プロローグ:鉄筆と魔力の設計図
窓の外には、抜けるような青い空が広がっている。
この世界――カーナル王国には、前世にはなかった「魔法」という名の、最高に刺激的で論理的なエネルギーが存在する。
魔法は決して、選ばれた人間が奇跡を起こすための曖昧な力ではない。
私にとってそれは、もっと物理的で、数学的で、突き詰めれば極上のパズルみたいなものだ。適切な術式というコードを書き、魔力という電力を流せば、意図した通りの現象が出力される。
前世で深夜までエクセル関数と格闘し、複雑なマクロが完璧に動いた時のあの脳汁が出るような快感。それが、この世界では「付加魔法」という形で、よりダイレクトに味わえるのだ。
(ああ、たまらない……。この術式の重なり、なんて美しいのかしら)
私の職場は、国家魔導院の地下にある、少しカビ臭いけれど静かな執務室。
ここには、修理が必要な魔道具や、強化を待つ無骨な剣、そして何より、私の好奇心を刺激してやまない「魔力の残滓」が溢れている。
前世の私は、日本の商社で働く30代の営業事務だった。
自分の意見は二の次。上司の無茶振りをこなし、他人のミスを修正し、ひたすら「他人のために」時間を切り売りしていた。その結果、ある日突然、心臓がオーバーヒートを起こして、私の人生という名の事務処理は強制終了してしまった。
だからこそ、今世では決め得ている。
自分をすり減らすような人間関係には深入りしない。
誰かの顔色を窺うよりも、この愛おしい術式回路と向き合いたい。
大好きな魔法の技術を極めながら、定時で上がり、美味しいお茶を飲んで、平穏に、そしてマニアックに生きていく。それが私の理想のライフプランだ。
「……さて、この回路のバイパス処理。あと一箇所削れば、魔力のロスをさらに2%はカットできるわね」
鉄筆を握る手に力が入る。
私は、自分が平民であることも、17歳の女の子であることをも忘れて、ただひたすらに魔法という「最高に楽しいおもちゃ」に没頭していた。
……けれど。
そんな私の「技術追求ライフ」をぶち壊すのは、いつだって自分勝手で、圧倒的な熱量を持った「天才たち」だった。




