表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/14

第8話:衝突する氷と毒

 翌日の午後。

 私は、昨日宣言した通り「防犯用術式」の構築に勤しんでいた。

 毒を無効化する障壁を扉に仕込み、ついでに特定個人シオンが近づいたらアラートが鳴るマクロを組もうとした、その時。


「レリア、茶だ。……なぜ扉が凍っている」


 不機嫌そうな声と共に、アルヴィス様が当然のように入ってきた。


 手には先日よりも豪華な、宝石箱のような菓子折を下げている。


「アルヴィス様、仕事中ですよ。あと、扉は昨日、不法侵入の予告を受けたので補強したんです」


「不法侵入? 国家魔導師の執務室に、そんな真似をする愚か者がいるのか」


 アルヴィス様は眉を寄せ、私の隣に菓子を置いた。

 彼はそのまま「当然の権利」だと言わんばかりに椅子を引き寄せ、私の作業を眺め始める。

 ……もう、この人の視察という名のサボりは定例化しつつあるわね。

 だが、その平穏は長くは続かなかった。




「おい、レリア。言っただろ、今日も来るって……あぁ?」


 廊下から、挑発的な声が響く。

 扉に仕込んだばかりの中和障壁が「ジジ……」と嫌な音を立てて火花を散らした。

 無理やりこじ開けるようにして入ってきたのは、不敵な笑みを浮かべたシオンだった。


 部屋の中に、一瞬で「零下の冷気」と「腐食の毒気」が充満する。


「カスティールの跡取り様が、こんな掃き溜めに何の用だよ……ここは、俺がメンテナンスを受ける場所だぜ」


 シオンは金色の瞳を細め、椅子に座るアルヴィス様を射抜くように睨みつける。

 アルヴィス様も、手にしたカップをゆっくりと置き、氷の仮面を被った。


「遊撃隊の狂犬か。礼儀を知らないのは家柄のせいか? レリアは今、僕の特注品にかかりきりだ。……邪魔をするな」


「特注品? そんなのより、俺の短剣の方がよっぽど手がかかるだろ……なぁ、レリア。こいつ、追い出せよ」


 二人の視線が、中心にいる私に集まる。

 バチバチと火花が散るどころか、部屋の湿度が凍りつき、床の石材が微かに溶け始めている。


「……あの、お二人とも。ここは私の職場であって、決闘場じゃないの。魔力散布の禁止条例、忘れたわけじゃないわよね?」


 私は作業用の眼鏡を外し、冷めた瞳で二人を見上げた。


「シオン、短剣の再調整なら三十分後にしなさい。アルヴィス様、そのお菓子は美味しくいただきますが、そろそろ上階に戻らないと騎士団の報告会議に遅れますよ」


「……っ。なぜ僕のスケジュールを知っている」


「裏方を舐めないでください。魔導院の予定表は、朝のうちに全フロア分チェック済みです」


 私は淡々と、二人の前に作業指示書(という名の追い出し命令)を叩きつけた。


「……チッ。わかったよ、三十分待ってやる。……その代わり、終わったら飯でも奢れ。あんたの好きそうな、栄養価の高いやつをよ」


 シオンは、アルヴィス様を挑発するように、私の肩にわざと手を置いて去っていった。

 


 残されたアルヴィス様は、握りしめたティーカップを微かに震わせている。


「レリア……あんな、自分さえ制御できないガキを近づけるな。君が壊される」


「大丈夫ですよ。壊れたら直すのが私の仕事ですから。それが人でも、魔道具でも」


 私が何気なく答えると、アルヴィス様は「そういうところだ……」と力なく呟き、重い足取りで出て行った。



 一人になった室内で、私は大きく息を吐く。


(はぁ……メンテナンス費用、倍にして請求してやろうかしら)


 二人の「天才」が、自分を巡って火花を散らしていることなど、私にはどうでもよかった。


 ただ、この後のシオンの調整が、予定より十五分ほど押しそうなことだけが、今の私の最大の懸念事項だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ