第59話 仙台デート *純*
「そう言えば、仙台も空襲されたんだっけな」
すっかり復興して、空襲の跡もなくなって忘れていたが、県庁に出張に来たとき室長さんから空襲の話を聞いたっけ。
食べに食べたら久しぶりなので県庁のほうに歩いてみた。
あのときはバスを使ったが、歩いてもそう遠くなかった。使うまでもない距離だったんだな。
懐かしく思いつつ建物を眺めて歩いていたら自転車が売られていた。
「自転車で回りましょうか」
まだ午後の二時前。ただ歩くのもなんなので、青葉山や八木山球場にでも行ってみよう。仙台の有名なところ、そのくらいしか知らないんだよな。
自転車を買い、荷台に座布団を折って紐で縛った。これなら尻が痛くなることはないだろう。
「自転車、初めて」
あの格好で自転車に乗っていたらさらに恐ろしいだろうな。
横座りに乗ってもらい、青葉山へ向かって漕ぎ出した。
道は知らないが、まあ、方向はわかる。広瀬川の向こうだ。なんとかなるだろう。
「お尻、痛くないですか?」
「大丈夫」
体感がいいのか自転車の揺れに合わせている。やっぱり凄いんだよな、この人。
天性の才に羨む思いはある。だが、それはオレの才ではない。オレが持っている才を鍛えるしかないのだ。
人を羨んでも仕方がない。オレはオレの才で生きるしかないんだからな。
こうして山道を自転車で登ってもへたったりはしない。もし、オレに才があるならこの体力だ。なら、もっと体力を。何十キロと走れる体力を。宏子さんを担いで逃げれる体力を。それがオレの武器だ!
なんとか青葉山にある本丸跡に着いた。
伊達政宗の城だったとううっすい知識しかない。戦前は馬に跨がった伊達政宗の像があたとか。戦争はいろんなものを失わせたんだな~。
それでも訪れる人はそれなりにいた。自転車を置いてそれらの人に混ざった。
戦争の跡はなくなっている。道も砂利敷きになっている。屋台なんかも出ている。あ、宏子さん!
花より団子な宏子さん。団子売りの屋台へと向かってしまった。
とりあえず、他の人の迷惑にならない量を買わせてもらった。
「すみません。買い占めてしまって」
「あはは、構わないよ。たくさん買ってもらってありがたいくらいだ」
宏子さんを見たら足りなそうな顔をしていたので、大判焼きが売っていたのでそちらに誘った。
「こっちでも買ってくれんのかい?」
「はい。迷惑にならない量にしますんで」
宏子さんの胃にはなにがいるんだろう? ってくらいよく食べる。それでいて太らないのだから凄いよな。
「よく食べるお嬢ちゃんだ」
お嬢ちゃんって歳でもないんだが、五十代の人からしたらそう見えるんだろうか?
オレはまだ腹が減らないので、玉こんにゃくを一本買って食べた。
「仙台でもあるんですね」
山形のご当地食かと思ってた。いや、福島でも食ったことあるけどさ。
「実入りがいいからね」
正直なおばさんだ。
「素朴なのになぜか美味いんですよね」
こんにゃくだから栄養があるものじゃないが、汁が染みて、そこにからしを付けるとなぜか美味い。
「どうぞ」
食べたそうにしている宏子さんに差し向けると、残りを食べてしまった。
「味変」
味変? なんだ?
「もう一本、いえ、四本お願いします」
宏子さんの食欲はまだ衰えを知らない。食べたものはいったいどこに消えているんだろうな?
甘酒も売っていたので宏子さんを長椅子に座らせ、一杯──では足りなそうなので五杯買った。
宏子さんはガツガツ食べたりはしない。パク、パクと、一定の感覚で食べて、甘酒はゴクゴクではなくコクコクと飲んでいる。
食べる早さは他とそう変わらない。ただ、一定に食べている。
「宏子さんって、食べ方が上品ですよね」
量は尋常じゃないが。
「汚く食べると母に怒られたから」
あーそう言えば、いいところのお嬢さんだったっけ。
最初の出会いが衝撃すぎて他が書き換えられないでいたよ。
──いいお母さんですね。
両親を絶望させたオレにはもうそんなことを口に出来る資格はない。ただ、宏子さんを守ると誓うしかなかった……。




