第5章 最後のステージ ~約束の歌、空へ~ ――「奇跡って、誰かが信じてくれることなんだね。」
【第5章冒頭:ライブ当日の朝】
午前5時。
まだ街が眠っている時間。
天音(中身)=美羽(外見)は、鏡の前でゆっくりと髪を整えていた。
白いステージドレス。
折れかけた羽根の跡が、背中に淡く光る。
『……今日で、終わりだね。』
「はい。」
『怖くないの?』
「少し。……でも、それよりも楽しみです。」
窓の外、朝日が昇る。
天音の胸の中で、美羽の鼓動と重なる音がした。
――あと12時間。
融合のタイムリミット。
【シーン2:ライブ会場・開演前】
会場の外には長蛇の列。
SNSには「#奇跡の復活ライブ」「#天使の歌声」が溢れている。
舞台袖では、スタッフが慌ただしく動き、
蓮がマイクを渡した。
「……ステージ、任せたぞ。
誰が何と言おうと、俺はお前の歌が好きだ。」
天音は小さく微笑む。
「ありがとうございます。
この瞬間のために――生まれてきた気がします。」
『かっこいいこと言うじゃん。』
「ちょっと、決めてみました!」
『ふふっ。……でも、ほんとに、ありがとう。』
美羽の声は、どこか柔らかかった。
【シーン3:開演】
照明が落ち、ステージが闇に包まれる。
観客のざわめき。
次の瞬間、スポットライトが一点を照らした。
そこに立つのは――天音(=美羽)。
静寂の中、ピアノのイントロが流れ出す。
「生きたいと願う声が、空に届くなら――」
歌声が、空気を震わせる。
奇跡の力はもうない。
でも、その声だけで、光が会場を包んだ。
観客の中に、泣いている人がいた。
子どもを抱く母親。
昔の夢を思い出す青年。
誰もが、彼女の歌に“自分”を重ねていた。
『……ねぇ、天音。』
「はい?」
『こんなに“生きたい”って思ったの、初めてかも。』
「それは、美羽さんが生きてるからです。」
『……ありがと。』
音が、止まった。
天音は最後のフレーズを口にした。
「あなたに出会えて、よかった。」
光がステージを満たし、観客の拍手が爆発した。
【シーン4:消える光】
ライブが終わった直後。
天音の身体から、羽根の粒子が零れ始めた。
『……もう、時間みたい。』
「そんな……まだ、言いたいことが――」
『言わなくていいよ。
あんたが笑ってくれたから、それで十分。』
美羽の声が、少しずつ遠ざかっていく。
天音の頬を、涙が伝う。
「美羽さん! 待ってください!」
『――夢、叶ったよ。ありがとう。』
その瞬間、光が弾け、
ステージの上に、無数の羽根が舞い散った。
観客はそれを“演出”だと思った。
誰も、そこで一人の天使が消えたことを知らなかった。
【シーン5:エピローグ ― 一年後】
春。
公園のベンチ。
青年になった蓮が、ラジオを聞いていた。
> 「本日のリクエスト曲は――白石美羽『空の約束』。
> 生前の未公開音源がついに配信されました。」
その曲が流れる。
澄んだ歌声。
まるで、今も空から聞こえてくるようだった。
空を見上げると、
光の羽根がひとつ、ゆっくりと降ってきた。
蓮は微笑んで、つぶやく。
「……ありがとう、天音。
そして、美羽。」
その瞬間、遠くの空で、
小さく二つの星が並んで瞬いた。




