第29話 主人公体質 *三月*
能己家の伝手で、純を輸送会社に就職(擬装)。毎月九千三百円を給料として払われることにしてもらった。
さらに現金で千円札の束が十束をいただいた。千円が百枚で十万円。十束だから百万円か。平成の感覚だと少なく思えるが、この時代だと一千万円くらいになるのか? どうなんだ? 価値が違いすぎてわからんわ。
まあ、これだけあれば準備金として申し分ないだろう。
「三月が持っててくれ。オレも同じだけもらえたから」
百万円を渡そうとしたらそんなこと言われてしまった。能己家、どんだけだよ?
「こんなにもらっても使い道に困るな?」
普通に働けば普通に上手いものが食える。おねーちゃん侍らせて高い酒をがぶ飲み、なんて趣味ではない。酔えないのだから美味しく飲んだほうが幸せだ。
この時代じゃゲームもない。漫画も小説も価値観とか文体が違くておもしろいとも思えなかった。
働いたあとによく冷えたビールを飲み、美味いものを食う。それだけで人生得している気分になるよ。
「それならバイクでも買ったらどうだ? 乗りたいと言ってただろう」
「あー、バイクか。それはいいな。で、バイクってどこで買えるんだ?」
「学さんの息子さんに訊いてみるか。三女の旦那さんが自動車を売っているみたいだから」
学さんとやらが能己家の当主のようだ。純は今、その人に剣術を教わっているんだってさ。
次の日、配達が終わったら能己家にレッツゴー。
「おー! なんかスゲー重厚感! 日本昔話の世界だな!」
昭和にやっていたはずなのに、今はテレビも普及してない時代。昭和ってスゲー時代だと痛感させられるわ。
「なんだ、日本昔話って?」
「子供向け番組だよ。オレの子供時代には終わっていたけど」
親戚がVHSに録画したものを観ただけだがな。
城かと思うような門を潜り、ちょっと現代風になった玄関で挨拶を飛ばした。
しばらくして品のような老奥様が。ばーちゃんのように見えるが、きっと十歳は若いんだろうな~。
「友人を連れて来ました。学さんはいますか?」
いないこともあるんか?
「ええ。出発前だから部屋にいるわ」
家に上がらせてもらい、座敷に通された。ここもまた凄いこと。財閥か? 財閥がなんなのか知らんけど。
「おはよう。今日は練習に付き合えなくてすまんな」
入って来たのはなかなか迫力のある男性だ。エクサリーを飲んだからか、肌艶がよく、髪も黒かった。奥さんは白髪混じりだったのに。
……不思議なことにこの薬で髪が戻ったって話は聞いたことがない。また別の要因なんだろう。だからエリクサーと呼べないパチもんとしてエクサリーと呼んでいるのだ……。
「おはようございます。いえ、気になさらないでください。今日は友人を見せに来ただけなので」
「そちらが、魔法使いの」
魔法使い扱いされてんだ。まあ、間違ってはいないけど。
「初めまして。相原三月です。純が大変お世話になったようで。あと、資金調達にご協力いただきありがとうございました」
一礼して感謝を述べた。
「わしは、能己学だ。世話になったのはこちらのほうだ。あなたのお陰で命を取り留めた。ありがとうございます」
畳に両手を着いて頭を下げた。偉い人なのにそこまで出来るんだ。
「頭を上げてください。お互い、利が重なった。それだけですよ。もし、なにかが動いたのなら純の力でしょう。こいつにはなにか縁を繋ぐ才があるんだと思いますよ。オレにはないものですから」
オレも人並みに出会いと別れを繰り返してきたが、昭和時代に導いたのは純じゃないかと思っている。重要な人物は人を引き寄せるからだ。
「……そうかもしれんな。純を見ていると放っておけない気持ちになるからな……」
オレと学さんに見られて戸惑う純。こいつは、主人公体質なんだろうな。
「来年まで純を鍛えてやってください。その後はオレが教えるんで」
対人戦ならオレから教わるよりいいだろう。異世界では対魔物がメインになるんだからな。
「……強いのだな。自然体でいながら隙がまるでない。山を前にしているかのようだ……」
「オレなんかまだまだですよ。前に出て戦う専門ではないので。熊なら一発で挽肉に出来るんですがね」
魔物がいない世界なら熊のほうがわかりやすいだろう。純も納得してたし。
「人を殺めた目だな」
「学さんも。戦争を知っている人の目ってそうなるんですね。眼力が凄い」
魔王がいる世界なだけに平和とは縁遠い。人の心は荒み、同種同士で争うのも日常茶飯事。オレも何百人と殺めたものだ。まあ、クズばかりだから罪悪感もなかったがな。魔人と戦ったときのほうが心を痛めたものだ……。
「……嫌なものだ。戦争など……」
「いい時代になってなによりです。今の世を見ることが出来なかった先人たちに感謝の敬礼です。そして、生き残って今の時代を創ってくれた方々にも感謝です」
平成があるのは昭和時代を築いた人たちがいるから。ご先祖様たち、未来をありがとう!
「……若い者にそう言ってもらえるなら、あの戦争も無駄ではなかったと思えるよ……」
「無駄にはしませんよ。この国が好きですからね」
愛国心ではない。愛のために死ぬなどバカげているからだ。守るべきは社会。この国で生きる人。そして、日本人としての誇りだ。




