第12話 誤解
「うゎぁぁぁぁぁぁ!」
男の叫び声で目が覚めた。気づけば更衣室の電気がついていた。
ぼんやりする頭を動かし、声がした方を見てみる。
店長とは、違う、青年がいた。
「だ、誰ッスか?」
赤毛の青年だった。髪は跳ね、目は大きく、声と同じく全身がやたらと元気だ。
───多分、この店の定員だ…。変な、誤解を与えないように自己紹介をしよう…。
「ぼ、僕は───」
名乗ろうとした瞬間、彼の手が腰に伸びる。そして、銀色の銃が抜かれた。
「ど、泥棒ッスね!」
言葉よりも早く、銃口がこちらに向けられた。冷たい金属の穴が、まっすぐ僕の額を狙っている。
「ちょ、待っ──!」
僕は、急いで逃げようとした。しかし、寝袋がひかかって動けなかった。
「死んでくださいッス!」
パンッ
乾いた破裂音。空気が一瞬、真空になったように静止する。耳の奥がキンと鳴り、頬に焼けたような痛み。弾丸がかすめた。
「ま、待ってください…。」
「なんスか。泥棒が…。」
青年の声には容赦がない。再び、銃口が持ち上がる。照準が僕の心臓に向いた。
──選択を間違えたら死ぬ。
言葉を選べ。喉がひりつく。必死に声を絞り出した。
「きょ、今日からは、働く事になりました、田中初で、です。よろしくお願いします。」
「はぁ…?」
青年は目を瞬かせた。眉がぴくりと動く。
「店長から、そんな話は、聞いてないッスけど……」
「えっ…。」
───終わった〜。
「って事は、嘘つきッスね!」
再び、銃口が持ち上がった。今度こそ撃たれる。
完全に終わった。長いようで短い二十七年だったな──。
「すとーーぷ」
低く、伸びる声。黒髪の店長が、間に割って入った。
「あ、店長!」
青年の銃口が下がる。
「聞いてくださいッス!ロッカーに泥棒が!」
店長は、まるで寝ぼけた猫のような調子で笑った。
「ごめんねぇ〜。伝え忘れてたぁ〜。」
そういい、青年に僕が今日から働く旨を伝えた。その間に僕は、とりあえず、寝袋から出る。
話を聞いた青年の顔がみるみる青ざめた。
「え、ええぇ!? す、すみませんっ!! 本当にすみません!!」
慌てて頭を下げる赤毛の青年。
「い、いや、こちらも、なんか、すみません…。」
……マジで死ぬかと思った。
昨日の明日、「殺されないようにね〜」という店長の言葉が、冗談じゃなかったと悟った。
──この職場、こわすぎる




