どこまでも青い空
「ここまで来ると、やはり最高の天気ですね」
「いつものことだわ」
まだ若い男の声が、まず聞こえた。
それに続いたのは男よりは年上と思われる女性の、落ち着いた口調の相槌だった。
「こうして二人一緒になるのも何度目でしょうか? もう4回目、いや5回目か……?」
「そうだっけ? そんな細かいこと、いちいち覚えてはいないわよ」
「いえ、僕にとっては違います! すごく重要で大切なんです、その一回一回が」
「あら、どういうこと?」
すると男は言葉に情熱を込め、女への思慕の情を切々と語り始めた。
早い話が相手を口説き始めたわけだ。
俺はいたたまれない気分で、思わずその会話を早送りさせたいような心境にまで陥ったが、
我慢してじっくりと耳を傾け続けた。
「わかったわ。でもその話はいったんお預け。この仕事が無事終わったら、その時は――」
結局、女はそう返答した。
そしてそれきり会話はピタリと止み、俺はいよいよ本気で頭を抱えた。
(本文終わり。解説は下↓)
※解説
「俺」は事故調査官で、
乗員乗客が全員死亡した墜落事故を起こした航空機の残骸から回収したCVRを聴いていた。
会話をしていた「女」はその航空機の機長、「男」(=一人称は「僕」)は副操縦士だったのだ。
「ここまで来ると――」の「ここ」とは、雲一つなくどこまでも青い空が広がっている、
(乗組員達も機体を自動操縦に切り替えて日常会話も可能な)高高度のこと。
(CVRの)会話が突然止んだのは何らかの致命的異常事態が、
搭乗員2名がそれを意識する間も無く唐突に発生したためと思われ、
この録音内容では事故原因の解明は困難だ、と調査官の「俺」は頭を抱えたのだった……。
〈END〉




