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栗鼠と狐と狼の物語  作者: Neight
序章 ~過去~
7/9

6.一別

やっとメインにはいれる…と喜んでいるNeightです。

次は閑話みたいなのをはさむ…かもです。


彼は重要ポジなので、サブタイ通り…?

静かな時が流れるかの様なその場所はもう影も形もなかった。


美しかった建物も、瓦礫と化し…。


澄んでいる湖も濁り、紅色に成っていた。


果たして、その色の原因は映し出されたのか、はたまた染まったのか。


先程まで美しく儚げに咲き誇っていた木々は花弁が散り、業火に包まれ、もはや面影も無い。


ふわりと舞った最後の1枚の花弁には恐怖の色が映し出されていた。


幻想的で、見るものが思わず息を呑み、余りの神々しさにため息を()きたくなるかの様な光景は───



───もう、ない。



─☆─★─☆─★─☆─★─☆─★─☆─★─☆─



「…ああ、疲れたー」



ソファーに行儀悪く勢い良く座ると、冷汗で額に張り付いた美しい金髪をうっとおしそうに手で掻き揚げる。



「しまったな…。 消臭魔法も覚えておいた方が良さそうかなー」



ウィリアムは正面のローテーブルに手を伸ばし、ティーカップに紅茶を注ぐ。


それを一気にぐいっと飲み干し、もうあんな拷問受けたくないと、ふぅ…とため息をついた。


もう1杯…とポットに手を伸ばしかけた時…



「…っ!?」



それ(・・)はやって来た。


神々しくて禍々しい…そんな矛盾な存在感を放ちながら。


ウィリアムは先程まで疲れてだらけ気味だった表情を別人の様に引き締め、ソファーの淵に立てかけてあった愛剣を引っ手繰る様に手に取り、隣の部屋へ駆け込む。



「リィアっ!!」


「あ、お兄さま」


「殿下も気づかれましたか!」



部屋は今回1人1部屋当てられており、隣の部屋は守るべき対象…リィアレースの部屋なのだが、流石と言うべきか既にアルティレオがリィアレースの傍らに立っていた。



「全員揃いましたね」

 


振り返ると、クィルレンスが気配もなく、扉のすぐ傍の壁にもたれ掛かっていた。



「僕が思うに…人間じゃないですよ?」



クィルレンスは壁に寄りかかるのを止め、アルティレオ達が居る方向へとゆっくりと歩いてくる。



「人間じゃない…? 獣人や魔族、魔人かい…?」



ウィリアムが眉間に皺を寄せ、聞き返すと、クィルレンスは首を横に振った。



「…いや、違います。 そんな生易しいものじゃありません。


…この気配は気でも魔力でも無いでしょう?」



…そう、気でも魔力でもないのだ。


それが今回近づいてくる者の正体を不明にさせるのに拍車をかけていた。


気でも魔力でもないその膨大な程に威圧的な何かが殺気と共に送られてきたのだ。


本来なら気絶してもおかしくない程なのだが…。



「クィルでも正体が判らないとは…何なのでしょうか?」


「それはあなた達とは別格だからよ」


「「「…っ!!!」」」



突然、リィアレースの後ろから女の声が聞こえ、咄嗟にアルティレオは剣を鞘から抜き放ち、戸惑う事なく喉目掛けて一閃。


しかし、やすやすと片手で受け止められてしまった。


内心焦るも、直ぐにもう片方の剣も抜き、脇腹に目掛け、突く。


が、それも後ろへ跳躍し、避けられてしまう。


だが、その後ろには、抜き身の剣を構えたウィリアムが女の首筋に剣を当てていた。



「あらあら、あなた達人間の分際で良く頑張るわね」


「…貴様、何者だ」



普通、武器も持たず、飛び込んできた相手は剣を突きつけられて…笑うだろうか?


女はさも嘲笑うかの様に…不気味に歪んだ笑みを浮かべた。


…まるで、「お前等なんて一瞬で消せる」とでも言いたげに。


その余裕そうな表情を見て此方が優位な筈なのに…何故か心臓を掴まれている様な錯覚に陥りそうになる。



「私は只の旅人よ?」


「…そんな身のこなしが“只”で済まされると思うか。 貴様に拒否権なんぞ無い…質問に答えろ」


「あなたに興味は無いって言うのに…まあ、しょうがないわね。


私の名前はラグエル…あなた達から見ると、天使と呼ばれる存在」



女…ラグエルは更に笑みを深くして、動こうとし、ウィリアムが切るつもりで押さえつけるが。



「そんな只の剣じゃ、私に傷1つすら付けれないわよ?」



本来なら軽く触れただけで切れ、血が滴り落ちてもおかしくない程の切れ味を持つ剣が当てられているのにもかかわらず、ラグエルの首筋には掠り傷1つすらない。


それどころか、ラグエルの首は…この世の物とは思えない程硬かった。


ラグエルは、リィアレースの方を見ると、歪んだ笑みを浮かべ…。



「…そこのお姫様を消しに来たの」



その声と同時に爆発が生じた。



─☆─★─☆─★─☆─★─☆─★─☆─★─☆─



辺り一面爆発と共に地震が起き、建物は跡形も無く崩れていた。


幸いにも4人はクィルレンスの咄嗟の判断で瞬間移動魔法を発動したお陰で、助かった。


が、時間が無く、無詠唱で唱えた為に遠くへ転移できなかった。


移動した所が建物の傍であった為、彼方此方に瓦礫による怪我が出来てしまった。



「使用人達は…」


「…申し訳ありません。 あれほどの威力です、生存者は居ないかと…」


「……」



ウィリアムは、助かったのは自分達のみと知ると、助けられなかった悔しさからか唇をガリッ…と血が滲むほど強く噛んだ。



「あら? 良く助かったわねー」



前方からふらりと現れたラグエルを見て、4人は睨み付けた。



「…ねぇ、おねえさん」


「なぁに、お姫様?」


「私だけ…リィアだけ狙えば良いのに、なんで他の人まで巻き込むの?


罪も無いのに? 狙うなら私だけにして!!」



リィアレースはしっかりとラグエルの眼を見据え、怒りを露に滅多に出さない大声を張り上げた。


それを見たラグエルは…興醒めたかの様に冷たい眼差しをリィアレースに送る。



「…お姫様、貴方私が“何時”貴方だけが目的と言ったかしら?


あくまで貴方は優先順位が一番高いだけ。 私達の計画には貴方が居ると一番邪魔なのよ。


人間なんて、嫌いだから何人消えようが、死のうが、苦しもうが如何でもいいわ?」



アルティレオはラグエルを睨み付ける様に凝視していたが、リィアレースを自分の後ろに引っ張った。



「クィル、殿下…頼みます」



その言葉に、一瞬眼を見開いた2人だったが、直ぐにアルティレオが言いたい事を読み取り、動き出した。



「リィア、行こう」


「…いや…行ったらっ…!」



ウィリアムがリィアレースの手を引くが、もう片方の手でアルティレオの服を掴み、その場から動こうとしない。


心配そうに見上げるリィアレースを見て、アルティレオは手を後ろの髪留め紐に伸ばし、シュルッと解くと彼女に手渡した。



「これは、僕の宝物です。 僕が戻ってくるまで、預かっていて下さい」



リィアレースは真意を確かめるかの様にアルティレオの瞳を見つめる。


彼の瞳には、決意と───…



「…絶対、絶対だよ…」



リィアレースは紐をきゅっと握るとくるりと踵を返した。


その問いには答えず、アルティレオは直ぐに視線を女に戻し、彼から離れたリィアレースがクィルレンスによって3人は遠くへ移転したのを魔力の流れを感じた後、口を開いた。



「…何故今の間に攻撃を仕掛けてこなかった? 幾らでも隙はあった。 それに貴様は姫様狙いだったはずではないのか」


「別に意味は無いわ? 後で幾らでも追いかけられる。 …ちょっと、貴方に興味が沸いたのよ」



ラグエルはそういうとフッと冷血な表情から再度気味が悪いぐらいニコニコと愛想良く笑い始めた。


そして、腕を広げると、背後に1対の翼が生える。


アルティレオは改めて“違うもの”というのに気づかされ、恐怖で押し潰されそうになっているのを相手に悟られない様に無表情になった。


…元々相手に端から倒せるなどとは思っていない。 足止め、良くて相打ちしようと思っているのだから。


リィアレースに仇なす者には今までと同じく戦うのみだ。


例えそれが賊だろうと、貴族だろうと…天使だろうと。


深呼吸1つ、双剣を持ち直し構え、相手を見据える。



───翼の付け根を狙いなさい。



不意に何処からともなく、声が聞こえてきた。


普通なら驚く事なのだろうが、この時のアルティレオは不思議に思わず…。



「駄目元で狙ってみるか」



何故か、そう思った。


そして…彼は剣が一瞬、白いオーラに包まれた事を知る由も無く地面を蹴り、駆けた───






翌日、帝国中…いや、大陸中に衝撃が走った。


第二皇女近衛騎士団隊長所属、フェリアール侯爵家次期当主“蒼狼”ことアルティレオ・レト・フェリアール


ウィオーネ湖にて没す、と。


彼の亡骸の近くには不可解な事に血塗れた1対の翼が落ちていた、と。

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