第4章 堕天警告 ~消えゆく魂と、最後のチャンス~ ――「奇跡には、期限がある。」
【第4章冒頭:警告の朝】
朝。
天音(中身)=美羽(外見)は、ベランダで朝日を見上げていた。
「今日の空、いつもより……白い。」
『それ、霧。天界の気配かもね。』
「えっ、つまり、ヤバいってことですか?」
『そう。天使用の“警告サイン”みたいなもん。』
そのとき、空がひとすじ、まばゆく光った。
天音の首元――そこに刻まれた“天印”が微かに痛む。
「うぅっ……! な、なんかビリビリする!」
『……たぶん、期限。』
「期限?」
『あんたがわたしの身体に入ってから、もう三週間。
天界の規定では、“憑依期間は30日まで”。
それを過ぎたら――魂の融合が起きる。』
「ゆ、融合!? それって、合体ってやつですか!?」
『かっこよく言うな。どっちかが消えるってこと。』
沈黙が落ちた。
朝の風が、羽根の跡をなぞるように冷たかった。
【シーン2:芸能事務所・新曲レコーディング】
蓮の案内で訪れたレコーディングスタジオ。
「次のステップは“デビューシングル”だ。
お前の曲を、全国に届けよう。」
その言葉に、天音の胸が高鳴る。
けれど、美羽の心はどこか曇っていた。
『ねぇ、天音。』
「はい?」
『わたしの夢、叶ってきてるのに……なんでこんなに怖いんだろ。』
「……怖いのは、生きてる証拠ですよ。」
レコーディングブースの中、
天音(=美羽)はヘッドホンをつけ、マイクの前に立つ。
音楽が流れ、歌声が響く。
「もう一度、名前を呼んで――」
その歌声は、どこか儚く、
まるで“消えゆく存在の祈り”のように震えていた。
ブースの外で、蓮が小さくつぶやく。
「……あの子の歌、誰かを救ってるような声だな。」
その瞬間、天音の中で何かが痛む。
それは美羽の“生前の記憶”――
誹謗中傷に傷つき、夜の屋上で泣いていた記憶。
『あの時、誰かに“生きていい”って言ってほしかった。』
天音はマイクを握りしめた。
「じゃあ、今度は私が言います。
あなたは、生きていい。」
――その瞬間、スタジオの照明がふっと消えた。
【シーン3:天界との最終通信】
部屋に戻った夜。
窓の外で、羽根が逆光に舞う。
「こちら天界管理局。見習い天使・天音、再応答せよ。」
セラフィム上官の声が空気を震わせる。
「はいっ! ただいま任務遂行中です!」
「任務? 貴様は既に“任期超過”だ。
魂融合まで残り72時間。
それを超えれば、人間にも天使にも戻れぬ。」
『……そんなの、聞いてないよ。』
「戻らねばならぬ、天音。
天界に帰還し、浄化を受けろ。
さもなくば――堕天が確定する。」
「でも……この子を置いて行けません!」
天音の声が震える。
「私は……彼女と約束したんです。夢を叶えるって!」
「約束は、奇跡では救えぬ。
それが“人間”の運命だ。」
通信が切れる。
天音の周りで羽根が崩れ、光が消えた。
『天音……戻ってもいいよ。
あんた、優しすぎるから。』
「嫌です。まだステージが残ってます。」
『あんた……ほんとに馬鹿だね。』
「はい、天使ですから!」
笑ってみせたけど、
その笑顔は、少しだけ泣いていた。
【第4章クライマックス:最後のライブ前夜】
翌日。
「白石美羽 復活記念ライブ」の準備が進んでいた。
蓮が楽屋で言った。
「明日のライブ、特別ステージにした。
全国配信も入る。……覚悟、できてるか?」
「はい!」
『……ねぇ、天音。』
「はい、美羽さん。」
『もし、明日のステージで消えるなら――
最後まで一緒に歌って。』
「もちろんです。」
窓の外では夜の雨。
その雨の中で、
天音の折れた羽根が静かに光を放った。
“消滅”のカウントダウンが始まる。




