「お前を愛することはない」と言われたけれど、社交界デビューします③
夜会の会場に入れば、食べ物が目に飛び込んできた。
おぉ! おぉぉぉぉ!
すごい! 色んな食べ物がいっぱいだ。
見たことないものばっかり! 美味しそう‼
「カリウス、どれから食べに行きましょうか」
遠くに見える食べ物たちに、胸が高鳴る。
やはり肉か。それとも、人気の高いデザート系から押さえておくべきか。
悩ましい!
「その前に、挨拶だ」
「え?」
……挨拶?
そう言えば、王族主催の夜会は、低位貴族から順番に王族へ挨拶するんだっけ?
「ほら、並ぶぞ。子爵家までそろそろ終わる。そのあとは伯爵家の順番だ」
「まだまだ列は長いですよ? 先に少しくらい味見をしても……」
「残念ながら、それはできない。そういうもんだと思って、諦めてくれ」
そ、そんなぁ……。
食べ放題な料理たちがこんなにもいるのに、挨拶なんて! 拷問だ!
旦那様に促され、どうにか顔に笑みを貼り付けつつ、列に並ぶ。
王族はきっと、こうやって精神的ダメージを与えて、心理的に自分たちが有利になるように運んでいるんだ……。
じゃなかったら、空腹で思考を鈍らせてるに違いない。
気を引き締めて、対面しないと!
それにしても、なかなか進まないなぁ。
「カリウス、人気なものは品切れないでしょうか。心配です」
「ん? あぁ、食事なら補充されるから安心しろ。足りないと恥になるからな。不足するなんてことは、絶対に起きない」
「そうなのですね。安心しました」
ということは、残り少ないからと狙わずに待っていれば、出来立てのものが食べられるのか。
せっかくなら温かい料理が食べたいし、これは心理戦……だな。
……しまった! 何も作戦を考えて来てない。
もっと食事について詳しく聞いておくんだった。
どんなご飯があるんだろ。早くもっと近くに見に行きたいなぁ。
「あーら、コレッティーナお義姉様じゃありませんこと」
食べ物に想いを馳せていれば、妙に甲高い声に話しかけられた。
声の方に視線を向ければ、義母と義妹が立っている。
「カリウス、逃げましょ……う?」
あれ? ここで逃げたら列に並び直しってこと?
せっかく半分くらい進んだのに?
いや、でも、逃げないと……だよね。
「逃げる必要はない。それに、こんなに人目のつくところでは、何もできないだろ」
うーん。そんな周りを気にするようなタイプではなかったような?
まぁ、いざとなれば根っこもあるし、大丈夫か。
えっと、たしか義妹の名前は……。
「……お久しぶりでございます」
「えぇ。相変わらず、冴えない顔ですわ……ね…………」
そう言いながら義妹は旦那様を見て、目を見開いた。
「ちょっと! 早く紹介しなさいよ!!」
「こちらはカリウス・ナビレート。私の夫です。で、この小娘が義妹です」
「小娘ですって⁉」
義妹が、目を吊り上げる。
「はい。十四、五歳の女性ですので、小娘で間違いはございません」
「私はもう十七歳よ!」
そうだったっけ?
って、それよりも義妹の名前だよ。えっと…………。
「お嬢様と呼ぶように言われていたので、義妹の名前を私が口にすることはできません」
うん。この言い訳で逃げよう。
実際、「お嬢様と呼びなさい!」ってヒステリーを起こすから、最初の数回しか呼んだことないしね。
「そして、この方がラビソン伯爵夫人です」
「あぁ、はじめまして。娘の結婚式にも来ない薄情なラビソン伯爵夫人と義妹殿」
あ、旦那様、怒ってる。
笑顔なのに、声が冷たい。
「義妹だなんて、おっしゃらないでください。どうか私のことはアザリーと呼んでくださいませ」
義妹がくねくねする。
私のできなかった、くねくね……。
見たい、全方向から見たい!
けど、今の私は完璧なナビレート伯爵夫人兼旦那様の最愛。義妹の周りをぐるぐるはできない。
「義妹殿で結構。それとも、俺もお嬢様と呼んだ方がいいか?」
「えっ! そ、そんな、カリウスにお嬢様だなんて……」
顔を赤らめた義妹のくねくねが加速した。
義母は何だかにやにやしてる。
「コレッティーナなんかより、アザリーの方がカリウス様とお似合いですわね」
「は?」
旦那様の口から、地を這うような声が出た。
私たちの周りから、サーッと人が離れていく。
「そうだわ! アザリーと本当の夫婦になるなんていかがかしら?」
「もうお母様ったら、そんなことをいきなり言ったら、カリウスだって驚くわ。でも、カリウスが私のことを望んでくれるのなら──」
「望むならなんだ?」
「カリウスのお嫁さんになってさしあげますわ」
ドヤァとした顔で義妹が言う。
「駄目です!」
くねっとしている義妹から、少しでも旦那様を隠せるように立つ。
「どきなさい。邪魔よ」
「いいえ。どきません。カリウスは私の夫です。それに、義妹には婚約者がいましたよね」
「あぁ、あの男? カリウスと交換しましょう。私、あれよりカリウスがいいわ。カリウスだって、コレッティーナより私の方がいいわよね?」
自信満々に義妹が言う。
いつもそうだ。いつだって義妹は自分の意見が通ると疑わない。
そして、生家では義妹の言葉が正義だった。
「……まるで、井のなかの蛙ですね」
いつまでも自分中心の世界が続くはずないのに。
「そもそも交換云々の前に、家の心配をした方がよろしいですよ」
今日は調査のつもりだった。
でも、それじゃ駄目だ。
私の場所が取られちゃう。
あぁ、何か口に入れたいなぁ……。
少し訂正しました。
明日(5/29)は、悪役令嬢にざまぁされたくないので〜の更新日のため、お休みします。
次回の更新は明後日です。
よろしくお願いいたします。




