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インナーヒットマン  作者: 太田
第5章 真実と雛

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第89話 事後処理

「はぁ……はぁ……」


 星は荒い息を吐きながら、アタッシュケースを握りしめて研究所を飛び出した。


 目指すのは森の奥。ただひたすら、あのガキどもから距離を取るために。


 背後にある研究所には、確かな愛着があった。


 何年──いや、何十年もの時間を、あそこで過ごしてきたのだ。


 研究、失敗、改良、その繰り返し。


 そこを捨てることに、一瞬だけ胸が締めつけられる。


 だが、感傷に浸っている余裕はない。


 アタッシュケースの中には、これまで作り上げてきた“インナーヒットマン”が収められている。


 数百本にも及ぶ成果。


 その重みが、ずしりと肩に食い込む。


 もう若くはない。


 それでも星は走った。


(インナーヒットマンを完成させるために、どれだけのものを犠牲にしてきたか。研究データも、薬も、すべて私の手の中にある。次こそは……次こそは完成させる)


 そのときだった。


ズガァァン!!


 遠くから爆発音が響いた。


 星は思わず足を止め、振り返る。闇の向こうで、赤い炎が空を焦がしていた。


 星は無意識のうちに、アタッシュケースを強く握りしめる。


 そして、未練を断ち切るように前を向き、再び走り出した。


「どこに行くんだぁ?」


 横合いから、低い声が投げかけられた。


 星は息を呑み、声の方を見る。


 そこに立っていたのは、スーツを着た男。


 嘴が黄色く、全体が黒い──鳥の面を被っている。


「ッ……!」


 あの男たちと、同じ面。


 瞬間、星は踵を返し、全力で走り出した。


だが──


バンッ!


 乾いた銃声。



 次の瞬間、星の脚が弾けるような痛みに襲われた。


「ぐぁぁぁぁぁぁ!」


 悲鳴が、森の闇に吸い込まれていく。


 星は地面に倒れ込み、必死に身体の向きを変えた。


 視界の先には、ゆっくりと近づいてくる男の姿。


「ま……待ってくれ……!この薬なら……半分やる……に、逃がしてくれ……!」


 必死の懇願。


 月明かりが、鳥の面を不気味に照らし出す。


「俺ぁ、命乞いを聞き入れないタイプなんでなぁ!」


 次の瞬間


ザシュッ!


 鋭い音が、森の中に響いた。


 そして、その音を最後に、星の声は途絶えた。

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