プロローグ
雪が溶ける。
砲撃は止まない。唸る駆動音、足音も止まない。
無音の銀世界が、今はけたたましい戦場となっていた。
極寒の大地の上で血と油と鉄屑の残骸が混じり合う。寒さで凍える事も忘れ、幾万の兵士は尚も奮い立っていた。
命を燃やし、力尽きるまで───。
その兵士達はある考えを持って対立していた。
ある種族を、殺すか否か。
ーーゴウッ…と。
空を覆う巨大な戦艦が火を吹き、墜ちてきた。
炎と黒煙を撒き散らして、天に響き渡る軋む音は不気味で生き物のようだった。
崩れゆく甲板上、煙に紛れ戦っている者達。
そして、宙に火花を散らせながら、二つの影が飛び降りた。
およそ上空六百メートル。身が裂けそうな冷気を浴びながらも、お互い攻撃の手を緩めない。
一人は背中にシンボルを付けたコート姿の黒髪の少年。もう一人は白い軍服姿の白銀髪の少女。
双方、地面に難なく着地すると向かい合ってにらみ合う。
「そろそろくたばる頃じゃねえか?、八雲帝団大元帥殿よお」
「何を言っている。今にもくたばりそうなのはお前の方ではないか」
よく見ると少年の肩が上がり、ゼエゼエと息を荒くしていた。少女の方は全く息を乱していない。
「安心しな。こっからが本番だ」
だが、少年は笑っていた。
少年は右腕を高く挙げる。その手から蒼色の閃光が迸る。
彼の髪は青白く光り輝き、人智を超えた力が溢れ出ていた。
「煌輝剣クラウ・ソラス。超臨界形態!!」
光が、より一層強く輝く。本能で身震いしそうなその威圧を、少女はほくそ笑みで一蹴する。
「ふっ。その力を見るのは懐かしいな。まるでお前の父親の写し鏡だ」
「なあ、お前はどうしてこの戦争をしようと思った?」
その問いに少女は、一つ間を空き答える。
「……『我』はかつての友との約束を果たす。この想いは不退転だ。たとえ、どんな障害が立ちはだかろうとしてもだ」
その瞳には揺るぎない光が宿っていた。少年は息を呑む。そして、納得する。
「そうか。それがお前の信念ってやつか。だがよ、こっちも譲れねえものがあるんだ」
「...それで?どうする?」
「はっ決まっているじゃねえか。会話じゃあ解決しないのは分かってる。これはお前達と俺達の戦いだ!だか悪いが、この戦い俺が勝たせてもらう!!」
光が収まると少年は蒼く煌めく結晶で生成された戦装束に身を包んでいた。
「つくづくお前はあいつに似ている。大雑把で全く賢明さが足りん。だが────」
少女も力を解放する。全身から電流が迸り大気を震わせる。
「嫌いじゃない」
その力はどんどん増幅していき、空に雷鳴が轟く。
「さあ、『我』の信念は見せたぞ。次はお前が見せる番だ!その力で‼『我』を倒し、お前が守りたいものを救ってみせよ輝石渡航の旅団っ‼‼」
不敵に笑う少女は右手を前へ翳すとその掌に雷が収束する。
「ああ、やってやるさ。今度は俺の意志でヒーローになるって決めたんだからな」
少年は、穏やかでその上で熱のある声で、右手に蒼く光る剣を現出させる。気を磨きながら、ゆっくりと中段に構える。
「お前を倒してこの戦争を終わらせる!!龍焔式戦闘術第三式:剣の型──」
「荷電粒子励起状態突入。仮想砲台展開。出力安定」
二つの莫大な力の奔流が、双方で違う色を帯びながら集まっていく。そして――。
「『想起・熾刀閃壱の太刀』!!」
「『零式・荷電粒子砲』!!」
直後、世界は白く塗りつぶされた。
この出来事は、これから語られる話の先のお話。これは、父親のようなヒーローになりたかった少年と呪われた種族の中で足掻く少女との出会いから始まる……とある物語。