第17話 桝谷商店 *純*
米沢も結構発展していた。
古い歴史があるだけに昔の家が結構残っており、観光地として有名なのも納得だ。次来るときは米沢城を見たいものだ。
「初子の二番目の義理姉さんが嫁いだところに行くよ」
「ああ」
嫁さんの家は六姉妹とかで、良二と結婚した初子さんは、四女なんだとか。六女も去年の二月に嫁いで行ったそうだ。
「しかし、珍しいよな。六姉妹とか」
一人くらいは男が産まれそうなものだが、女ばかり産まれるとか初めて聞いたものだったよ
「そうだな。だからおれが婿に入るってことになったら喜ばれたものだ。このオート三輪も買ってもらえたし、離れまで建ててくれたからな」
なるほど。それでか。優遇されてんな~とは思っていたのだ。そりゃ、後を継いでくれるんだから親としては嬉しいだろうよ。
その義理姉さんは、商家に嫁いだようで、駅の近くで商店を開いているそうだ。買い物もそこで買っているんだとさ。
「桝谷商店?」
結構、大きな商店だった。日用品から食料まで。いろんなものを売っているとか。これって、三月が言っていたスパーマーケットってヤツか?
「江戸時代から続く老舗だ。こんにちは~」
店先にいた三十くらいの女性に挨拶をした。
「おや、良二さん、いらっしゃい。買い物かい?」
「いえ、今日は大事な話がありまして。旦那さんはいますか?」
「緊急かい?」
「いや、そうでもないんですが、秘密事ではありますね。出来れば富子さんも一緒のほうがいいですね」
「なんか怖いね」
「怖いというか、摩訶不思議な話になります」
「……なんかわかんないけど、旦那を連れて行くよ。裏に回っておくれ」
と言われたので裏に回ると、なかなか古い家が建っていた。まさに豪商の家って感じだ。
良二は手慣れたもので、家の中に入って行き、オレも続いた。
しばらくして旦那さんと富子さんがやって来た。お茶と一緒に。
「仕事中にすみません。友達の紹介と、湯治さんに渡したいものがありまして。こいつ、おれの友達で戸川純って言います。オレの結婚式にも来てもらいました」
なら、二人にも会ってそうだ。まったく覚えてはいないが。
「そうか。それで、今日はどうしたんだ?」
「まずは、これを」
渡した収納の指輪をちゃぶ台に置いた。
「金の指輪?」
真っ先に金に目に行くんだ。オレの目、節穴すぎるだろう。
「え?」
「はい?」
良二が指輪の中からオレが渡した一升瓶を出した。
「おれが嵌めている指輪から出しました。純も嵌めてます」
と、良二が言ったのでオレも嵌めている指輪を二人に見せた。
「おれも最初は驚きました。ですが、現実です。収納の指輪と言って、耕運機一台、肥料三十袋、うちの庭石が入りました」
「指輪を指に嵌めてください。どの指でも構いません。指輪が指に合うよう調整してくれますから」
だから金にしたんだろうな。金は柔らかいから。
「……だ、大丈夫なんだな……?」
「大丈夫です。オレも受け入れられるまでいろんなものを入れましたから」
旦那さんが勇気を出して人差し指に嵌めた。
「この一升瓶を見て、言葉に出してもいいし、心の中でも構いません。インと唱えてください。それで指輪に入りますから」
ゴクリと唾を飲み、インと口にして一升瓶を指輪の中に入れた。
「頭の中に一升瓶の姿が思い浮かんでいるでしょう?」
「……あ、ああ。入っている。一升瓶が頭の中に入っているよ……」
そこからは良二と同じで、あらゆるものを指輪に入れて回った。
三十分くらいして旦那さんが落ち着いた。入れたら一升瓶を出してラッパ飲みをしてしまう。しかし、まったく酔えないって感じのようだ。
「なぜ、これ?」
「これを作った者の協力者になって欲しいんです」
良二、そこまで考えていたのか!? やっぱこいつはオレなんかより賢いヤツだぜ……。
「協力者?」
良二がオレを見た。
「オレはそいつに存在を譲りました。戸川純として生きて行きます。親類縁者はオレの両親だけです。だから、他にも生きて行くために知り合いを作っておきたいんです」
オレが仕事に挫折し、二年も引きこもっていたことを語り、名も存在も捨てて宛もない旅に出ると告げた。
「その収納の指輪は、魔力ってものを注がないと三年くらいで効果が消えます。それを作った者なら魔力を注げるので、対価として新たな戸川純に手を貸してやってください」
二人に頭を下げた。あいつに残せるものがあるなら頭の一つや二つ、下げることくらいなんでもないさ。
「……わかった。協力しよう。正直、頭が働かんが、こんな凄いものをもらったからには同じくらいのものを返さんと商売人として失格だからな」
「ありがとうございます」
今度は畳におでこをつけるくらい頭を下げた。
帰りに酒や味噌、米をたくさんいただいた。金を払うとは言ったんだが、どうしても受け取ってくれなかったので、ありがたくいただくことにした。
「寿司なら馴染みの寿司屋に頼んでやるよ。代金は任せろ」
完全に復活した旦那さんのお言葉に甘え、たくさんの寿司を握ってもらってて帰った。




