第14話 自己紹介
彼女は、怒気をより強める。
「何で!?おかしいでしょ!?」
対する店長は、笑いながら。
「いや~。『りうか』も人手が足りなくなってきたでしょ~…だから、彼にも手伝ってもらおうかなぁ~って。」と言う。
彼女──スズメさんの声がさらに高く跳ねる。
「それに、こいつ、『トリカゴ』のメンバーじゃ……っ……まさか……。」
その瞬間、店長の口元がゆるやかに歪んだ。
「ごめ〜ん。彼もう、『トリカゴ』に入っちゃった!」
「ふざけんな!」
ナイフが風を裂き、一直線にドバトへと飛んだ。
ひゅっ──。
店長は身をひねるだけで、刃は空を切った。金属が床を転がり、甲高い音を立てる。
「も〜。怒んないでよぉ〜。」
飄々と笑う店長。
スズメさんはそのまま、バタンと女子更衣室へと消えていった。
残された空気は、怒気と緊張の匂いをまだ引きずっている。
「まぁ〜、彼女は、置いておいて、自己紹介をしよ〜。」
場違いな明るさで笑うドバトに、僕と赤毛の青年──セッカは目を合わせた。
「じゃあ〜まず、僕から〜。店長のドバトでーす。基本、厨房で料理してま〜す。次〜。」
そう言って、店長は、青年を指さす。指をさされた青年は、元気に手を挙げる。
「自分は、セッカって言います!僕も厨房で料理を担当してるッス!人手が足りなくなった時は、接客もしてるッス!」
明るい声に救われるような気がした。そして、二人の視線が僕に集まる。
「ぼ、僕は、田中初と言います。あの…仕事とか…したことがなくって…ご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします…。」
頭を深く下げた。すると、セッカさんが笑顔で僕の肩をポンッと叩く。
「安心してくださいッス!自分が教えますッスよ!」
その笑顔がまぶしくて、思わず胸の奥が温かくなった。
───めちゃくちゃ良い人だなぁ………………殺されかけたけど。
「で〜。さっき、怒ってたのがスズメて言って、基本、接客とかを担当してるかなぁ〜。基本、この3人でやってるからよろしくね〜。さ、開店準備するから着替えて〜。」
店長は軽い口調のまま、奥の店長室へと消えていった。
僕と、セッカさんは、ロッカーに入り、制服に着替える。セッカさんは、着替える僕の顔をマジマジと見て何かに気づく。
「あ〜!初さんってこの前、ウチの店に来たっスか!?」
「は…はい…。」
「めちゃご飯頼んだ人のお連れさんッスよね!」
めちゃご飯頼んだ人──セラさんのことだ。
「そ、そうです。すみませんなんか…。」
「いえいえ。お客さんですから!でも…オーダー入った時、ドバトさん、半ギレでしたけどね!」
この話は、店長に知られてはならない。そう思った。




