2.蒼狼
此方の本編入る前の過去話が長くなりそうだったので、章を“過去”に書き換えました。
…サブタイ思いつかない…w
ミスがあったため、修正しました。
アルティレオ・レト・フェリアール…フェリアール侯爵家長男の彼はリィアレース第二皇女と“騎士契約”をして以来、驚くほど実力を付けていた。
契約すると、騎士は身体強化や魔力量増加、属性追加などの恩恵が得られる。
それは、主となった人が能力保持が多ければ多いほど受けられる。
それもあるのだが、まだ“騎士契約”をしてから3年しか経てないというのに、魔法、武術共に目覚しいほどの成長を見せ、若干18歳で今や正式なリィアレースを守る近衛騎士団隊長を任されるほどとなっていた。
この世界では髪は勿論だが、眼の色は非常に重要な意味合いを持つ。
その人の得意属性を表しているからだ。
眼が緑、髪が茶色なら風属性が最も秀で、次に土といった具合だ。
アルティレオは眼も髪も深海のように深い藍色。
…なのだが、今まで藍色を持った人間は今まで皆無だった為、属性は不明だった。
手探りで自分に合う魔法を見つけようと書物を読み漁り、訓練もした。
そのお陰も有ってか今では一通りの属性魔法は扱え、媒体も様々な物を使えるようになった。
やや威力は落ちるが、発動キーのみの無詠唱で魔法を扱うことも出来るようになった。
それだけで十分上級魔道士として通るのだが、それでは騎士ではないと本人は魔法のみに飽き足らず、武術の修行も怠らず…体術、気の扱い、剣技においてまで達人の域に達し、容姿も整っており、老若男女問わず国中で噂をされるほどまでになっていた。
本人はそんな事は全く関心を向けず日々レィアレースの為に鍛え、護衛しているのだが。
「おいおい~…その辺にしといてくれよ…」
「ん? 如何した?」
「いや…『如何した?』って…頼んだのは俺だけど…やりすぎじゃね?」
目の前には屍累々となった騎士達と一部の生存者がいた。
アルティレオに話しかけてきた青年…レイル・ハーヴェストは燃えるような赤毛をガシガシ掻きながら、半ば呆れた様なため息を吐いた。
彼もアルティレオと同じく、人々に注目されているもう1人だったりする。
2人が戦に出れば勝利は確実と言われるほどで、アルティレオは“蒼狼”、レイルは“紅虎”と呼ばれ国内では崇められ、他国には恐れられていた。
平民出で、実力のみで若干26歳という若さで第一騎士団隊長にまで上り詰めた。
レイルは最近だらけ気味な自分の騎士団に喝を入れようと、アルティレオに合同練習を頼み込んだのだ。
2人は国運営の騎士・魔道士志望の人々が多く通う総合学校に通っている時に親友と言えるほど親しくなった間柄である。
身分や階級は全く違うが、そもそもアルティレオは全く気にしないので、お互いに砕けた口調で会話をしていた。
2つ返事で快く引き受けたアルティレオだったのだが…あまりにも飛ばしすぎて皆ついて来れなく…次々に死体のように動かなくなった騎士が山の様になっていた。
「ここ最近…質落ちたのか?」
「それは否定できないけど…お前の修行について行けるのは全体合わせても俺といつも扱かれているお前の部下の近衛騎士、後…陛下と殿下ぐらいじゃね?」
それもそのはず、城壁10週、アルティレオとレイル対騎士達の練習試合、休憩20分を重装備付きで毎日10時間続けているのである。
ついてこれた近衛でさえ、息が上がっている。
何故この二人は訓練を指導しながら同じ内容をこなし、全員を相手に練習試合までしているのにも関わらず息が上がらないのか…騎士達の頭上には疑問符が上がるばかりであった。
「ん~じゃあ、城壁5週に落とそうかな…」
徐々に復活し始めた騎士達はそれを聞くと安堵の表情を浮かべる。
が、翌々考えると時間は減らされてない為あまり意味を成していない…休憩時間の割合が若干増えたぐらいだった。
それに気がついたレイルは「時間を減らしてやれよ…」と額に掌を当てた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ふぅ…」
本日の鍛錬が終わり、風呂に浸かっていたアルティレオは浴槽から立ち上がり、脱衣所に出る。
まだ幼さの残る顔立ち、引き締まったしなやかな筋肉。
アルティレオは体を拭くとリィアレースから贈られた蒼い髪紐で長くなった髪を結い、服を着た。
強靭な体躯ではなく、むしろ手足が長く華奢で着痩するのもあり、上着を羽織ると彼の名声を知らない人が見れば侯爵家の跡取りにしか見えず、とても近衛騎士団隊長だとは気づかれないであろう。
「やぁ、兄さん。 お邪魔してるよ」
「お、クィル来てたのか」
髪を拭きながら隣の自室に戻るとそこには弟のクィルレンス・ルト・フェリアールがソファーに持たれて紅茶を啜っていた。
クィルレンスはアルティレオと1つ違いである。
中縹色のまっすぐな髪に同色の透き通るような瞳、左目の目尻にある泣き黒子。
童顔の兄と大人びた顔の弟の2人が揃うと世の中の大抵の女性を落とせるだろう。
「…で、如何したんだ? こんな時間帯に」
「姫様からの伝言で、明日ウィオーネ湖の別荘に行きたいんだって」
「姫様が? …珍しいね。 何でまた急に?」
アルティレオもポットから紅茶を注ぎ、机の隣にある棚からビンを取り出し、ジャムを入れる。
軽くかき混ぜるとほのかな果実の甘い香りが漂ってくる。
「陛下がしつこくて暫く離れたいんだとさ」
「………さいですか」
アルティレオは思わずティーカップを落としそうになった。
皇帝が親バカというのは周知の事実だ。
しかし…度を過ぎている。
親しい人と数人で居るときは止めない限り永遠に続きそうなほど語りだす。
特にリィアレースの話になると更に親バカっぷりを発揮するのだから、聞いている側はぐったりとしてしまう。
リィアレースは普段からベタベタしてくる皇帝がしつこいので離れたいようだ。
「…まぁ、準備をしておくよ」
「わかった、伝えておくね」
2人は苦笑し合い、紅茶を飲み干すと廊下にでて「また明日」と挨拶を交わすとそれぞれの目的の為に別れた。