第2話 チェンジ *三月*
喜子さんと哲雄さんはどちらも五十歳とのことだった。
思った以上に若くてびっくりした。見た目はばーちゃんじーちゃんだったから。いや、老けすぎじゃない? 昭和から平成で代わり過ぎだろう! 人は五、六十年で進化出来るものなのか?
「草むしりしますね」
一宿一飯の恩義、ではないが、まずは使えることを二人に示すとしよう。
異世界で二十年以上生きたオレに庭の草など雑作もないこと。簡単な風魔法であらよっと。火魔法であらよっと。半日で敷地内の草を排除。午後からは畑の草も排除してやった。
薪割りも慣れたものよ。あらよあらよで一年分の薪を割ってやりました。
「他にありますか?」
「と、隣のトラさんちもお願い出来るかい?」
お隣さんと言っても五十メートルは離れていて、家と家の間には畑があった。あらよっとで終了です!
「収穫した野菜とかどうするんです?」
「耕運機で下の共選場に運ぶんだよ」
耕運機? 共選場? なんやそれ?
まあ、耕運機ってのは畑の横にあるヤツだろう。昭和時代はあれで運んでいるのか。馬車じゃないだけ異世界よりはマシだろう。
共選場は、近隣の農家が収穫したものを運び入れるとこらしい。農協ってところがやっているそうだ。
「その共選場まで何分くらいかかるんです?」
「一時間半くらいだよ」
異世界生活が長いからか、別に遠いとも感じなかったが、平成の感覚で言えばメッチャ遠いんじゃないか? 道もアスファルトにもなってないし。
山を下ったところに駅があるようだが、一日に四回しか停まらないそうだ。過疎にもほどがあるだろう。本当に日本か怪しくてきたぞ……。
隣も夫婦で暮らしており、子供は中学を卒業と同時に街で暮らしているそうだ。
「若い人が来てくれて助かるよ」
見た目は若いが、中身はもう四十近い。若いとは言えんだろうよ。
「力仕事があればいつでも言ってください」
まずは集落の方々に受け入れてもらうよう努力しよう。十年はこちら側で過ごそうと思っているんだからな。
半日で雑草を排除。薪割りも半日で終了。道の雑草も排除し、道も均して回った。
「てか、店もないのかよ、ここは?」
買い物とかどうするんだ?
「朝の汽車に乗って夕方に帰って来るんだよ」
喜子さんに訊いたら庭坂ってところまで買いに行くそうだ。昭和時代、スゲーよ。よくこんなところで生きているものだと感心するよ。いや、もっとスゲーところで生きてたんだけどね! 電気ガス水道もないところで!
「ここは、電気が通っているだけマシか」
冷蔵庫はないがな。
まあ、水は山か井戸から汲めばいいし、料理や風呂は薪で事足りる。米もまだ作っている家があるので自給自足に近い生活を送られている。
鶏は放し飼いされており、毎朝新鮮な卵も産み落とされる。罠にかかった猪を捌いて食べるってこともあるそうだ。
……なんだろう。異世界の暮らしとそう変わらんのだけれど……。
この時代に来て四日。よく働いたと家に戻ると、喜子さんと哲雄さんの子供、純さんと遭遇した。
年齢は二十五歳。高校を卒業して就職したようだが、会社に馴染めず二年で帰って来た。それから仕事もせず引きニートをしているそうだ。
たまにこうして出て来たと思ったら自転車で町に下りるそうだ。
「どうも。相原三月です。数日前からお世話になってます」
「…………」
挨拶するが完全無視。そのまま家を出ると、自転車に乗って出かけてしまった。
「夜まで帰って来れるのか?」
耕運機で一時間半も掛かるのだろう? 自転車でも同じくらい掛かるはずだ。電灯もない中を帰って来るのか? さすがに狼は出ないだろうが、暗闇の中帰って来るとかアイアンハートすぎるだろう。
「ごめんな、無口な息子で」
「いえ、心の病ですし、仕方がありませんよ」
大変なのは喜子さんたちのほうだろう。息子があんな風になってしまったのだから。
「頭はいい子なんだけどね」
悲しそうな喜子さん。なんとかしてあげ……ん? それならオレと純さんが入れ代わってもいいんじゃないか?
ここで暮らすなら戸籍は必要だ。まだ生まれてもいないオレは不法入国しているようなもの。まともに仕事も出来ないだろう。
「喜子さん、哲雄さん、ちょっといいですか?」
二人に入れ代わりを相談し、オレが別な世界から来たことを話した。
さすがに信じてもらえんやろ、と思ったらそうでもなかった。なんか、やっぱりと納得されてしまったよ。
「神隠しってあるからね」
ま、まあ、オレらも神隠しみたいなものか。異世界に召喚されたんだからな。
「純さんがあちらで暮らせるよう支援するし、帰っても来れるので安心……は出来ないか。危険なところなんで……」
「あいつの人生だ。それならそれで構わんよ」
諦め、なんだろうか? 自分たちが死んだら純さんは一人になるんだから……。
「オレが息子になるんで孝行させてください。十七歳のとき異世界に召喚されて両親に孝行も出来なかったので」
いつか帰るとしても今はこの二人がオレの両親だ。十年の間に暮らしに困らないよう生活を楽にしてやろう。
「それは嬉しいよ」
「これからよろしくお願いします。とーさん、かーさん」
まだ純さんの許可は得てないが、まあ、決まったようなもの。気にしない、だ。




