表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

プロローグ

 血液が沸騰する。

 脳の中、心臓の奥、手足の先、肉体のありとあらゆる場所に張り巡らされた血管の中、熱を吸った血液が、グツグツと煮え滾っている。

 それは、私の皮膚を突き破り、教室内のすべての人間を熱してやろうと興奮している。

 荒くなる呼吸を抑え、冷静になろうと、身体を冷やそうと努めるたび、さらに熱気は高まっていく。

 焦るな、焦るな、焦るな。加速する脈を無視して消しゴムを握ると、私は一気に黒丸を消していく。

 急いで、急いで、急いで。脈はさらに加速度を増し、目の前がひしゃげていく。

 机の上に置かれた腕時計を見る。


 (残り1分30秒――)


 時間はもう残されていない。

 指に溜まった熱を放つように、鉛筆を強く強く強く握る。指先が破裂しそうだ。

 それでも私は一心不乱にマークシートを黒く黒く黒く塗り潰していく。

 まるで、私が潰すより先に黒丸が現れたかのように、自分でも理解できない速さで鉛筆が動く。

 今の私は、私であって、私ではない。

 だから、これは当たり前のこと。

 私の能力以上のことが出来たって、それは決して不思議じゃない。

 目の深くからは大量の血液が押し寄せて眼球を圧迫する。頭が揺れる。視界も揺れる。

 だけど止まらない。止めることなんて出来ない。


 (残り1分――)


 感覚が尖る。試験室に溜まった人間の臭いが鼻を衝く。エアコンから流れるぬるい空気が肌に喰らいつく。鉛筆を動かす自らの手が緩慢に見える。カリカリカリカリカリカリ、マークシートを塗り潰す音がやたら鮮明に聞こえる。今朝食べたサンドイッチが逆流して下を痺れさせていく。

 同時に、思考が異常な速さで回り回り回り回っていく。手汗に濡れ、ぐっしょりと湿った問題用紙の上を、数字が躍る。私は、数字たちがこれ以上速く躍るのを阻止するため、彼らが逃げるのを防ぐために、誰にも気付かれないよう唇を噛み切って、沸騰した血液を彼らの上にぶち撒けた。

 赤く濡れた数字たちは、観念したかのように動きを止める。そして、「わたしはここだ」と言いたげに、答えのみを浮かび上がらせる。

 彼らを一つずつ、一つずつ、一つずつ、マークシートへ移動させる。

 激しく、激しく、穏やかさを捨て、数字が痛いと悲鳴をあげると、私も唸りながら黒丸に変える。

 早く早く早く早く、彼らを移す、移す、移す!!

 存在しないはずの秒針が、時を刻む音が聞こえてくる。刻一刻と迫る。

 鉛筆だけはひたすらに動かしながら、もう一度腕時計をちらと見る。


 残り30秒。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ