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インナーヒットマン  作者: 太田
第2章 殺し屋と雛
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第19話 特訓

 目を開けると、天井の白い光がゆらりと滲んだ。


 ゆっくりと身を起こすと、見覚えのある観葉植物と大きな机。


 社長室だった。


「あ、起きた〜?」


 ゆるい声。机の向こうで、店長がコーヒーをかき混ぜながらこちらを見ていた。その口調はいつも通りののんびりした調子だった。


 声がかすれる。自分でも驚くほど弱々しい。


「いや〜、なんかさ。新人が路地裏で倒れてるって連絡があってね〜。」


 店長は軽く笑いながら、湯気の立つカップを口に運んだ。机の上には、僕の面が置かれていた。


「そんなにターゲット強かった〜?」


「……」


 返す言葉が見つからなかった。店長は肩をすくめて、にやりと笑った。


「ま、これからスズメちゃんとは仲良くね〜。」


「え……?」


 その一言で、心臓がひやりとした。


 店長は、スズメさんと僕が揉めた事に気がついていた。スズメさんを怒らせたことを思い出すと、胃の奥が重く沈むような感覚に襲われる。


 次に顔を合わせたら、どんな顔をすればいいのか。謝るべきなのか、それとも……何も言わない方がいいのか。


 社長室の中に、沈黙が落ちた。時計の針が、やけに大きな音を立てて進む。


 しばらくして、店長が軽く手を叩いた。


「じゃあ、着替えてきて〜」


「え?」


「今から特訓するからさぁ〜。」


「と、特訓……?な、なんのですか……?」


 店長は笑みを崩さないまま、コーヒーカップを机に置いた。その瞬間、空気が──変わった。


 冗談めいた笑顔のまま、声の温度だけがすっと下がる。


「そりゃあ──」


 短い間を置いて、


「殺しの。」


 僕の背筋を、氷のような汗が伝う。店長は微笑んだまま、まるで何でもないことのように言葉を続け

た。


「生き残りたいなら、覚えないとね〜。」


 その笑みが、今まで見たどんな笑顔よりも恐ろしく見えた。


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