エピローグ
いつものように掃除を終え、今日の業務もすべて片付いた。
片手だけでの掃除は、正直きつい。
思っていた以上に体力を使ったらしく、身体の奥に重たい疲労が溜まっているのを感じた。
店内の照明を一つずつ落とし、更衣室へ向かう。
静まり返った『りうか』の中を歩いていると、不意に気づいた。
店長室の扉が、開いている。
今はもう誰もいないはずだ。
店長もセッカさんも帰ったし、スズメさんもノアちゃんと一緒に帰っている。
ノアちゃんは、しばらくスズメさんの家に世話になることになった。
つまり、この店に残っているのは、僕一人だけ。
少しの迷いのあと、好奇心が勝った。
僕はそっと店長室に足を踏み入れ、電気のスイッチを押す。
パッと明かりが灯り、社長室のような内装が浮かび上がった。落ち着いた色合いの家具、広いデスク、重厚な棚。
中に人の気配はない。
僕はゆっくりとソファーに寝っ転がった。
───いいソファーだなぁ〜。
そんなことを考えながら、ぼんやりと部屋を見渡していると、棚の上にいくつかの写真立てが並んでいるのが目に入った。
気になって立ち上がり、近づく。
最初の写真には、店長が誰かと肩を組んで写っていた。
その笑顔は、僕が知っているものとは少し違う。
無防備で、子どもっぽくて、心から楽しそうな笑顔だった。
写っている店長は、今より少し若い。いや、かなり若い。中学生くらいだろうか。
隣にいるのは、少し鋭い目つきをした黒髪の男。
知らない顔だが、不思議と印象に残る。
そのとき、ふとスズメさんとの会話が頭をよぎった。
[「カラスは、全員同じ人に育ててもらったのよ。ドバトとカラスは、相棒だったわ」」]
───この人がカラスさんかな?
そう思いながら、隣の写真に目を移す。
そこには、店長とカラスさん、そして――驚くほど小さいスズメさんが写っていた。
年齢は、ノアちゃんと同じくらいか、もしかするとそれ以下に見える。
三人で無邪気に遊んでいる様子が写されていて、自然と口元が緩んだ。
さらにもう一枚、写真があった。
そこには、店長、カラスさん、スズメさんがカウンターに並んで座り、思い思いのポーズを取っている。
ピース、親指を立てる仕草、どれも楽しそうだ。
だが、僕は気づいた。
カウンターの奥に、もう一人、誰かが写っている。
その人物も、こちらに向かってピースをしていた。
僕は、息を呑み、写真を凝視する。
そして、理解した瞬間、背筋が凍りついた。
そこに写っていたのは。
──────────僕の父だった。
to be continued…




