった。

 ゲームをする事自体が嫌いなわけではないが、自分が遊ぶだけの立場から制作する側に回って、見方が変わってしまった事と、毎日終電間際まで残業をして、家に帰ればコンビニ弁当を食って寝るだけというような生活をしていると、純粋に楽しむ事が出来なくなってしまっていたからである。

 VRヘッドセットや課金分を経費として会社が出してくれるならばまだ良かったが、完全に自腹。さらに時間も無いのに、遊びではなく仕事の延長線でやるゲームを楽しめるような性格では無かった俺は、ある不正を行う事にしたのだった。

 その不正とは、ツールを使ったチート行為だ。俺らの業界ではサーバー攻撃などもひっくるめてクラッキング行為と呼んでいるやつの1つだ。

 ゲーム内通貨を増やしたり、ステータスやレベルを最大にしたり、所持アイテムを変更してレアアイテムにしたり、決まった動作の自動化等と、様々なチート、つまりインチキをしてゲーム時間を大幅に短縮しようと考えたわけだ。

 当然運営側で相応のチート対策や監視は行っているが、こういった物はイタチごっこであり、必ずと言っていいほど一定数は存在する。

 もちろん発覚すれば相応のペナルティや度が過ぎれば訴えられたり、逮捕される事すらあり得る。

 とは言え、訴訟や逮捕にまで至るケースは稀で、大体は登録したアカウントの削除、通称「垢バン」をされるだけで終わる場合がほとんどだ。

 そして、基準は様々であるが運営的には許容範囲というものがあり、ゲームバランスを著しく崩したり、損害が大きい不正行為でなければ放置される場合が殆どである事も確かだ。潰しても潰しても湧いてくる上、プレイヤーが多ければ多いだけ、その不正者の数も増えていく為、その全てに対応していくにも開発以上にコストがかかるからだ。


 そんなわけで、一応課金の絡む物や他のプレイヤーにバレそうなチートは避けていたつもりではあったが、この度めでたくアカウントを削除されてしまった。


「登録前の限定イベントをクリアした事にしたのはまずかったかなぁ……。仕方がない、まぁたいして進んでたわけでも無いし、また最初から始めるかぁ、アホ上司もうるさいしな」


  普通にプレイしていたら、かけた手間や時間が無駄になったことで軽く落ち込む程度には育てたキャラクターではあったが、半分以上仕事だと思っている上に、チートによってサクサク進めていたので、ダメージも少ない。

  俺はヘッドセットの情報をリセットして、予め登録しておいたサブのアカウントで、アバターメイキングから始めた。


「とりあえず、デフォルトのままで良いか」


 後からいくらでも変更出来るしな、と早々にアバターメイキングを終了して、ゲームにログインすることにした。


 微かに聞こえるヘッドセットの冷却ファンの音とともに、背中の方向に落ちていくような独特な感覚の後、目の前が暗くなって行く。

 気がつけば中世ヨーロッパ風のデザインの街を草原の高台から見下ろしてした。

 ここはFADの最初のログイン場所だ。

 踏みしめる草の感触や肌に感じる風、照りつける太陽の暖かさ等、多少体感型アトラクションのような人工的な嘘臭さは感じるが、VRゲームだという先入観が無ければほとんど現実と区別がつかない。

 俺の姿はメイキングで作成した姿になっており、服装もジャージの上下から飾り気のないチュニックにズボン、ちょっと大きめのリュックを背負っており、腰にはショートソードという、これぞ初期装備と言わんばかりのものへと変っている。


「さて、チュートリアルは長いから飛ばすかー」


 本来ならば、ここからプロローグという名の少し長いチュートリアルが始まるのだが、すでにやり方を知っている俺にとってはめんどくさいだけだ。


「外国の見知らぬ開発者さん、ありがとーございますっと」


 俺は海外の怪しげなサイトからダウンロードした、チートツールのウインドウを開く。

 カスタマイズで変更可能ではあるが標準設定では世界観を壊さないために各種ステータス等のゲーム情報は本の形や羊皮紙のスクロールの形をしており、ステータスブックと呼ばれている。しかしFADのステータスブックとは全く違い、半透明な画面にいくつかのアルファベットの項目だけが目の前の空間に浮いている。見た目だけでも世界観ぶち壊しのこれがチートツールの基本画面である。


「全クエスト出現は危なそうだから、とりあえずチュートリアルクリア済みのフラグだけと、所持金最大、HPとMP、スタミナ減らない、獲得経験値4倍ぐらいで良いか。あんまりやり過ぎると怪しいしな」


 慣れた手つきで、ネット上で拾ったり自分で解析をして事前に登録してあるチートのコードの中から無難そうな項目を選んでいく。

 チート行為は、他のプレイヤーから運営への報告で発覚する事も多く、ゲーム中のアバターを巨人のような身長にしたり、異様な移動速度だったり、あり得ないような装備品をつけている等であれば、一発でバレてしまうだろう。


「んじゃ、まあ無難に街に行って魔晶石稼ぎとジョブ解放していくかな?」


 魔晶石とは、通常のゲーム内通貨とは別のいわゆる課金アイテムを購入する為のネット通貨である。

 課金で手に入れる通貨ではあるが、特定のクエストをクリアすると少量の魔晶石が報酬として貰える。これをチートツールで増やすことも不可能では無いが、リアルの金銭が絡む部分は発覚する可能性が非常に高い、というか運営的にも監視が厳しいので触らない方が無難だ。


「そうすると、攻撃力も上げといたほうが早いかな?」


 と、その場であれこれ悩んでいると、突然半鐘の音と共に目の前にスクロールが現われた。


「え?ゲリラクエストでも始まるのか?」


 FADでは時々モンスターの反乱であったり、ドラゴン襲来であったり、自然災害であったりと内容は様々ではあるが、突発的にイベントが行われる。その時に今俺が見ているような、半鐘のSEとスクロールでイベントの開始を通知されるのである。

 そこには、シンプルにこう書かれていた。


『ログアウト不能デスゲームが開始されました』


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