間章:七戦姫の一席《翠星》
◯
―――『機人』。
現在から約四十三年前に、あるきっかけで謎のウイルスが世界中に蔓延まんえんした。要因は隕石によるものだと言われているが、明確な事実は…まだ見つける事ができていない。
ともあれ、そのウイルスは凶悪で、致死率は90パーセント。しかも、そのウイルスがもたらす影響はそれだけではなかった。
死亡した感染者は、おぞましい化物になり、人々(この場合、人類、竜人、獣人、精霊、魔人を含む)を襲おそった。そして、伝染し瞬く間に広がっていった。
――――人々はこの出来事を『大厄災』と呼んだ。
結果、人々は一気に絶滅寸前へと追い込まれていった。ある人は、見つかるまいと必死に物陰に隠れ、怯え、またある人は苦しみから逃れようと自らその命を絶った。
だが、そんな世界でも光はあった。
この理不尽な状況をひっくり返す希望が、人々の手にはあった。
一つ目は、遥か昔の遺跡から、『超遺物』と呼ばれる今の技術では製造不可能な兵器を使用できる状態で所持していたこと。
二つ目は、感染しても化物にならなかった一割の者が、脅威的な能力を宿したこと。
人々は、この大厄災の元凶となったウイルスを『ラグナウイルス』、感染して化物になった者を『機屍』、感染してもなおも生き残り、自我とともに人外の力を得た者を『機人』と呼称した。
不思議な事に機人は全員が女性であった。
この事について今でも…はっきりとした理由がない。
竜人、獣人、精霊、魔人は自身の持てる力を引き出して精魂尽くすまで戦うと誓い、人類は超遺物と機屍の死骸を利用して新たな兵器を作り、機人達は自分の中に宿った力を最大限に引き出し、共に機屍と相対あいたいした。
これは余りにも世界の境界を越えている。まさに天かみがもたらした災い。ならば我らは、この大地に生きとし生ける者として抗い、天を征さん。
『大厄災』発生から7年。それは始まった。
───大いなる敵に対する大いなる反旗。
待ち望んでいたともいえるその戦いは実に十二年にも渡った。
歴史に残るそれは、『天征大戦』と名付けられた。
その大戦が幕を閉じるまでは、とても長い道のりで熾烈な戦いを全世界で繰り広げられた。
そして、人々と機人に多大な犠牲が出てしまった末にとうとうついに――――…
マグナ歴七七七年。隕石の爆心地であり災厄の原点地でもある《北の大陸――北の大低地》を決戦の舞台とし、機屍の争いに終止符を打った。
その上にラグナウイルスに対する治療薬が開発され、機屍の数も討伐隊により激減。世界に対する脅威は消滅した…筈はずだった。
終戦から七年後。人々は新たに戦争を開始した。
名は反抗戦争と命名。十年経った今でも未だ終わっていない。
相手は機人。人々はかつての味方を、敵として戦いをしていた。
――背中合わせから、同志の背中に刃を向ける。その中に、情けは存在しない。
今のが、この前読んだ本からざっと抜き出した内容だ。わたしはこの事実に抗うとする。