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インナーヒットマン  作者: 太田
第5章 真実と雛

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第86話 絶体絶命

 一歩、踏み出した瞬間だった。嫌な予感が、背骨をなぞる。


──あ、ヤバ──


 そう思い切る前に、熱波が叩きつけてきた。


ゴォンッ!!


 見えない巨大なハンマーで殴られたような衝撃。


 身体が宙に浮き、床を転がり、壁へと叩きつけられる。


「がッ……!」


 息が一気に抜けた。肺が潰れたみたいに、空気が戻ってこない。


 視界の端で、床が溶けていた。セラさんが足を踏み鳴らすだけで、地面から炎が噴き上がる。


 逃げ場は、ない。


そのときだった。


 セラさんの動きが、ぴたりと止まった。


「止めて!早く!」


 響くノアちゃんの声


───ごめん、セラさん!


 僕は銃を抜き、引き金を引いた。


バン! バン!


 弾丸が、セラさんの足を貫く。


 ノアちゃんの能力が解け、セラさんはその場に崩れ落ちた。


……と思ったのは、一瞬だった。


 次の瞬間、彼女は跳ね起き、こちらへ突っ込んでくる。


「ッ!?」


 目に入ったのは、足元。撃ち抜いたはずの傷がない。


───ふざけんな。チートだろそれ


 セラさんは、不死身の化け物同様、回復能力も備えていた。


 気づいたときには、もう遅かった。


ドンッ!!


 腹に、拳がめり込む。炎をまとった一撃。


 内臓が、焼かれる感覚。衝撃と熱が同時に襲い、胃の中身がこみ上げる。


「ぐッ……は……!」


 身体がくの字に折れ、そのまま蹴り上げられた。


「ママ!やめて!」


 ノアちゃんの叫びが響く。


 床に叩き落とされる、その直前。


ガンッ!


 踵が顔面を捉えた。視界が弾け、火花が散る。


 歯が舌を切り、鉄の味が口に広がった。


 セラさんは、止まらない。


「ァァァァ――!!」


 獣のような叫びと共に、僕の身体を掴み上げる。


 服ごと、炎で焼き掴まれた。


 皮膚が悲鳴を上げる。熱い。痛い。


 それでも、まだ生きていると分かるのが、何よりも地獄だった。


 次の瞬間。


 壁に、叩きつけられた。


 コンクリートが砕け、背中に激痛が走る。


 肺から空気がすべて吐き出され、咳すら出ない。


 セラさんの腕や身体は、自分の炎で焼けただれていた。


 だが、それも一瞬で塞がっていく。


「……セラ……さ……」


 声にならなかった。


 そのとき、再び動きが止まる。


 ノアちゃんの能力だ。


バンッ!バンッ!バンッ!


 腹部と胸に、立て続けに撃ち込む。


 能力が解ける。


──だが。


「……ァ?」


 セラさんは、気にもしなかった。


 傷は、一瞬で治る。


 代わりに、炎がさらに噴き上がった。


 セラさんが、僕の右手を掴む。


 次の瞬間、炎が腕を這った。


「く゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」


 刺すような痛みが、骨の奥まで突き抜ける。


 叫びながら銃を放し、床を転がる。


 その背中に──


ドン!


 セラさんの膝が、落ちてきた。


 骨が鳴った。息が、完全に止まる。


「っ……が……!」


 視界が暗く沈み、耳鳴りだけが残る。


 身体が、まるで他人のものみたいに動かない。


ドゴッ。


 蹴り飛ばされ、床を滑る。


 その先で、ゆっくりとどうしようもない絶望が、近づいてきていた。

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