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インナーヒットマン  作者: 太田
第2章 殺し屋と雛
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第25話 なおノーパンである。

 セラさんについて行き、ショッピングモールの南口を抜けた。(『りうか』があるのは、ショッピングモールの東口側)


 朝の光が、ビルのガラスに反射してまぶしい。通りには風が通り抜け、紙袋のビニールがカサカサと鳴った。


 目の前に広がっていたのは、巨大なビル群。そして、その一角に──派手な看板が目を引く、アニメグッズのショップがあった。


「こんなのが、できたんだ……。」


 思わず声が漏れる。知らない間に、街はこんなにも変わっていたらしい。


「行きましょ!」

 セラさんが、僕の手を掴んだ。細い指が、掌にすっと絡む。その瞬間、息が止まる。


 驚くほどあたたかい。彼女はそのまま僕を引き、店の中へ。僕はただ、少し遅れてその背中を追う。


 ふわりと、香りが漂った。石鹸のようで、けれどそれだけじゃない。彼女自身の体温と混ざった、かすかに甘い匂い。胸の奥がじんわりと熱くなった。


 店内はカラフルなパッケージと、電子音に満ちていた。中古ゲームの棚を見ながら、セラさんは無邪気に話す。


 このゲームが面白い〜とかこのゲームやってみたい〜だとか他愛もない話。


 そんな他愛もない会話が、やけに楽しかった。何度か目が合うたび、心臓がドクンッと鳴る。自分でもわかるほど、鼓動が速い。


 しばらく歩き回るうちに、ガチャガチャコーナーの前に立っていた。


「あっ! これ!」


 セラさんが突然、声を上げて指差した。それは、僕らがよく遊ぶゲームのキャラクターグッズ。カプセルの中には、デフォルメされたキャラのキーホルダーが入っているらしい。


「こんなのあるんだ! やってみましょ!」


 セラさんの目が、子供みたいに輝いている。セラさんは、目を輝かせて言う。


「じゃ、じゃあ…。」


 ちょうど、服を買ったお釣りの小銭があったので引くことにした。


 コインを入れ、ハンドルを回す。


 ガチャガチャ──コロン。


 軽い音を立てて、カプセルが転がり出た。


 開けると──


「あ……。」


「あっ!」


 中に入っていたのは、セラさんがいつも使っている推しキャラだった。


「え〜! いいなぁ〜!」


 本気で羨ましそうに目を輝かせる。


「あ、あげます……。」


 差し出すと、彼女の顔がぱっと花が咲いたように明るくなった。凄いとても可愛い。


「え!いいんですか!?わぁ〜!嬉しい!」


 その笑顔に、胸がぎゅっと締め付けられる。その一瞬が、やけに鮮明に焼きついた。


「え〜、どこに着けようかな〜?」


彼女は、両手でキーホルダーを弄びながら考えていた。そして、ふと何かを思いついたように顔を上げた。


「あ!」


 バッグの中に手を突っ込み、黒いビデオカメラを取り出す。


「ここに着けます!」


そう言って、カメラの取手に付いた小さな金具に、キーホルダーを取り付けた。チャリ、と小さな音がした。


「ありがとうございます!」彼女は、まっすぐな笑顔を見せた。


 あげてよかった、と素直に思った。その後、店の前で別れた。風が二人の間をすり抜ける。


「ストラップ、大切にしますね!」


 その言葉を最後に、セラさんは人混みの中へと歩き去っていった。小さな背中が遠ざかっていく。

 

 残された僕の耳に、まだ彼女の笑い声が残響のように残っていた。素晴らしい休日を過ごした気がした。


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