第3話 会話
「えッ……」
「ほら!」とセラはポケットからスマホを取り出す。画面がぱっと光り、僕が朝方に見たあのログインがそこにあった。画面中央、プレイヤー名が表示される。
【RAT】
どうやら、彼女は、僕のネッ友のRATだったらしい。
瞬間、これまでRATとチャットしてきた内容が思い返された。
深夜の下ネタ、スタンプの洪水、アニメやゲームへの暴言。
血の気がスーッと引いた。
「す、すみませんでした!セクハラで訴えるのだけは………。」
セラは困ったように、そしてちょっと嬉しそうに笑った。その笑顔が可愛くて、僕はますます罪悪感でいっぱいになる。
「むしろ、普通に話してください〜!チャットみたいに!」と彼女は笑顔で答えた。天使に思えた。
その後、僕らは、ゲームやアニメの話で盛り上がった。
で、肝心のセラさんがお金がない理由だが、ゲームに課金しすぎて、生活費を全部溶かしたらしい。ゲームって怖い!
「あ、もう四時!?ごめんなさい、つい話しすぎちゃって!」
気づけば時計は午後四時を指していた
「いや、僕も……セラさんと喋れてよかったです。」
店を出ると、外の空気がひんやりと僕らを包む。セラは深くお辞儀をして、ふわりと言った。
「今日は、ありがとうございました!」
「ぜ、全然大丈夫ですよ!」
ぎこちない笑顔を返す僕に、彼女はふっと真っ直ぐ顔を上げ、小さく笑った。
「……ゲームで、待ってます…。」
「了解です!またログインしますね!」
歩き出したセラさんが数歩進んでから振り返り、いたずらっぽく言葉を投げる。
「あ!引きこもりだから【森引子】ってことですかぁ!」
僕はぎこちなく首を縦に振った。彼女はくすりと笑い、
「はは!また、会いましょう!」と言って走り去る。夕陽が髪の毛の端を透かして金属のように光っていた。
彼女が去った後、僕はポケットのレシートに目を落とした。そこには数字が冷たく並んでいた。




