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インナーヒットマン  作者: 太田
第5章 真実と雛

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第84話 満身創痍

 B2 にて


 ドバトは、胸を撃ち抜くような空気の塊を受け、膝をついていた。


 肺から強引に空気を絞り出されたような感覚に、喉がひくりと鳴る。


 一方のラジンも無傷ではない。ドバトに斬られた脇腹から、血がどくどくと床へ落ちている。


 互いに満身創痍。


 立っていること自体が、すでに意地だった。


ドォォォン!


 突如、地面が揺れた。爆発音は、階段のある方向から響いてくる。


 ラジンが、血の混じった笑みを浮かべる。


「……お仲間さん、死んだんちゃう?」


 ドバトはゆっくりと顔を上げた。


「…………少し君に、付き合ってる時間がなくなったかな」


 そう言うと、血を滴らせたまま、ラジンへ向かって走り出す。


 ラジンは拳を握り、指の隙間から空気の塊を撃ち出した。


 ドバトは刀を縦に構え、真正面から受け止める。


ギャァンッ!!


 甲高い衝撃音。刃が激しく震え、腕の骨にまで衝撃が伝わる。


 空気は、斬れる。だが──完全には、止められない。


「くッ……!」


 身体が押し流される。それでもドバトは踏みとどまり、視線だけはラジンから外さなかった。


 ラジンが両拳を構える。


「はよ、死ねぇ!」


ドドドドドッ!!


 連続する衝撃音とともに、床が次々と凹んでいく。


 まるで巨大なプレス機が迫ってくるような圧迫感。


 ドバトは走る。一直線ではない。


 衝撃の“波”を読み、わずかな隙間を縫うように。


 距離が、詰まっていく。


 五メートル。四。三。


「──ほな、これや」


 ラジンが拳を地面に叩きつけた。


バァンッ!!!!


 圧縮された空気が地中へ逃げ、反射し、全方位へと弾け返る。床が波打ち、地震のような揺れが走った。


 ドバトの身体が宙に浮く。


「ッ……!」


 空中では、回避も、防御も遅れる。


 その一瞬を、ラジンは見逃さなかった。


「終わりや!」


 渾身のストレート。拳の前方で空気が極限まで圧縮され、白く霞むほどの圧力が生まれる。


──だが。


 ドバトは、空中で刀を逆手に持ち替えた。


「……ッ!?」


ズバァァンッ!!


 刃が、ラジンの右拳を縦に裂いた。


「ぐあッ!」


 着地と同時に、追撃。右手が、床に転がる。


「ッ!」


 行き場を失った圧力が暴発し、爆音とともに二人の間の空間が破裂した。


 粉塵が竜巻のように舞い上がり、視界が白く塗り潰される。


 互いに後退し、距離を取る。荒い呼吸だけが、空間に残った。


 ラジンは切断された腕を押さえながら、なおも笑った。


「まさか……腕を斬られるとはな。これじゃ、能力は使えんわ」


 ドバトは静かに刀を構え、切っ先をラジンへ向ける。


「…………これで、終わりだよ」


 その声は、低く、確かだった

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