8.小さな王子様
随分遅くなってしまってすみません…
でも、此方を進めると本家のネタバレになりかねないので、スローペースになってしまうんです;;;
《side:???》
…僕は、無事護りたいモノを護れたのでしょうか。
あの時は必死になっていたから…どうなったのか判りません。
…やはり僕は死んだのでしょうか。
死んだとしても、貴女が生きていてさえくれれば僕はこれ以上何も望みません。
貴女はきっと、彼と共に生きるのでしょう。
彼はきっと僕よりも貴女にお似合いでしょうから。
彼に対する嫉妬の念が無いとは言い切れません。
…しかし、貴女が幸福になって貰えるのでしたら―――僕は。
《貴方はそれで良いのですか》
何処からか、声が聞こえてきた。
その声は、総ての人を安らげさせる様な美しい輝きを放っていた。
何故でしょう、どこかで聴いた事のある様な…。
《貴方の望みは、何》
先程も言いました様に僕は…
《本当は有るのではないですか》
………。
…僕は…。
…もし、もし…願いが叶うのなら。
僕は…あの方を護りつづける騎士のままでいたい。
二度とあの方を悲しませたくない。
《…ふふっ、有るじゃないですか》
喜々を含んだ言葉と共に、暖かい何かが僕を包み込んだ。
《叶えてあげましょう、その願い》
最後に相手は何かを呟いていたけど、僕には聞こえなかった。
意識が闇に沈んでいく合間に…金色の髪が見えた気がした…。
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《side:リィアレース》
「知らない天井ね…」
パッと目が醒めて一番初めに見たモノは見知らぬ天井だった。
確か、“成人の儀”の最中に、何処かの誰かが行った召喚魔法にひかかったのよね…。
取り敢えず、状況把握をしようと寝かされていたベッドの上から辺りを見回す。
調度品や小物を見る限り、かなり位が高いか、相当なお金持ちの屋敷のようね。
そのまま視察していると、扉の向こう側から、気配が近付いてきた。
足音の軽さから子供ね。
体の緊張を解くと、扉が開くのを待った。
想像通り、相手は私の居る部屋の前で止まり、重そうな扉がゆっくりと動き出す。
扉が開かれた先には、毛先に赤みが掛かった金髪の男の子がいた。
その男の子は私が起きているとは思わなかったのか、目が合った瞬間ビクリと肩を揺らした。
「だ…大丈夫…?」
「ええ、お陰様で」
恐る恐る声を掛けてきた男の子に、安心して貰える様に微笑み返す。
彼は、ホッとしたのか肩の力を抜いた。
だけど直ぐに、顔を渋面にして、視線を逸らせてしまった。
「………さい」
「え?」
どうしたんだろう、と疑問に思っていると、男の子の口が微かに動いた。
小声で聞き取れず首を傾げていると男の子は顔をしかめ、こちらに向き直った。
「ごめんなさい!」
そして謝罪をしたかと思うと深々と勢いよく頭を下げだした。
…え、何故なの!?
私は彼の行動についていけず、口を開けたまま、間抜けな表情で固まってしまう。
その間、ずっと男の子は頭を下げていた。
「…え、えーっと…どういう事か説明して貰えるかな?」
「…わかった」
そう言うと、男の子は怯えながらゆっくりと頭を上げ、その重い口を開いた。
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男の子…ヴァルハート君の説明によると、私は“勇者召喚”に巻き込まれたらしい。
“勇者召喚”っていうのは、ここ、ウェスタリア王国で20年に一度行われている儀式で、能力値が高い人を異世界から呼び出すものなんだとか。
“勇者召喚”された人はまず測定器の水晶に触れて属性を測って、適性かどうかを調べ、今後どうなるかを決める事になるみたい。
そして、どの道奴隷の様な扱いを受ける事になる…という事をウェスタリア王国第二王子事、ヴァルハート君がたまたま知って、一部の人達と今回の“勇者召喚”を止めようとしたんだけど、誰ひとり聞き分けて貰えなかったらしい。
彼には兄と姉がいるみたいなんだけど、母親が違うみたいで、ヴァルハート君は母親と乳母以外の王族から空気の様な扱いを受けているみたい。
そんな中、今回の召喚を行ったみたいなんだけど、私が召喚されて、王様が「女が“魔王”を倒せる訳が無い」と、半分相手にしてないらしく、ヴァルハート君にお世話等全て任せているとか…。
親としては最悪な国王ね。
もしかしたら国王としても、かもしれないけれども。
「…そういえば“魔王”って?」
私が話の中で一番気になった単語。
魔王なんて、今時居るのね…。
「“魔王”というのは、北にある魔族達の国のノーザンクレイヴ帝国の皇帝を指すんだ。
その国は物語に存在する様な酷い国ではなく、どんな種族でも受け入れる極北の地で…貿易も盛んだし、国力、軍事力、魔法技術に至るまで最高峰。
更に、地下資源も豊富で、地下は温暖な為に、野菜等も普通に食する事が出来る。父上はきっとそれを狙って…“勇者”という存在を使って、攻め入ろうとしているんだ。
異世界から召喚された人は何かしら強力な能力を持っているみたいなんだけど…きっと、自分の兵士を出したくないから、召喚した人に陽動…特攻させて、その隙に帝国を乗っ取ろうとでも考えてるんだと思う」
「なるほどね」
…ここの国王が、安置な思考の持ち主って事がはっきりと判ったわ。
能力の高い人を呼び出しておいて…見た目だけで判断するなんてね。
それに、何も制約掛けずに私を放置するなんて…
馬鹿ね、馬鹿なのね。
ヴァルハート君には悪いけれど、貴方のお父様、残念すぎるわよ?
「父上の思考が残念なのは元からだよ」
…あら、漏れちゃってたかしら。
「顔に出てるよ」
さいですか。
…とにかく、大事な式の最中に自分勝手な都合で呼んでおいて放置だなんて…許さないわよ?
今にギャフン!と言わせて見せるから待ってなさい、馬鹿国王様っ!!