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閑話:毒蛇の咆哮とお仕事(シオン視点)

 王都外縁、魔獣が跋扈する深い森。

 そこは、正規の騎士団ですら足を踏み入れるのを躊躇う「死の領域」だ。

 だが、その静寂を切り裂くように、一筋の紫色の閃光が駆け抜けた。


「……遅い」


 シオンが短剣を一閃させると、巨大なオークの首が音もなく地面に落ちた。

 返り血を浴びることすらなく、彼はしなやかな動作で次の獲物へと飛びかかる。

 周囲には、彼の毒によってドロドロに溶け、絶命した魔獣たちの死骸が山を築いていた。


「す、げぇ……。一人で上位魔獣の群れを全滅させたぞ……」


「あれが遊撃隊のシオン隊長か……。同じ人間とは思えない……」


 後方で待機していた部下たちが、畏怖の混じった溜め息を漏らす。

 シオンは王宮騎士団の中でも、最も危険な任務を専門に受ける遊撃隊の長だ。

 若くしてその地位に昇り詰めた実力、獲物をいたぶるような冷酷な戦い方、そして何より、周囲を寄せ付けない圧倒的な「毒」。

 

 彼は騎士たちの間で「触れてはならない死神」として崇拝されていた。


「隊長! お怪我はありませんか!」


 戦闘が終わるや否や、若手の女性騎士たちが我先にと駆け寄る。

 彼女たちの瞳には、恐怖を上回る熱烈な憧憬が宿っていた。

 

「シオン様、こちらの聖水をお使いください。汗を拭く布も用意してあります!」


「今夜、祝勝会を開く予定なのですが、シオン様もぜひ……」


 シオンは、彼女たちを一瞥すらしない。

 金色の瞳には、戦いの高揚感すらなく、ただ氷のような虚無だけが浮かんでいる。


「……どけ。魔力の残滓で死にたくないなら、俺の視界に入るな」


 突き放すような冷たい一言。

 だが、彼女たちはそれすらも「素敵……」「なんて孤高なの……」と頬を染めて受け止める。

 彼がどんなに冷酷に振る舞おうと、その美貌と強さは、人々を惹きつけてやまない呪いのような魅力を持っていた。


 馬にまたがり、王都へと帰還する道すがら。

 シオンは、鞘に収めた短剣の柄に、そっと指を這わせた。


(……この感覚だ)


 以前の彼なら、これほどの規模の戦闘を行えば、自身の毒で腕の血管が焼き切れるような激痛に襲われていたはずだ。


 だが、今は違う。

 レリアが調整した術式は、荒狂う彼の魔力を驚くほど精密に制御し、効率的な破壊へと変換している。

 戦えば戦うほど、彼女の「存在」が自分の中に刻まれていくような、不思議な感覚。


「……あいつ、今頃何してるかな」


 ぽつりと漏らした独り言に、隣を走っていた副官が驚いて顔を上げた。


「隊長? 何かおっしゃいましたか?」


「……何でもねえよ。おい、帰還報告は適当に済ませろ。俺はこれから、行くところがある」


「えっ、でも、王女殿下との謁見が控えておりますが!」


「……死にたくなければ、その女に『急用だ』と伝えておけ。俺にとっては、謁見よりも重要な『納品確認』があるんだよ」


 シオンは馬の腹を蹴り、一気に加速した。

 王女の誘いすらゴミ同然に切り捨て、彼が向かうのは、日の当たらない地下の執務室。

 

 世界中が自分を「完成された英雄」として崇める中で。

 唯一、自分を「設定の甘い欠陥品」として叱りつけ、作り直してくれる、あの無愛想な女の元へ。


(……待ってろよ、レリア。今度は、もっと質のいい魔石を拾ってきたからな)


 戦場で見せる冷笑とは違う、どこか幼く、そして狂気を孕んだ期待の笑みを浮かべ、彼は夕闇の王都を駆け抜けた。

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